勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【137.5話】 リリア・ブラック・ダカット  ※昨晩の話し※

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村で宿に入ったリリア、ブラックとダカット。
ダイニングでのひと時も終わり、リリアの部屋で部屋飲み会になった。
夕方過ぎから外は結構な雨。明日も土砂降りが続いてキャラバンが欠航するなら休息日にしようと話している。まぁ、明け方までには雨もあがりそうである。

ルーダ・コートの街を出発したばかりだが珍道中の予感。
まず、リリアははっきりと誰が公認勇者で誰が勇者リリアなのかを名乗るようにした。
「勇者です!」と言うとリリアを知らない者はほぼ間違いなくブラックを眺める。
そして「ふむふむ、なるほどなるほど」と納得している。
まぁ、これはリリアを慕う後輩が勇者たるビジュアルを備えている証拠であり、不満に思う事でもない。
で、たいてい「おたくはどなた?お仲間さん?」っとなる。
これも百歩譲れる。リリアは自己主張の強い部分を取りざたされやすいが、普段は案外淡々と勇者業務に励んでいるのだ。人にどう思われるか、どうでもよい。
ただ、国の冷遇ぶりと王国民の偏見があまりにも強すぎて「待て!てめぇら、言いたい事いいやがって、こっちは痛い思いして仕事してんだ!ちょっとは理解しやがれ!」と不満を爆発させるのである。
まぁ、「おたくどなた?おたくが勇者の方?」となった時の反応に納得がいかない。
「そっか、おたくが勇者の方ね」程度なら良いが十中八九「いやぁ… それは無しでしょ…」的な目なのだ。たいてい鳩が豆鉄砲を食ったような顔でリリアとブラックを交互に見られる。
“勝手に勘違いして真実を知ったら勝手に失望しやがって!動く失礼オブジェめ!”
リリアはイラっとしている。だからハナッから強く名乗ることにした。

ホウキのダカット。
リリア以外にはめったに声を発さない。ブラックとは会話を少しする。
大陸では精霊、使い魔、宿り魂等珍しくないのでダカットが黙っていてもそれっぽく扱ってもらえる。ちょっと「本当に主従関係成立しているの?」的な視線ではあるが…
ダカットは話す以外全く自立行動が不可能なのだ。
リリアが担いで回る。背中に荷物、腰に剣、ダガー、その他スモールアイテム、弓を手にあるいは担ぎ、プラス手にダカット。
よくホウキを担ぐ魔法使いの姿が描かれる。刷毛を上に肩に担ぐのが一般的。
安定するし、毛を下にすると足にチクチクする。はやり肩がピンとくる。
が、ダカットは違う。
宿る経緯が特殊なせいか、刷毛を上にすると不具合があるらしい。
「…… リリア… すまないけど… 俺、持ち手が上なんだ… 逆さに担がれると世の中が逆さまで酔う…」ぼそぼそっと訴えられた。
リリアは刷毛を下に持つが、はやり足がチクチクだったり収まりが悪い。
背負うにもひっかかりが無いので動き回るとスルっと抜け落ちるのだ。
魔物との戦闘中、ダカットを紛失しかけた。
戦闘後、探し回ってようやく草むらにひっくり返っているダカットを発見。
「… もう、二度と会えないかと思ったよ…」ダカットは呟いていた。

何故ホウキなのだ。ネックレス、彫刻、水晶、帽子、何でも選択しがあるのに…
いや、経緯を考えると仕方ないのだが、よりによってホウキ…
あまりにも魔法のホウキ、空飛ぶホウキがメジャー過ぎて、ただのホウキでないとわかると「ちょっと空飛んでください」と頼まれる。
「観光業者じゃねぇやい!」って言いたくなるけど、空を飛べると信じている連中、勇者が魔法のホウキで自分の生活を助けてくれると思い込んでいる連中には通じない。
「税金で勇者してるくせにケチだな!国民のささやかな願いも聞き入れないのか」とクレームが出る。
「… と言うのは冗談!あたし、妄想癖と独り言の癖があるんだよね。これはただのホウキよ。れれれのれー」と掃き掃除してみせるリリア。面倒事が多すぎる…

ダカットをテーブルに立てて食事をしていたら「不衛生だから掃除道具は持ち込むな」等、細かい事を上げたらきりがないくらい珍事が発生する。
「… ごめんよ。だけど俺70年間森の中だったし、もうすぐお墓に入るなら世の中を見たくって…」
こう言われるとリリアだって「あんたは部屋で待ってなさい」とは言えない。
極力持ち歩いては珍事に巻き込まれている。
「さすが先輩っす!」ブラックは感心している。


先ほどまで宿の食堂で飲み食いしていた三人。
猫人の冒険者達がホウキにダカットが宿っているのを見つけ出して、リリア達とテーブルを囲んでワイワイしていた。やはり、亜人には感じれるというか見えているというか…
とにかく話が早い。ダカットはあまり話さなかったが、「見えるニャン。話さないタイプも多いニャン」と。

現在はリリアの部屋でノンビリおつまみタイム。
「ね、別に勇者目指さなくても同じことは出来るじゃない」リリアがブラックに言う。
リリアも指名されて勇者になっているが、考え方は勇者にこだわる必要はあまりない。ただリリアの場合は勇者の子孫であり、勇者になり真面目に励んでいるのでその分くらいのリスペクトは欲しいと思える。
「正式に勇者になるかどうかはとにかく、先輩は出来る範囲で勇者として勤めているのをみていて勉強になるっす!」歯を見せて笑うブラック。
「俺も感謝してるよ。わざわざ故郷まで連れて行ってくれるだなんて、滅多に引き受けてもらえない事だ」ダカットも言う。
「リリアは勇者だからね。国民を助けるものよ。まぁダカットは国民じゃないけどね」ベッドに寝そべっているリリア。
ダラダラと時間が過ぎる。

「先輩、俺もそろそろ部屋に戻って休みます」ブラックが立ち上がった。
「… むぅ、そうねぇ… そろそろ…」
リリアはベッドで半分寝かけている。ブラックが話しかけたが反応が鈍くなってきたので察して立ち上がったのだ。
「このまま大雨が続くと明日は休めるっすね」
「… この振り方… 止んでるわ… 雨の音って睡眠効果あるよねぇ… まぁ、リリアにしたら馬車の揺れも、野鳥も… 全部睡眠効果よ…  今日はもう着替えないで寝ようかな…」リリアはムニャムニャ言っている。
「……… そうか、今日は着替えないか……」ダカットが呟いた。
「……… そね、あたし眠くって… …… ヴぇ!!あんた今まで着替え見てたの!!」
リリアは跳ね起きた。
「え?… だって俺、動けないし、部屋に置かれて… そんなもんかと…」
「じゃ、毎晩見てたの?? 黙って見てたの??」リリアがホウキに飛びつく。
「えぇ?だって、俺は宿っているから… 今更?…」ダカットもびっくり。


「このど変態野郎!!」
宿の廊下にリリアの声が通る。
ダカットと何故かブラックも部屋からたたき出された。二人とも目が点。

「……… 俺が悪いのか」ダカットが呟く。
「… いや、兄貴悪く無いっす…」ブラック。
「… すまない… 今夜からよろしく…」
「…… うっす…」
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