勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【157.5話】 リリアとスプリガンと ※156.5話の続き※

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早朝からリリア達は木材の切り出し。
ポチシローさんが村から買い取った木を切り倒してある程度の大きさにして村に運び込むのだ。
建築資材は街で買って村に運ぶこともできるが、村で融通してくれるなら村から買い取った方が運搬代くらいは安い場合が多い。あまり切り倒すと自然環境が悪くなるが適度なら村も収入になり、村人も木こり仕事等になる。
「今日の午前中で切り出しは終わって、その後は全部村の敷地内作業になる」ゴディバルドが言う。
村人数名とゴディバルドの若い衆で木を切り倒し木材にしていく。

リリアはメリールと二人、早朝の現場一番乗りで魔物を掃除しておいた。
主にはお化けバラ、マンゴドラ、スピッターを掃除して回った。
「弓の調整は良いわね。矢がもったいならから格下なら剣で十分よ」リリアは剣で退治していく。

リリア達が掃除した現場に人が集まってきて木を切り倒し始めた。木々の間に斧の音が響く。今日は人が多いしリリアは力仕事に加わらず周囲を警戒している。

「ねぇ、あなたなんでわざわざ力仕事に手を貸すの?」メリールに話しかけられた。
今朝周囲の魔物は念入りに倒しておいた。今のところ周囲に異常なし。
「…… 何でって… いいじゃない…」リリアは不愛想に答える。
「力仕事分の料金も貰っているわけ?… 違うなら周囲警戒だけしていたらいいじゃない。やる事やったら必要ない事しなくていいじゃない」メリールが言う。
「… やる事やってるから、後は何をしていようが勝手だよね」リリアが答える。
「…… あのね、あなただけの問題じゃないのよ。あなたが余計なサービスすると他の人まで無料奉仕をして当たり前と思われ始めるのよ。迷惑だって言う話よ」
「さっきも言ったよね。やる事やってるでしょ、空いた時間で何をするか、自由だよね」リリアが強く言い返す。
「そこまで媚び打って仕事欲しいわけ?勇者ってそんなに仕事無いわけ?何でリリアが公認勇者なんだって皆陰で言ってるよ… 商人ギルドの宣伝活動までして… 道化よ道化」メリールの声が大きくなってきた。
「……… あたし、向こうで警戒しているから、メリールは作業の傍にいたらいいよ」
リリアはぶっきらぼうに言うと一人で林の中に歩いて行った。

「魔法使えるやつにリリアの苦労がわかるものか」リリアは呟きながら作業から離れた、今朝特に魔物が沸いていた場所をウロウロする。
“あ!スプリガン!”リリアは咄嗟に弓を構えた…


スプリガン
森の妖精とも魔物とも呼ばれる。賢者ディアフの“分類の書“によると元は妖精族だったと記されている。
3m程の高さの人型のような木の妖精。普段は大樹等寄り添い擬態している。決して交戦的ではなく、擬態中のスプリガンに接近、接触しても微動だにしない。しかし、謝って過度に森林を伐採したり、自然動物を傷つけると攻撃的になる。
動きは早くないが腕のリーチが長く力が強い。また、恐怖、パニックを起こして逃走を促す精神攻撃、サンドブラスト、ロックストーム等の自然を使った攻撃、周囲のグリズリー、蜂等を操って対象者を攻撃する。
野山に入るリリアにはお馴染みの妖精。リリア自身が攻撃されることは滅多に無い。森の妖精なので気配に鋭いリリアでも接近するまで察知が難しい。

“スプリガンね、大人しくやり過ごすべき… 昨日、今日と木を切ったので動きだしたのかな?”
絶対にリリアから手を出さない方がよい。怒らせたらリリア一人では対応できない。
足音もさせずリリアに近づいてくる。
リリアは弓から剣に持ち変える。
“……… こっちにもか…”気が付けば背後にも一体いる。
二体ゆっくりとリリアへ…
“… 相手は様子見よ。いつものごとくジッとやり過ごす…”
リリアが身を硬くして固まっていると
「バキ!!」
近づいてきてぶっ飛ばされた。リリアはすっ飛んでひっくり返る。
「…… ぃ~…」
顔面を押えて声にならないうめき声を出す。激痛に表情が歪む。二体のスプリガンだ、反撃しない方が良い。スプリガンを知らない人は反撃をしてしまう。一瞬にして決着がつけば良いが、モタモタしているとスプリガンがスプリガンを呼んであっという間に囲まれる。
そうして命を落としていった人間を何人も見てきている。リリアは小さかった時に逃げまわりながら学んできた。耐えて相手が去るのを待つのが最上の策。
リリアは何発か殴られたり蹴られたりされながら地面にひっくり返る。力も強いが枝となっている腕や足が飛んでくるのだ。全身傷だらけ…
この二体が作業場まで接近したら、怪我人続出になる上に、下手したら収集がつかなくなるだろう。
「父さん、母さん、リリアを守って!神よリリアにご加護を」
リリアはしばらく弾き飛ばされては地面にうずくまるを繰り返していた…


「……… あたし…」
リリアは目を覚ました。失神していたらしい…
「おい、しっかりしろ。リリア、大丈夫か?」声がしている。
ゴディバルドの顔が目も前にある。
「一人で離れていったっきりって言うから探したぞ、魔物か?」ゴディバルドがリリアを起こす。
「…… スプリガンが二体いてね… ごめんなさい…」リリアが呟くように言う。
「メリールに治癒してもらったから体は大丈夫だろう。装備がボロボロだ。一度村に戻って着替えてこい。少し休んでもいいぞ」ゴディバルドがリリアを担ぐ。
見るとメリールがも側にいる。
「何でも中途半端よね」心配とも迷惑そうともつかぬ表情のメリール。

「皆はスプリガンに襲われなかったのね… 着替えたらリリアは現場復帰よ」
リリアは担がれながら呟く。
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