勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
36 / 519

【18.5話】 リリアと戦闘技術 ※18話の数日前の話し※

しおりを挟む
ランカシム砦に来て、一週間くらい経っただろうか?
リリアは傭兵混成部隊から弓兵隊に編入されていた。リリアにとってはありがたい。戦場において生存確率が上がることは何事にも代えがたい。
傭兵混成部隊は“挽き肉仕事”と呼ばれている。身元の明らかでない、実力にムラがある部隊は予備、正規兵よりも最前線に立たされる。当然相手部隊も同じこと。オーガ、オーク、リザードマン、ウルフマン、ベアマン等の戦闘民族に混じり、お互いに血で血を洗い、骨まで砕けるような戦闘の最前線に出され、その勝敗の後を、これまた大型兵器が屍を挽き肉に変えながら前線を拡大していく。死んでも生きていても挽き肉作りの一環。

リリアのアーチャースキルはかなり認められ、狙撃手をも勧められた。軍の狙撃手を務めるには、まだまだ訓練が必要だが、訓練次第ではそのレベルに成り得ると訓練教官に勧められた。狙撃手に採用されれば、兵卒長以上の職と待遇になる上、乱戦のような不確定要素の強い戦場には出なくてすむそうだ。
リリアはその話を保留にして、訓練だけ参加している。
向かって来る敵を倒すならまだしも、そうではない特定個人を相手に矢を射る事にリリアは抵抗を感じる。


リリアは傭兵に参加した事を有意義だと感じている。この数日だけでも、かなりの戦闘技術が向上し、自分の弱点もはっきり見えてきた。
父ガウが「お前はシェリフになれる」とは言っていたが、リリアに戦士になれるとは一言も言わなかった。恐らくガウはリリアに戦士、兵士になること自体望んでいなかっただろうが…
リリアは時々ガウの言葉にあった、シェリフと戦士になって戦うのとどう違うのか疑問に思ったことがあったが、軍の訓練でその答えははっきりと出た。
村で文明地に出てくる魔物や自己流で剣を振り回す盗賊とは格が違う。
今までリリアが対応してきた武器なんて剣と槍くらいだ、しかもほとんど人間相手。
まず、物理攻撃に限っても武器の種類が違い過ぎる。剣、槍、薙刀、ハンマー、モーニングスター、レイピア、ハルバード、クラブ、クロー、フォーク、アックス、名前を上げたらきりがない。それぞれ特徴を把握して対応しなければならない。中には隙と間合いを与えれば、これらの攻撃の間にダガーを投げ込んで来るものがいる。リリアにしたら農具の鎌でさえ、扱う相手によっては異形の武器に十分だ。
これらの武器を手にしたオーガやウルフマン等が圧倒的なスピードとパワーの差で踏み込んでくるのだ。
リリアには逃げ回るのが精いっぱいだ。盾や武器で打ち合わせて防御するなど不可能。盾の上からぶっ飛ばされくらいだ。まして武器で防御等何の意味も無い、体ごと真っ二つにされるだろう。
逃げ回り、死角を突いて攻撃しようと工夫したが、死角に入って踏み込もうとした瞬間に武器を持っていない空いた手で、張り手をされて弾き飛ばされた。人間相手にはあり得ない動き。こんな状態なら開戦のドラが鳴り終わるころにはリリアは死んでいるだろう。
彼ら曰く、研究、工夫等をすること自体、すでにリリアは向いていないという事。遠くから弓で狙い、近づかれたら逃げ回れと笑われた。くやしいがその通りだ…
傭兵をしていたガウとアランはこの中で生き残ってきたのか…
同じ人間とは思えない…

ガウがリリアに弓を与えた意味が今になってわかる気がする。
自分が勇者の子孫である事を誇りに思っていたガウがリリアを農家以外の道に進ませる精一杯の育て方だったのだろう。母メルはリリアが武器を持つことに最後まで反対だったようだが。
もしかしたら、二人ともリリアが村でじっとしているような性格では無い事を幼い頃から見抜いていたのかもしれない。


「父さん、母さん、あたし今の生き方満足してるのよ…」
リリアは兵舎のベッド上でペンダントを見つめながら呟いた。
辺りは大男たちの大いびきが響いていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

処理中です...