勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【142.5話】 月夜の下で

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リリアはリラックの部屋からそっと外をうかがった。
夜が明るく、家々の屋根が青く、影が濃い。
擦り切れたカーテンの隙間から目を凝らすと垣根の陰、路地の陰に人の気配がうかがえる。
対策課の連中が物陰に潜んでいるのだろう。
リリアはまん丸まであと僅かなお月様を少し見上げるとカーテンを戻した。

ここはリラック家のベッドルーム。リラック、リリア、ブラックとダカットがいる。子供部屋にはリラックの妻が我が息子と一緒に控えている。
ランプの薄明りの元、リリアが窓際を離れて皆を振り返ると全員がリリアを見つめている。
「… なに皆?あたしってばそんなに美人?… 落ち着いてよ。さっきと状況かわらないよ… それにしても月にはルナティック神の焦げ目がはっきりとついてるわねぇ…」
皆落ち着けと言うがリリアだってさっきからそわそわ何度も外を確認している。
「フリートではルナの顔が映りこんでるって言ってるっす」ブラック。
「俺、月を作る時に出来た手の跡だって聞いたけどな」ダカット。
月の出来方が場所により違うようだ。


今日の午後
リリアはリリアなりの作戦をブラックとダカットに打ち明けた。
「あたし、テディとリラックにこの事を話そうと思うの。ライカンスロープの事。どちらかがウェアベアになっているって。それで本人達に納得してもらって協力してもらう」リリアが切り出した。
「うーん… それはどうかなぁ…」ブラック達が顔を見合わせる。

リリア曰
「二人に話をして自覚があるなら、隠し事があるなら正直に話をしてもらって今晩はリリア達と一緒に過ごしてもらう。ライカンスロープしたところで家の中で食い止めておけば、退治されないはずよ。個人宅内で獣になろうと何を壊そうと退治する理由がないはず。役人どもはマニュアル通りにしか動かないから罪名の無いうちは手出しできないはずよ。家の中で今月のライカンスロープ活動を阻止して来月までに対策立てるの」
無茶な気もするが、本人達が退治されないようにするには本人達と家族の協力が必要な要だし、本人の命が助かるにはこの案に乗るしかないようだ。
「わかったっす。先輩の案でやってみるっす」ブラックが言う。

リリア達は日中、対策課の連中の目を盗み、っと言っても連中はテディとリラックが行方をくらませないか見張っているだけなので、話しかけるのは特に問題はなかったが…
とにかくテディとリラックに近づき、状況を説明した。
「なんだいそれ?バカバカしい…」独身のテディは鼻で笑ったが、
「…… 俺は… それって変身したら俺は殺されるのか?…」リラックは何か心当たりがあるようだった。
「連中はそれが仕事だからね。リリアの仕事は国民と国民の財産保護よ!お願い何か隠していることがあったら全部教えて」リリアがリラックに頼む。
リラック自身には自覚は無いが、朝目覚めたら服が破れ、体が血や泥で汚れていた事が数回あったそうだ。家族も不思議がったが酔っぱらってウロウロして転んだ程度の話しだと思い、まして家畜被害等とは結びつけて考えていなかったらしい。
「リラック、このまま今夜あなたが変身して暴れたら、その場で退治されちゃうの。リリアに考えがあるのよ!救いたいの、お願い協力して!」真剣なリリアだった。


夕方少し前、リリア達は準備を整えてリラックの家に入った。
“あの連中ウロウロなにやってんだ?”的に対策課の連中に見られていたけど、堂々と家に侵入。
「おいリリア、ちょっとわからないように家に入らなくてよかったのか?」
あまりに無防備に家を訪れたのでダカットが心配する。
「平気よ!へいき!連中は時間で当直制だもん。もうすぐ交代よ。で、引き継ぎいい加減、引き継がれも適当で聞いてない。そのうち、みかけないな?もう家を出たんじゃね?っとか言ってうやむやになるよ」リリアは事も無げに言う。
「… そんなもんなのか?… くわしいなぁ…」ダカットが不安がりながらも感心する。
「リリアは伊達に国と仕事してないよ。そんな程度のやる気よ。リリアだって面倒だから別に引き継がないよ。引き継がれても聞いてないし、だいたい聞いちゃったら面倒に巻き込まれるじゃない?聞きたくもない」リリアは事も無げに言う…

果たして…
リリアの言う通りなのだろう…
至る、現在、だ…
夕方からリリア達はリラック一家と家にいる。
リリア達が家に来た時にはあらましリラックが妻に事情を説明したようだ。
泣かれていたが、この方法が生き延びる最良の手段と理解をしたらしく息子と子供部屋に入っていった。


リリア達はベッドルームにいる。
「本当に俺は変身するのか?何だかピンとこないが…」リラックが呟く。
「… うん… 絶対にそうなるか… そうならない方が良いよ。何か別の魔物でも、子供のいたずらでも、狼の仕業でも… リリア達の検討違いであったほうがいいけどね」
リリアは椅子に座って呟く。
「リラックさん、自分ではどうなんすか?」ブラックが聞く。
「こうしていると実感はないが、まぁ、朝起きたら変な事が続いたことがあってつじつまは合う… 夜寝ていたら、なんだか体が燃えるような感じがあって目を覚ました記憶がある。熱いというか… トイレに立ったか、水でも飲みに立った記憶が…」
リラックの呟くような説明を聞いてブラックが静かに頷く。

夜も更けてきた。良い子は寝ているような時間。
「それじゃリラック、ごめんね、繋げるよ」
リリアとブラックはリラックをベッドに大の字にロープで繋いだ。リラックがウェアベアになって暴れても家から出ないようにリリア達が用意したのだ。村に来た道具屋の商人から枷を買おうと思ったが、枷等は売ってなかったので手足を縛っても傷がつかないよう布等で工夫して縛った。
まん丸で大柄、毛むくじゃらのリラックがベッドに大の字になって繋がれる。ウェアベアに変身しても大丈夫なように丈夫なロープを用意した。
「ごめんね、もしライカンスロープしても外に出て暴れないようにこれしか方法が思いつかなかったの」
リラックを縛ってリリアが申し無さそうに言う。
「… あぁ、妙な気分だけど、仕方ないだろう。話を聞いて俺もこんな方法しか思いつかない。今夜は女の子に夜這いにいけないな、酒も抜きだ。わっはっはっは」リラックの冗談。
「… なぁ、俺が変身したとして本当にこれで退治されないのか?大丈夫なのか?」少しの間をおいて真面目に問いかけられた。
「… 大丈夫、あたしとブラック二人、全力であなたを守るから」リリアが言う。
ちょうどリラックの妻が様子を見にきた。
最後のお別れではないが、それに近い勢いだ、泣き出す妻のためリリアはダカットを手にブラックと一時部屋を退出した。


夜も経ち、悪い子も寝る頃となっている。
部屋の中は静か。リリアはホウキを抱え、ブラックも椅子に座ったままウトウトしている。
「寝返りも打てねぇ、寝にくいなぁ。何だか眠くもならないけど」しばらくベッドでぼやいていたリラックも寝ている。
明るい月の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。

「…… うう… ぅぅ… あぁ…」リラックが唸りだした。
「… リラック、大丈夫?」リリアとブラックは気が付き声をかける。
「うむ… 何だか、熱くないか?この部屋、息苦しくないか? これだ、前もこれがあった。この部屋熱くないか?」
リラックの息が荒くなり、訴える様に呟いている。リリアとブラックは顔を見合わせる。部屋が暑苦しいとは感じない…

「リラック、あなたやっぱり… ごめんね!耐えて!」
リリアが声をかけた
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