勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
162 / 519

【81.5話】 悪堕ち勇者リリア

しおりを挟む
古戦場見学の次の日、王都に着いたリリア一同と藁君。
フレイラはこの少し先の町までリリア達と同行。
家族達はここで教会を頼って解散。教会でお世話になりながら、仕事を探して家族で暮らす。
大人には深々と感謝され、子供達とは泣いてお別れ。苦労が喜びに変わる瞬間。
「フレイラ、リリア、オフェリア、ペコ、アリス、ありがとう!」
子供達は泣きながらハグの嵐。特にフレイラは魔法が使える優しいお母さんを絵に描いた様な見本。子供達の夢の母親像。
本格的に家族を保護しながらの旅は初めてだったリリアだが、想像以上のプレッシャーだった。緊張の連続。見えない国民大勢のために魔物を倒す戦いのプレッシャーがどうなのかリリアには想像できないが、目の前の二家族を保護するプレッシャーの重さは凄かった。


さて、その日の夜は王都の宿屋で家族無事到着の祝杯を上げたリリア達。
大いに盛り上がるリリア達のテーブル。和気あいあいとするテーブルに途中から男性達も加わり皆それぞれ羽を伸ばした。
「王都見学もしたいし、何日か休息日にしようか、明日はノンビリ起きて来て大丈夫よ!」ほろ酔いのオフェリアが提案すると
「やったーーーー!最高――!」テーブルが盛り上がる。
それぞれ男性と盛り上がるリリア達。今夜は野暮な詮索無し的な雰囲気。
リリアは水も滴る的な美男子と盛り上がっている。
「リリア、あなた兵士の彼氏いるんじゃなかったっけ?」オフェリアが意地悪に笑う。
「お気に入りだけど、彼氏じゃないよ。兵隊さんも適当に遊ぶんでしょ。今日はリミッターカットよ!いえーーぃ!」メッチャ楽しそうなリリア。
「俺、実はインキュバスなんだよ」美男子がリリアに微笑む。
「イン… インキュ… 何?あぁ… インキュバスね! 面白いじゃない!イケメンイケメン!それだけイケメンならインキュバスで通用するよ!あっはっはっは」ご機嫌に盛り上がっている。
ペコが吟遊詩人にチップを払い生バンドでカラオケを始めると更に盛り上がりだした。
夜更けになり、テーブルはポツポツと空席が出だした。当然リリアも適当に美男子とともに席を立つ…


オフェリアは激しいノックの音で目が覚めた。結構日が高い。ドアを開けるオフェリア。
「ちょっと、リリアの部屋に来て。様子が変なの」アリスとペコが慌てている。
“リリアの様子が変? 何だか嫌な予感がする… リリアの事だ、想像を絶する事態に陥ってそうだ”
オフェリアは着替えてペコ達に続いた。

「どういう事これ?」オフェリアが驚く。
確かにリリアの様子は変だ。何と表現するべきか…
服装とか外見に目立った変化はないのだが、何か悪女的オーラを発散している。
何だか言い知れぬ氷の美女的な感じで、装備もいつもと変わらないけど、悪ぶった感じの悪い女ボス的にダークにスタイリッシュなっている。なんだこれ…

「昨日リリアと一緒にいた男、やたら美男子だったでしょ?頭に羊の角が生えていてゴートマンかと思っていたのよ。俺はインキュバスだとか言っていたけど酒の席の冗談だと思っていて…」フレイラの見解。
「え~~!じゃ、リリア、インキュバスの影響受けちゃったの??」一同驚く。

インキュバスと寝たリリアは悪堕ちリリアになっていた。
なんか知らないけど、ワルかっこいいリリア。

で、リリアは… 悪堕ち勇者リリアは悪くなっていた。 悪堕ちですから…

「リリア、しっかりしなさいよ!目を覚まして!」オフェリアが心配する。
弓以外は無駄に正義感が強いところがあるだけの大したことない勇者だが、その正義感さえ失われてしまったら、弓しか残らない。勇者ではない、者だ。つまり完全なる一般人。
「なにさ、気安く呼び捨て?… にしてもこんな小汚い宿、宿賃踏み倒してやるわ」
リリアは悪くなっている。

それから一同は大変だ。
リリアは食い逃げをしようとするし、宿代を踏み倒そうとするし、アリスのスープにかってにタバスコを大量に入れるし、ペコのクリスタルロッドを質に入れようとするし、コーヒーに砂糖と偽って塩を渡すし、とうとう道端で少年からポップコーンを取り上げようとまでしていた。極悪リリアだ!
「リリア、悪くなったね」
「悪堕ち勇者って、ああなるのね、不味いよね」
「大変、何をしでかすか予想もつかない」
「リリアから、あの中途半端な正義感を失くしたら何も残らないね」
「とにかく皆で見張ろう。あんなんでも名目上は公認勇者よ。何かあったら外交問題よ」
皆で協力して治るまでケアするしかないようだ。
悪堕ち勇者の極悪非道が続く。
「トイレで用具箱のクレンザーを個室に投げ込んで誰かを粉まみれにした上、一ロール持ち去ったわよ」
「転がって来たボールを全力で別方向に投げて子供に拾わせに行かせてた」
「レストランのオープンサインをクローズにひっくり返してたわ」
「ナンパしてきた男に、あたしに惚れると火傷するよ!って嘯いていたよ」
「かってな住所を語って、ピザを3枚、配達させようとしてた」
「街中で、あ!未確認飛行物体!ってあらぬ方向を指して、皆が空を見た時には身を隠してたのよ」
「… 悪いにも限度ってものがあるわよねぇ…」
そして、誰ともなく同じ意見を吐き出した。
「悪堕ち勇者だけど、規模が… スケールが小さいわね… ケチくさいというか… しょぼいというか…」
「悪堕ち勇者って、魔王と世界の半分をシェアして支配するとか」
「街を破壊しようとして私達全員で、目を覚まして!とか叫びながら格闘するとか」
「国家転覆を計るとか… 全然違ったね…」
「… 皆何か勘違いしてない?元がリリアよ。突然そんな能力が覚醒するわけないでしょ」
「悪堕ちしても能力自体は変わんないのね」
「勇者として大したことないなら、悪事も大したことないのか…」
「あれなら、放っておいて、あのままでも良いんじゃない?」
「……… そうねぇ… あれで良いか…」
「… いや、だめでしょ… まずいでしょ。勇者がコソ泥みたいなけち臭い事で捕まったら恥でしょ」
その時、国立図書館からフレイラが戻って来た。
「悪堕ちリリアちゃんの洗脳を解くのに、シャーマンの力が要るみたい。知り合いと図書館で調べたけど、王都の近くにシャーマンの集落があるらしいのよ。連れて行ってみるしかなさそうね」

そんなわけでリリア達は寄り道をしなければいけない破目になった。
リリアは真剣に会議中のペコに膝カックンしてひっぱたかれていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...