勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【60話】 ポーションとお花摘み

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「ちょ、ちょっと、あたし… お花を摘みに行ってくる」
たった今、5人チームでストーンゴーレムを数体倒したリリアが大きく息を切らせ言う。
お花を摘みにとは、いわゆる登山者等が言うところのトイレの事だ。
「私もお花摘み行きたい」オフェリアも続く。
「お前らさっきからいい加減にしろよ」男達から笑われる。
「仕方ないじゃない。男なら立ってお花を摘める方よ、すぐもどるから」
リリア達は少し離れて行った。

爆発事件があってから3日は葬儀やら報告やらで忙しかったが、石切り場周辺と山頂の祠への掃除を再開。
石切り場周辺は多少魔物が残っているが、バフダン岩はだいぶ数が減ったので、5人グループに分かれて周囲の魔物を掃討し始めた。やはりストーンゴーレムが多い。
今回の事でシェリフと自警団の数が最大数まで増員された。どちらにしても村は兵が野営していて、治安の方は問題無さそう。
予定より早いが施設には工夫、作業員が入り始めた。柵を超えて岩が入って来たのなら柵も高くしなければいけない。

とりあえずリリア達は、石切り場周辺のストーンゴーレム退治。これが大変。
まず、対ストーンゴーレム用に鉄の大ハンマーが渡された。超重量。
ストーンゴーレムは動きが遅いが、凄いパワー。身長は低めだが体が石なのでパンチがヘビー級。矢等はもちろん、剣等の刃物もほぼ効果が無いので、重い鉄槌で“ゴン!!”と殴りつけて破壊するのである。オーガあたりなら問題無く振り回せるが、リリアでは「よっこらしょ」とフラフラ振りかぶり、「でや!」とおへそに力を込めて振り下ろさないとどうにもならない。当然攻撃精度は落ちる。
因みに「無駄だ」と笑われながらも矢で射てみた。
コチっと小さな音を立てて矢が弾かれただけで、振り向きもされなかった。無視か!
オーガだと鉄槌2発から3発で倒せる。リリア一人では7発程度(空振りは含まず)。
で、動きが遅い代わりに呪文を使う連中なのだ。一説に寄れば、ストーンゴーレムは森の妖精類だとか何とか…
とにかく、呪文にかかると恐怖するとまでは言わないがやる気を削ぐ様な、無気力な感じになる。
一般人ならこれで、恐らく闘争心を失って退散するのだろう。
そうのん気な事はしていられないので、気力回復系や勇ましくなる系のポーションを飲むのだ。
が、あっちこっちウロウロしている連中と戦うのだから、飲む量も増える。
当然、お花を摘みたくなる回数が増えるのだ。それが今のリリアとオフェリア。
まぁ、全員お花摘みたくなる。


「いやぁ、トイレ、トイレ、さっきから我慢してたのよ」リリア。
「精神高揚系のポーションあんな量飲んだら夜寝れなくなるんじゃない?」オフェリア。
「そういえばこの仕事って夜は男女大暴れって聞いたけど、それのせい?」リリアが苦笑い。
「これだけ飲んだら、カロリーオーバーで太りそう」
「夜、大暴れしたら痩せるわよ。そもそもこれだけトンカチ振り回してるじゃない」リリアは笑う。
リリアは用を足すがトンカチの振り回し過ぎで手がプルプルしている。

お花摘みから戻るとグループで少々休憩。
「あたし、もう手が綿のようよ、弓なんて狙えたもんじゃい」リリアが言う。ポーションでお腹がタプタプしていて水を飲む気にならない。見ると誰も水筒を手にしていない。
「ハンマー振るのは大したことないが、お腹が張っていかん、今夜は酒どころじゃないぜ」オーガが笑う。
「やっぱり呪文の影響はあるのね。バードってなかなかこういう仕事には雇われないけど、薬に頼らないって意味では大切な存在よね」リリア。
「確かにね、薬草ならまだ良いけど、体力ポーションと気力ポーションのLをがぶ飲みとかすると吐くものね」オフェリアが答える。
「人間どもの体力なんてたかが知れているだろ。俺達オーガの体力全快に飲む量なんて半端じゃねぇ。あれだけで薬中になっちまう」
「俺も経験あるな。戦闘前に貰った一定回復薬を飲んで、レッドゾーンからの体力全快を三回した時にはさすがに吐いたぜ」
「リリアも見たことある。回復ポーションをビンごとあおる様にラッパ飲み。異常な光景よね」
「バード一人分頭数になるし、演奏が聞こえないと効果が出ないからなかなか雇われないけど、実際はメリット多いのにねぇ」オフェリアもバード参加に賛同。
「演奏しねぇといけねぇからな。魔法やポーションの方が手っ取り早いが」
「その演奏を続けるために一人、護衛が必要だったり」リリアが笑う。
「でも、居ると助かるのよねぇ」オフェリア。
「夜の休息は食事にお酒に豪華生バンド。ね?」リリア。
「あれだけでも違うのにね。雇う側は理解してくれないのよねぇ」オフェリア。
「あいつら引退も早いからな」
「やっぱり?あれ何でなの?」リリアが不思議に問う。
「決まってんだろ。モテるんだよ」
「だからそれよ、リリアが不思議なのは。モテるみたよねぇ」
「そりゃ、疲れた時に演奏で慰めてみろ、いちころだ」
「吟遊詩人なんて男は皆、遊び人のタラシだぜ。女は結婚目当てだ」
リリアはバーのコトロを思い浮かべる。
確かに、魔物とボロボロになって戦闘した夜に、お酒の飲んで夜空の下であのリュート演奏されたら、リリアだって押し倒したくなるかも知れない。


「そろそろ、仕事に戻るかぁ」誰からとなく立つ。
このまま夕方まで掃除を続けたら恐らく明日から祠目指せるだろう。
「ねぇ、お花摘みはいいの」リリアが聞く。
「俺達は飲む量も凄いが、蓄えられる量も凄いんだ」笑ってる。
「俺達は人間より何でも凄いんだぜぇ」
出た出た、冒険者系の下ネタ。リリアもオフェリアも適当に相づちしながら装備する。
「夜のお花摘みならいくけどな」
「どうせあれでしょ、花の名前はリリアとか言うんでしょ。バレバレよ」
「わっはっは、よし、決まりだな!摘みに行くぜ」
「ダメよ、時季外れ。来たら腕ひしぎ逆十字固めよ」
リリアが断ると男達から笑い声が出た。
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