勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【144話】 リリアと金のインゴット

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リリア、ブラックとダカットは村を移動。
部屋に突入してきた兵士達からウェアサーベルタイガーとして退治されかけたリラックを必死にかばい、被害を出さない条件で三日間大騒ぎながらも耐え抜いたリリア達。
まぁ、事情が分かればという事で村も一丸となって協力してくれた。
それから数日、リリアは行商から銀を買い取り鍛冶屋で枷を作ってもらった。
銀の枷に付術してもらい、変身前も後も痛くない大きさでフィットする枷を作った。人を繋ぎとめるようで申し訳ないが、退治されない条件に見合った方法が他に無い。本人達と相談して決めた。
「ぅわっ!!強烈な出費だよね… マイ馬車、魔法道具購入の夢が遠ざかる…」
リリアは値段に驚くが、声に出してみたまでの事、ダカットさんの幸せには変えられない。
事情を聞いた商人が大サービスで付術してくれた。
「先輩、勇者って金銭的体力も要るっすねぇ」ブラックも目を丸くする金額。
「王国め!リリアをただ働きさせて、いつか絶対取り返してやる」リリアの怒りは王国へ…
その後、ダカット一家に感謝され、村の人に見送られ村を出発。
「銀って高いのよ、次から宿泊するときは総出でおもてなしお願いね!あたし公認の勇者なの。メッチャ仕事してるのよ!人助けは仕事!ちゃんと報告書に書いてね!」
リリア達はニコニコ手を振り村を出る。


リリア達は西の国境を目指して草原を歩く。田舎の方になるとキャラバン減り、荷物を背負いノンビリ徒歩の旅。リリアは弓とホウキを手に歩く。
ダカットさん一家の事を考えると気分が清々しい。汗ばむ陽気だが、足取りも軽く、空が青く高い。
「ホウキになってこんなに距離を移動したの?所有者が引っ越しでもしたの?」リリアがダカットに話しかける。
「山で拾われてから、しばらく資材と一緒に運ばれていたからな… 積み込まれていたからわからないよ。最初は炭にされかけたんだぜ!それが俺は素材的に炭には向かないからホウキの柄にしようって。あの時炭されなくて良かった」ダカットが言う。
「ふーん、ホウキなんて、その辺の木片で作られてその辺で売られ、その辺の人に使われるのかと思ったけど… 違うのね… まぁ、ダカットの言う通りならあなたの故郷は国境を越えた場所よ」リリア。
「すまないなぁ。すまないついでだけど… また、手が疎かになってるぜ。腕をぶらつかせないでくれ、目が回る…」
色々不便があるようだ。
本日の魔物数は少ない方だ。のどかな風景。だけど今日はドロップ率と価値の高い物が多い。
「今日はラッキーね。ま、あれだけ出費があったんだからこんな事があっても良いよね」リリアはニコニコしている。


リリア達はお昼休憩中
川に架かる橋の側でお弁当休憩だ。リリアがブリトーを手作りしてきた。
「ソースがベタベタ… ちょっとあっちで手を洗ってくるね」
リリアはブラック達の側を離れうっそうとした茂みを回って川に下りて行った。

「…… 誰かの声?」
川で手を洗っていたリリアが振り返る…
「………… たしかに声よね」
橋の方からブラックの声が聞こえる。最近ブラックとダカットもよく会話するようになってきた。リリアの聞いた声はそれとは別な方向から…

「やぁ君… おい、おまえ… ねぇ、あなた…」
声を辿ると茂みの中から声がする。小さな茂みだが… 人が何人もいるのか?あり得るか?
リリアは茂みをかき分けてみた…
「おろ?… 何だこれ?妖精かな?宿りかな?」
茂みに壺が落ちていしきりにしゃべっている。変な光景だが、声は間違いなく壺からしている。
「やぁ君… おい、おまえ… ねぇ、あなた… ちょっとそこのおまえさん…」
色んな声色、色々な呼び方。リリアは手に取ってみた。ずっしり重い。
「君、良かった。あなた、ラッキーよ。おまえ上手い事やったなぁ」リリアの手の中で壺がしゃべる。
「妖精さん?ダカットのような宿りさんかな?まさか、またどこかに連れて帰んなきゃいけなのかな?」リリアが話しかけながら壺を覗く。
「おわ!金の… インゴット?」
リリアはビックリして声を上げた。壺に金の延べ棒が入っているのだ。
「君、良かった。あなた、ラッキーよ。おまえ上手い事やったなぁ」リリアの手の中で壺がしゃべる。
「ねぇ!みんなぁ!壺拾ったら金のインゴットが入ってたよ!」っとリリアは嬉々として叫びかけて言葉を飲み込んだ。

“これって、冒険者なら皆で三頭分よね… でも、ホウキのダカットは宿っているから冒険者とは… いや、それでも仲間だし… でも、ダカットの面倒はリリアがみっぱなしよ。結構大変なの。お金こそかからないけど精神的対価を受け取っても良いかも… うーん… まぁ、あたしが預かってダカット基金に正しく使うってことで… よく考えてみたら、皆で協力して魔物を退治するから頭割りもわかるけど… これは戦ってないよね、拾った感じ。路地裏で拾ったコインをパーティーで分けるかな?分けないよね… これはリリアの所得物。リリア一人で… いやいや、人は人が見ていない時の言動にこそ価値があるの。自制心、道徳、規律、分かち合う心… いやでも… ブラックは後輩だし、パーティーのリーダー登録はあたしだし… あたしがブラックの面倒を見ていると言っても… 結構出費かかるし… そうね… 銀の枷は大きな出費だった… ってかメッチャ大出血の出費だったよ!!あれってリリアからしたら、鼻から耳からお尻から、毛穴という毛穴から出血の噴水レベルだよ!銀って高いっすねぇ!じゃないわよ!全部こっちが負担だよ! これは、この金塊は当然リリアちゃんがもらうべき権利!!独り占めよ! いや、独り占めじゃないわよ!これはドデカ過ぎる出費をしたリリアちゃんへの神様からのささやかなお心遣い、チップ。チップはタックス申請しなくてよいの。そもそもリリアは勇者としてタダで働いているだから、これくらいラッキーがあっても当然の権利!… ブラックには今夜ステーキ500グラムをご馳走してダカットには… 柄に漆でも塗ってあげればいいわね。十分じゅうぶん”

リリアの腹は決まった。金塊ごっそり独り占めしちまえ…
「君、良かった。あなた、ラッキーよ。おまえ上手い事やったなぁ」リリアの手の中で壺がしゃべる。

「父さん、母さん、自然と調和の神様、ありがとう!今日はリリアにとって忘れがたい人生最良の一日になりました。感謝感謝、シェイシェイ、シェイシェイ!ま、これだけ苦労して痛い思いして勇者やってるんだもん、たまにこんなことでもなければ勇者なんてやってらんない! それではリリアちゃん、金のインゴットをいっただっきまーす」


「…… おい、ブラック、何か聞こえないか?リリアの声じゃないか?」ダカットが言う。
「…!本当っすね!先輩!どうしたんすか!」
リリアの声を聞いてブラックはホウキを手に走り出した。

「やだ!いったあぃ!!助けて!ミミックよ!ポッドミミック!早く助けて!!」
ブラック達が駆けつけると、リリアは手首まで壺のミミックに噛みつかれ血を流しながら大騒ぎしている。
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