勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
134 / 519

【68話】 優者とゴブリンと村人と

しおりを挟む
リリアはゴブリン達に打開策を提案して村に戻った。
伐採場の建物周辺を共同で使える打開案。街の港湾、倉庫街、キッチン等でゴブリン達が人間と働いている。まぁ、実際は使われているというのが正しいようだが、とにかく、村が伐採に建物を使い、ゴブリンが手伝う事で建物を使え、仕事にもなり、両方の希望をかなえて双方得もある、って策。
これは「なるほど」オフェリアとオルデロも感心。実現するかどうかは別だが…
ゴブリン達も納得したようだが「そんな事できるのか?人間はそんなに柔軟な考えか?そんなに平和的な生き物か?」と心配もされたが、リリアがとにかく明日までは待ってくれと頼んで村に戻って来た。

翌朝、共同生活案を村に提案したリリア。
「ふざけるな!!」「時間の無駄ばっかりしやがって」「ゴブリンに言いくるめられたか!」「俺達の土地だ、取り返せ!」と大激怒。
リリアの話しなんか聞く耳持たない。
「魔物はいなくなった。建物までは行けるなら、俺達で始末するまで」と、とうとう武器を手に討伐準備を始め出した。
大慌てはリリアだ。「もう一日待って」とゴブリンに伝えてしまった。リリアを信用して待っていたら、村人が武器を手に雪崩れ込んできたとなれば信用問題にかかわる、というより、ゴブリン達に申し訳が無い。
「待って待って!期限まで後一日あるじゃない!せめて今日まで待って!」
必死になって村人を止めるリリアだが、だれもこんな若造の言う事に耳を貸すものはいない。
もう止められない。とにかく、この事態をゴブリンに知らせなければ。リリア達は必死に先回りして建物に向かった。

「ちょっと!皆逃げて!」「村人が武器を持ってくるぞ」「とにかくここを離れて!」
リリア達がゴブリン達の輪に駆け込む。
「今日まで待てって言ったのお前だろ」「人間が襲って来る?明日まで話し合いだろ」「急に言われても、家族もいるし」ゴブリン達も事態が飲み込めずマゴマゴしている。
「そうだけど、違うの。明日までだったけど、今来ちゃうの!逃げて!とにかく逃げて!」必死に説得するリリア。
言っている間に村人、シェリフ達が武器を手に雪崩れ込んできた!
「待ってまって!殺すことないじゃない!せめて逃がせてあげて!」
村人に立ちはだかろうとするリリアをオフェリアとオルデロが引き止める。
「危ない!もう無理だ!おまえが殺されるぞ!」

狂気の叫び声、怒号、阿鼻叫喚、目の前でゴブリン、村人双方に犠牲者が出ていく…

戦闘は四半刻も無かっただろうか。ゴブリン達は子供も含め十名程度の死者を出し潰走していった。村人は犠牲者一名、重軽症者五名。
リリアは「ごめんなさい」と繰り返して地面にへたり込んで泣きじゃくっている。
村人は犠牲者と怪我人を村に帰すと、建物の掃除などを始めた。
「おまえら、メソメソしてないで少しは手伝えよ」と聞こえよがしに皮肉を言う者もいる。
さすがにオフェリアも腹が立った。リリアの理想論とやり方も問題があったが村人も非道な上にかって過ぎる。そもそも、魔物が蔓延っていて村では手出し出来ないからとリリアが掃除して道を作ったのだ。約束の期限までは待ってくれても良いではないか。リリアの共同生活案も悪いイディアでは無かったはずだ。ゴブリン達は真剣にリリアの話を聞いてくれていたのに、肝心な人間が全くリリアの話を聞こうともせず、殺戮の所業に打って出たのだ。相手が、勝てるゴブリンだけとなった途端、武器を持って襲い掛かる、卑怯で臆病はどっちだと言ってやりたい。オルデロもさすがに怒りを禁じえないようだ。

「リリア、さぁ、行くわよ。もう私達のやることはないわよ」
オフェリアが言うが、リリアは立ち上がる気力もないようだ。気の毒で仕方がない。
「… オルデロ、もういいわよ。約束の報酬出すから、解散しましょう」オフェリアが言う。
「… あぁ、俺も仕事キャンセルしてるから報酬は…ね… でも、リリアちゃんが心配だろう。せめて一緒に村まで戻るよ」
「ホイルテッドには戻らない。その方がリリアにも良いでしょ。ここからなら西の村に向かうから」
「おまえら村に荷物あっただろう」
「… いいわよ、必要な物は持ってるし、置いてあるのは買いそろえられる物ばかり。村に戻らない方が良いわ。私も戻りたくないし…」
「… そうか… とにかく道まで出よう。リリアちゃんを何とかしないと」

二人は話し合い、リリアを振り返る。
「……… あれ?リリア?」
リリアがいなくなっている… どこ行った?…
向こうでは村人達が作業中。
「あいつ等何の役にも立たないなぁ」と嫌みを聞かされる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...