勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【155.5話】 無血入城

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リリア達はドラキュラ邸で優雅な時を過ごしていた。

ゴートマンと小悪魔娘に案内されて館に通された。
何人かのメイドに迎えられリビングへと案内。
「主は夜までお休みになられています。大変申し訳ございませんがお客さまは夜までお待ちになられてください。今、ご休息用のお部屋をご用意いたしております」
「あぁ… はいはぃ… ありがとう… じゃ、せっかくなので待たせてもらうわね」
玄関ホールから広く静かな通路を通りこれまた立派なリビングに通された。
装飾品や絵が飾られ重厚な建物で明かりが少々暗めに取られているが決して禍々しさはなく綺麗に清掃され清潔感がある。
サキュバスのメイド長が挨拶に来て、リリスの可愛らしいメイドさんがお菓子とお茶を用意してくれた。しかも、バイオリンの生BGMつき。

「リリア、なんか招待されてくつろいでいるけど良いのか?大丈夫なのか?」ダカットが心配する。
「うん… いや、どうだろう… ちょっと想像と違ったけど… お茶もお菓子も美味しい」
最初はド緊張していたリリアはお菓子を食べてなんだかリラックスし始めている。
「罠かも知れないんだぞ、お呼ばれしている場合かよ」ダカットが言う。
「これは逆にリリアの罠にかけたのよ。策士リリア。大激戦の上屋敷にたどり着いて、謎解きしながら侵入して、バンパイアと直接対決、そんな計画だったけど事情は変わったの。そっちがその気ならこっちもやり方があるの、無血入城よ。相手が平和的対話策に出るならこちらも罠にかかったふりして様子見よ。相手の手の内を暴いてやるのよ。そのためには出されたお茶くらい飲まないと怪しまれるでしょ?策士策に溺れる、よ」リリアは何だか自信満々な様子で装飾品をキョロキョロ眺めながらお菓子を食べている。
「… 未だに俺はリリアがすごいやつなのかアホなのか全然わからない…」ダカットは呟く。
ブラックは目を細めて淡々とお茶を飲んでいる。

「お茶も、お菓子も高級品ね、さすがね」
リリアはすっかり満足しているようだ。調子に乗ってバイオリンのアンデッドのお兄さんに冒険物の音楽をリクエストしている。
「あたし、静かな曲は眠くなるんだよねぇ、勇ましいのがいいのよ、ちょっと場にそぐわないけど」リリアが言う。
「…雰囲気の問題じゃないだろう」ダカットは心配になってきた。これで良いのだろうか。
「いかがお過ごしでしょうか?ご夕食までお時間がございます。よろしければお庭と湖の畔をご案内させます」
メイド長のサキュバスさんはメッチャ美人。ここのメイドさんは皆セクシーな正装をしているが行儀正しく教育されている。
「ありがとう、退屈しのぎにちょうど良さそうね。あ姉さんお綺麗ですね、何人さんですか?… サキュバス!どおりで美人で艶っぽくて大人の美があると思った。アスタルテさん?っぽい名前ね。素敵な名前!」リリアはメイド長をべた褒めしている。
「…和んでいる場合なのかよ…」ダカットが心配している。
「だって、お茶とお茶菓子食べた途端、問答無用でぶった切るわけにもいかないでしょ。いくら勇者でもマナーってものがあるのよ。食い逃げみたいな事できないわよ」リリアが言うのである。
ブラックは淡々と座っている。まぁ、ブラックはリリアが剣を抜かない限りは自分から剣を手にしないだろう。
ダカットはもうすでにリリア達が何かの術に陥っていないか一挙動を凝視している。


リリア達はリリスのメイドさんとウッドゴーレムに案内されてお庭や湖をお散歩。
メイドさんが色々丁寧に説明してくれる。
かなり広い土地を所有しているようだ。ちょっと言えば湖を反時計回りに回る道と伯爵公のある土地から湖の水辺まで所有地のようだ。道沿いまでは完全に手を加えられないが屋敷周辺は庭園となっていて、石畳の歩道がオシャレに延び林の中の遊歩道となっている。遊歩道は林の中に点在するガーデンに繋がっていて、ブラブラと木々の間を歩くと、可愛らしい庭園が出現するのだ。自立ホウキ、ウッドゴーレム、アンデッド等が草木のお世話をして、動く案山子が巡回している。可愛らしい。
私有地と公地を分ける柵や壁が特にないので、動物がウロウロしている。
「魔物もうろついております。ご安心を、こちらで対応いたしますわ」リリスさんが言う。
「… 案山子の数足りてないんじゃない?結構人気がない場所で鹿が花を食べたりしているみたいよ」リリアが林の奥を振り返って言う。
「主の好みのようでございます。ある程度自然のままで、草花等はまたお世話をしたらよいとおっしゃられています」リリスさんが淡々と答える。
リリスさんの後ろ姿は見事なプロポーション。
静かなら林の中にしばらくリリスさんのブーツの音が響く。清々しい散歩道とガーデン。
「わぁ、素晴らしい… 静かで最高ね!」リリアが思わず声を上げる。
「… 確かに素晴らしい」ブラックとダカットも唸る。
小さな石畳の道を歩いてきたら湖際に出たのだ。大きな林を抜けた場所に花壇があって湖への景観がパッと視界に開ける演出になっている。
「主もここの眺めが気に入ってございます」リリスさんが丁寧に言う。

リリア達は水辺の道をたどって再び林に入った。別な道をたどって屋敷に戻る方向のようだ。
リリスさんは屋敷の色々説明してくれた。
曰く、伯爵の家族は皆バンパイアだが、実子ではなく青春年齢の美男美女が不老の美貌を保つために自ら志願してバンパイアとなりに来るらしい。奥様も然り。
日常はインキュバス、サキュバス、リリス、知能の高いアンデッド等世間では偏見を持たれている人種が身の回りをお世話しているようだ。特に問題もなく皆平穏な暮らしぶり。清掃、雑事はゴーレム、敷地の巡回は案山子、警備はガーゴイルが行う。
「世間では暮らしにくい我々も伯爵公のお陰で平和に暮らせますわ」リリスさんが言う。
生活は私有地に出来る農作物を売ることで得る収入とルーダリア城外農地の貸し出し、城下町の不動産の収入で余裕があるようだ。
「鹿、イノシシも取れますし、ここの敷地内の作物で自給自足には十分ですわ。もっとも係のほとんどはクリエイトされていて飲食する執事はほんのわずかの者ばかりです」
リリスさんの説明をリリアはポニーテールを揺らしながらフムフムと聞いている。

「あれ?… あれは何?」リリアはある方角を指さした、林の奥。
草木に隠れているが道が続き庭園が見える。荒らされていて噴水の像が破壊されている。活動を停止したウッドゴーレムと案山子が何体か見えた。これだけ気を使ってお手入れしているのに場にそぐわない感じ。
「お見苦しいところを… 失礼いたしました。先日、侵入者がおりまして、使い魔たちと装飾品を破壊して持ち去りまして… まだ修復中でございます」リリスさんは足も止めず説明する。
「それって人間?… 旅人か冒険者?… 時々あるの?… そう…」リリアが質問する。
何かを壊されたり持ち去られたり年に何回かあるようだ。農作物を盗まれる等ほぼ日常。
「仕方ありませんわ、一般人にはどこから私有地かわかりにくいですから。主はあまり気にしていないようです。生活に困らないなら適当で良いと… 自然の中に柵を立てたりもお嫌いのご様子です」リリスさん淡々と説明している。
「知らないのは仕方ないけど… 壊して持って行ってしまうなんてねぇ…」リリアは呟いている。
「………」ブラックもダカットも黙ってリリアをうかがいながらついて歩く。
「私有地に入り込む魔物も含め安全を確保しなければならないので使い魔が敷地を荒らす侵入者を撃退するのですが、逆にクレームを出される事が多々あり、ただでさえ被害が出ているのに主はほどほどにと申していまして… 従業員としてはもう少し… あら…お客様の前でお恥ずかし話題を… 失礼いたしました」
リリスさんは謝罪すると、口数が少なくなった。屋敷に戻っていく。


「お帰りなさいませ。お客様のお部屋のご用意が出来ております」
屋敷に戻ったリリア達をメイド達が出迎える。
「お庭はいかがでしたでしょうか?伯爵公は夕方以降にお目覚めになられます。ご夕食のご用意ができ次第お呼びいたしますのでお部屋の方で休まれてください」アスタルテが挨拶をする。
「そね、時間あるし、ウロウロしているよりお部屋で休むのが礼儀ね」リリアが頷く。

リリア達はゲストルームに案内された。もちろんリリアとブラックは別な部屋が用意されダカットの分まである。大きくて豪華な部屋、眺めも良い。
「なぁ、一緒の部屋の方が良くないか?大丈夫か?」ダカットが心配する。
「この感じなら大丈夫だよ。あたしは一人の方が休まるよ。ダカットにも部屋があるのよ、すごいじゃないの」
基本的にビビりのリリアが言うのだから完全に信用しているようだ。
それぞれ同階の離れにある部屋に案内される。

「わぁ、すっごい豪華なお部屋にね」案内されてリリアは声を上げる。
「リリア様、大変失礼ですが… もしよろしければお時間まで男性リリス、インキュバス達のサービスはいかがでしょうか?」アスタルテ。
「え?リリスとインキュバスのサービス?それって、ベッドに入るの?」リリアが驚いて聞き返す。
「はい、実は私共はここで生活をさせていただいておりますが、素性の性質は変えられ難く、皆楽しみを求めております。お客様のご許可があれば、お供をさせていただきたいのですが… もちろん最高のおもてなしをさせていただき、魅了、サキュバス化、従属化等の特殊能力は使用いたしません。ご安全を保障いたします」アスタルテが言う。
「… え… あぁ… えっと… あたしには男性がくるの?これってブラックには、ブラキオーネには女性?」リリアは少し困惑。
こんな申し出があるとは…
「はい、同性、両性がよろしければもちろん対応いたしますが…」アスタルテ。
自由奔放なリリアだが、突然こんな場所で言われると面食らう。
リリアは廊下に出てブラックの様子見たくてウズウズしたが、我慢しておいた。
「…… 先に一時昼寝するから、また後でね」
リリアが答えると、アスタルテは「では、後ほどお茶をお持ちします」と丁寧に挨拶をしてドアを閉めた。
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