勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
64 / 519

【32.5話】 真の勇者と偽勇者 ※少し前の話し※

しおりを挟む
リリアは雨に濡れながら、村外れの木陰で弓を抱え寝ようとしていた。
もう夜中過ぎ、目と鼻の先には村があり、柵の向こうにはキャラバンが休んでいる。人の話し声、笑い声が明るく響いて来る。リリアは濡れながら木陰で潜むように座って休んでいる。体はびしょ濡れ、悔しいのと悲しいので寝ようにも寝むれない。

日が暮れてからこの村に到着したリリア。ちょうど雨も降り始めた頃にようやく宿屋に飛び込む。やれやれぎりぎり雨に濡れずに済みそうだ。


宿屋にチェックインしようと宿泊カードに必要事項を書き込んで受付に渡すと尋ねられた。
「リリア…様ですか? 勇者リリア様」
“あら?あたしが勇者リリアだってばれちゃっているのね?こんなちっぽけな村だけど、ちょっとやるじゃない。サインでも握手でも気軽に応じるわよ”認定勇者は国の顔だ、印象良く、愛想良くニコニコと笑顔を見せるリリア。
「あの、困るんですよ、ちゃんと本当の事を書き込んでください」
強い口調で注意された…

リリアは宿屋のカウンターでもめている。
何でも最近、勇者リリアを名乗る女性冒険者が急増中で、この宿屋でも偽の小切手をつかまされたらしい。そんな事とリリアと何の関係がある!!
リリアは自分が本物だと言い張るのだが、いい加減にしろ的な扱いを受ける。カウンターの小娘生意気だ、いちいちとげのある嫌みな言い方をしてくる。ちっぽけな田舎は宿屋の教育もなっていない、嫌になっちゃう。
あんまり言い方に腹が立つのでリリアは
「うるっさいわねぇ!そんなに言うなら朝食込みで現金前払いよ!」と支払いをぶん投げてやると、その受付のときたら、「脅されて、コインでケガさせられた」とうずくまって騒ぎだした。
くだらん、バカバカしいと思っていると、宿屋の用心棒が二人来た。
「ちょっと何すんのよ! 出ていけ?つまみ出してやる? 冗談じゃないわよ、お金払ってるんだから! だから触らないでよ! この娘があまりに失礼だからよ!」
アウェイ感爆発だが、リリアは悪くない。用心棒達を振り払う。
“こっちは客よ、つまみ出されるなんてとんでもない、酒のつまみの一つでも出される身分“
もめていると今度は村のシェリフが来た。
“シェリフが来てくれた、あたしもシェリフあがり、やっと話の通じる人達!”っと思ったリリアだが、ちっともリリアの話を聞こうとしない…

「偽勇者から被害?お気の毒様、でもあたしには関係ないでしょ!! だからリリアよリリア! 本物よ! 証拠? ほら、ギルド証… 聞いたことないギルド?… あんたらが知らないだけでしょ!…あるのよ! 住所ここ!ギルドの登録番号がこれ!… リリアの冒険者登録番号がこれ!… フルネーム? どうかしてんじゃない?信用ならない相手にフルネーム名乗るわけないじゃない! この村に国の機関は無いの?問い合わせなさいよ!」
相手はハナっから追い出そうとしているのだから、何を言っても通じない。
受付の娘はうずくまり、脅されて、暴力を振るわれたと泣いている。
冗談じゃない!なんで偽勇者のせいで本物勇者がこんな酷い目にあわされるんだ。リリアだってささやかだが国民を救っている、こんな事にくじけてられないのだ。
「勇者がこんな村に来るわけない? 勇者は、冒険者は行きたい所はどこでも行くわよ! 勇者の鎧?恰好が勇者じゃない? 何着たっていいでしょ!勇者の自由よ! 偏見よ、偏見!」

シェリフと用心棒達が強硬手段に打って出だす
「いや!なんであたしが! 本当よ!本物なの! 大人しく出ていくか?牢屋に入るか? 冗談じゃない、お金も払ってるのよ?… 牢屋なら罪名は何よ!違法逮捕よ!…… 脅迫?暴行傷害?偽称?公文書違造? バカな事言わないで、本物だったら! 武器準備罪?弓刀法違反? じゃあそこで飲んでる人達どうなの!剣を帯びてるじゃない! 弓を手に持っている?たまたまよ!弓は手で持つでしょ!ルーダリアの通貨を投げたから侮辱罪?」
いくらでも押し付けてくる、こんな不正行為があるか!許せない。
「気が強そうな顔してる?殺気のオーラが出てる?胸が大きすぎて異性誘惑罪?公然猥褻? いいがかりじゃないの!こんな事が許されると思ってるの?」

いい加減にしろと、寄ってたかって押さえつけられそうになるリリア。
取り付く島もない。リリアは国のために努力しているのに誰もリリアには協力してくれない。泣きそうだ。
「痛い、やめて!痛い、いたあぁい!」すっかり犯罪者扱いだ!不当だ!酷すぎる!
リリアの髪ひっぱらないで!最近奮発してちょっと良いシャンプーしてるのよ!
リリアの腕はそんな方向に曲がらないのよ!脱臼しそうよ!
ブラウス破れちゃう!レース付きの新品なのよ!気に入ってるの!雨が降る前に必死にここまで来たのよ!やめてったら!
ちょっとかってに弓に触んないで!尊敬するローゼンさんからもらった大切な高級品よ!リリアの稼ぎじゃ買えないんだから!
やめてったら!今日せっかく弦を入念に調整したんだから!武器屋に頼んだらいくらすると思ってんの!微調整を重ねてやっと納得いくセッティングしたんだから!
いやぁぁぁーーー、ホントにそれ勘弁!ペンダント触れないで!父さんと母さんの形見!痛い!チェーンが切れちゃう!何でも言う事聞くからペンダントだけはやめてえぇぇ!

「や・め・て・よ!」リリアは叫ぶと「バキ!」っとシェリフを殴ってしまった。
“あぁ、思わずやっちゃったもう言い逃れ出来ない”リリアは用心棒も振り払うと宿屋から逃げ出した。

雨が降り出し、闇になった村を物陰に潜みながら逃げ回るリリア。すぐに応援が呼ばれ、村のシェリフや自警団がリリアを探し回り始めた。村内にリリアの居場所はない。リリアは柵を超えて、森に逃げる。本当に犯罪者扱いだ。
森に逃げたが、森の中深くをさまようわけにもいかない。命の危険を冒すくらいなら、村で捕まった方がまし。
結局、いつでも村に逃げ込める距離の木陰に潜んで朝を待つことにした。
村ではリリア狩りを諦めて静かになって、休息中のキャラバンから人の話し声が聞こえて来た。
リリアは腹が立つやら悔しいやら、全てがバカバカしくって涙も流れない。

「せっかく調整したのに弓が湿気ちゃう」リリアは呟きながら雨を凌げるように弓を抱えて木陰に座っている。
リリアはへとへとに疲れているが、まだまだリリアに眠気が訪れそうにはなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...