勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【146話】 馬車の中身

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村を発って国境を目指すリリア達。
リリアが振り向くと今朝村から一緒に出発した馬車と取り巻きの一団が後方をついてきている。

昨日はお昼過ぎに宿に戻ったリリア達。リリアが部屋で昼寝をしていると何度も扉をノックされた。
「先輩、俺っす!」ブラックがリリアの部屋に来るのだ。どうせダカットとリリアを仲直りさせたいに違いない。
「間に合ってます!あたし、ホウキとは関わらないから!無視よ、無視!」リリアは絶対扉を開けない決心。
「先輩、俺っす!」「無視!」を何度か繰り返しながらリリアはおつまみを食べウダウダしていた。うっすらと汗ばむ陽気、窓を少し開け、全裸でリラックス。全開リラックス。
またまたノックの音がするので「うっさわねぇ!無視って言ったら無視よ!いちいちノックしないで!」リリアはドアに向かって怒鳴るとそのままベッドでゴロゴロ。
「ホウキのくせに生意気よ!絶対二度と口きかないから、今日のリリアはこのまま寝だめするの。最高の幸せ、至高の時、寝だめカンタービレよ…」一人で呟きながらゴロゴロしている。

「びひゃ!!」リリアは驚きの声を上げてベッドに座りなおした。
「先輩!俺っす!失礼します」
大声で挨拶しながらブラックがホウキを手に窓から侵入して来たのだ。
軽装とは言えリリアの宿は二階だ。ホウキを片手に外から上がってきて、いきなりドカっと入って来た。
「ちょっと!何してんのよ!どっから来てんのよ!なんで入って来てんのよ!!」びっくりして怒鳴るリリア。
「順番に答えるとっすね、先輩が意地張ってるので仲直りに来たっす。ドア開けてくれないから外を上って窓か進入っす。さっき先輩がいちいちノックしないでって言うから、実力行使で突然来てみたっす」健康そうな歯を見せてわっはっはと笑ってブラックは答えている。
「そう言うとこじゃないでしょ!失礼じゃない!レディの部屋にいきなり!」
「それならせっかくボーイが部屋まで来てるのにドアも明けないのも失礼っす、先輩。とにかくダカットの兄貴と仲直りっすよ。ダカットの兄も謝ってるっす。もう無視とかやめるっす、先輩」駄々っ子リリアより大人な後輩君。
「…… なぁ、話の前に先輩に服を着る様にアドバイスするべきじゃなか?」ホウキが呟いている。


そんなわけでリリアとダカットは仲直り済み。もっともリリアの子供っぽい喧嘩とか大した話でもないが…

それより、よっぽど重大だったのは今朝、村を出発するとき。
現在リリア達の後方をやってくる馬車と一団が村を出発準備していた。


「ねぇ、あたし昨日は寝て食べてゴロゴロしてたから気が付かなかったけど、あの大きな馬車の中身… 奴隷じゃない?」出発準備を整えたリリアがブラックにヒソヒソと聞く。
「昨日の夕方からいたっすね、奴隷商人っすね」ブラックが答える。
ちなみに仲直りしたもののリリアはホウキをブラックに持たせている。
リリアは馬車にスタスタと近づいて行った。
「… おい、ブラック… 先輩止めた方が良くないか?」ダカット。
「………」ブラック。

「おはようございます、今日も皆様に神のご加護がありますように。ねぇ、責任者は誰なの?あたし、ルーダリア王国公認勇者リリアよ。はい、冒険者ギルド証。王国の家紋が入ったハンカチ。公認勇者だから、国の治安や保安に努める義務があるの。違法奴隷取引じゃないかどうか確かめるから書類を出して見せてちょうだい」
違法業者ではなさそうだが、業種が業種なので物々しく物騒な護衛が何人もいる。騎馬にまたがる魔法戦士等、小隊規模だ。リリアは全然物怖じした様子はない。小隊のど真ん中で責任者を要求している。

ルーダリアでも周辺国でも奴隷取引は行われている。恐らくルーダ港から大陸に入って来たのだろう。重罪人の証明がされて書類が整っているなら違法ではない。りっぱな商売とは言えないが人権を不当に侵害する闇取り引きではない限り取り締まりはできない。

リリアが声をかけると「おい!小娘!いちゃもんつけようってのかよ!」護衛のオーガから武器を突きつけられた。ビビる事はない、“小賢しいことすんじゃねぇぞ”と言った挨拶だ。リリアは動じない、こんなんでビビッていたら国や人を守る勇者やっていられない。

「商人ギルドの登録証… 責任者… 取り引き元の証明… 罪名書類… 買い取り人及び身元引受人…」
リリアは書類に目を通す…
が、はっきり言ってこれ自体は大して意味がない。この書類の束が正式な書類かどうか、リリアには全然見当もつかない。が、何かで聞きかじった知識をフル回転させもっともらしく目を通す。
「勇者リリア様、こちらも急いでおりますので… 書類は全部正式に揃えております。うちはこの商売、長いですが一度も問題を起こしたことはございません。忙しいので必要な書類は後日、届させますよ」責任者の男が言う。
愛想笑いの猫撫で声の上目使いで語って来るが、目は笑っていない。儲けのためなら何でもする雰囲気に満ち溢れている。
「… 書類では奴隷10名なのね… ちょっと馬車見せてもらうわ」
護衛共が業を煮やしている。ジリジリと距離を詰め、焼き殺すような視線を送ってくる。
「先輩、大きなギルドっすよ。違法性がなさそうならあまり関わらない方が…」輪の中に入ってきてブラックがリリアに耳打ちする。
リリアが馬車の幌を開けると頑丈な格子があり、奴隷が乗っていた。皆、絶望or虚無の表情。
「10人に間違いないわね… ねぇ、そこの… 犬耳の女の子… 狐耳?そう… まぁ、とにかくその子… と、あの、人間の男の子… それと、そこのエルフの女性… 書類はどれ?… そう、これね」
メッチャ幼い子供も乗せられている。

“ハイネル:狐耳族… 罪名:一族の罪を引責”
“トーマス:人間…  罪名:親の罪を引責”
“アメルネスカ:エルフ族 罪名:貴族侮辱罪・傷害罪・傷害未遂・器物破損・公務執行妨害・王国侮辱罪… 売約済み:引き取り人(娼館エルフの園)”
「………… そう…」
リリアは読んで小さく頷いた。親や親族の責任を子供が負わされたり、エルフの女性等はどうせ無理やり迫る貴族男性に抵抗したとか言いがかりのようなものだろう。
しかし、認定されている罪名ならば違法ではない。
「…… ありがとう… 思ったより… 馬車は清潔で健康そうなのね…」リリアは不愛想に書類を返しながら呟く。
「それはもう、うちは商品の取り扱いは一流で… お客様には上質の商品を届けさせていただいております。勇者様、何かお疑いがあるのでしたら、馬車に乗ってご同行されても良いですよ。我々の管理の良さがご理解いただけるかと… ついでのあの、オーク共の枷を外して、目的地まで無料で我が男性性奴隷商品の品質の良さを実感されても良いのですよぉ、もう正気に戻れないようなご満足を…」
「おい!貴様いい加減しろよ!」ブラックが声を荒げると、一気に場が殺気立った。
「…… 闇取り引きでないのならそれでいいわ… さ、行きましょう」
リリア達は足早に輪を抜け出した。


リリア達は森の中を通る。
まだ平地だが、間もなく峠に上がる道になってくるだろう。
リリアは一言もしゃべらずスタスタと歩いて行く。
何とも言えない雰囲気。ブラックもホウキを手に黙って歩く。
リリアが振り返ると大きな馬車と一団がついてくるのが見えた。
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