勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【167話】 フリーズのラビ

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“ドス!”
先のとがった木の幹が落ちてきた!

「ぅわ!」
馬車の傍に立っていたリリアは咄嗟に避けた。
木の幹はコトロが乗っている馬車馬の一頭を貫いて、幹を振り上げようとするものだから馬車ごと引きずられるようになっている。
「ま、まずいですよ!」コトロが手綱を握り座席にしがみつく。


ウッドスティンガー
ルーダリア地方ではあまり見かけない木の魔物。
外観は一般的な落葉樹と似ていて気が付きにくい。幹は多いがそのうちの3~6本ほどの幹が人の腕のように動くようになっていて、周囲で動く動物等を突き刺し危険を排除、口に相当する部分で食べる等する。
非常に鈍重な動きだが歩くというよりナメクジのように擦るように移動する。
木々に紛れて気が付きにくいが移動に使う足や腕に相当する部分は他と見かけがことなり、木の中間あたり、口の部分が膨れたようになっているので経験のある冒険者なら見分ける事も可能。また、何かの死体をぶら下げ異臭をさせている時もある。
大型動物、動いている物に反応しやすく空中から幹を突き刺すように振り下ろしてくる。


「コトロ!馬を馬車から外すわよ!」
馬を串刺しにした魔物が幹を振り上げて捕食しようとするので馬車ごと危機に陥った。
「リリア!今は動くな!」「先輩!じっとして!」
リリアはその場で身を硬くした。見るとネーコ、ラビ、ロメリオ全員その時のままでフリーズしている。
リリアはゆっくり頭上を見上げていつでも回避行動をとれるように準備しながらコトロに注意する。
「コトロ、馬車は破棄よ。そこから下りて」
「もう下りていますよ」
コトロの声がするのでゆっくりと振り向くと馬車の向こう側でリュートを抱えて伏せている。
「全員動くなよ!まずはそいつ以外にスティンガーがいないか確認しろ!」
前衛者が叫ぶ。

リリアのすぐそばで馬が断末魔の悲鳴を上げてもがくので馬車がゴトゴト揺れている。
“バキ!”
動く馬車に反応したのか再び幹が荷台に振り下ろされた。幌が破れ荷台が壊れる。
リリアがしゃがんで見ていると幹が空中に戻っていった。

「全員確認だ!そいつ以外魔物はいないか?こっちはいないようだ」
「こっちの周辺もクリアだ」「後ろの馬車周囲も大丈夫」
「先頭の馬車の周りはどうなんだ?」
連絡を取る声が聞こえる。通信のイヤリングからも連絡が入る。
「リリアの周りも、こ、こいつ一体みたいだよ」リリアが報告を返す。
「よし、ゆっくりと戻るからそのまま動くな」
「皆、慎重に行動だ、頭の上に注意だ」
前衛の者達の声。

「やばいニャン惹かれるニャン!」「動けないピョン!」
馬車の前方でフリーズしているネーコとラビが声を震わす。馬車が引きずられてネーコ達に迫る。
「急に動いちゃダメよ! ロメリオ、リリアとあなたで二人を移動できる?」
「リリアは動かない方がよいだろう、俺と三人でゆっくり馬車の裏に回る」
「わかった、何かあったらサポートするから」
リリアはリリアモデルの剣に手をかける… が…
「勇者リリア参上!商人ギルド・リアルゴールと工芸ギルド・ハンズマンの共同開発と無償サポートにより授かった勇者リリアモデル(女性版)のこの剣で成敗してくれる」
と“キラーン”をやっている間に串刺しにされそうだ、ってかされるだろう。
近距離だが弓を手にする。

「ネーコさん、ラビさん、ゆっくりこっちへ。俺についてきて」
ロメリオとネーコが這いながら移動してく。
串刺しの馬は絶命していて残りの馬も生きながら引きずられて暴れている。全員が固唾を飲んでいる静けさの中、馬の喘ぎ声と馬車の引きずられる音がする… 不気味…
「ピョン子!何しているの!逃げて!」リリアが注意する。
「だめピョン、足が動かないピョン」
ラビは震えて完全に腰を抜かしているようだ。暴れている馬に踏みつぶされかねない。
「先輩!今助けます!」ブラック達も距離を詰めてきた。
「待って、今攻撃して暴れたらピョン子が潰される!」リリアが前衛組みを制す。
「ピョン逃げて!大丈夫だから!ピョンならやれるよ! 生き残るためにほふく前進」
「無理ピョン、動けないピョン」
恐らくラビの性格からしてもこうなった以上は動けないだろう… 何か手段を講じないと…

「ぎょふふひひぃいぃぃ」
幹に力がこもり馬を無理やり引き上げようとする。
聞いたことの無いような馬の悲鳴だ。耳を塞ぎたくなる。荷台が揺すられ荷物類が地面に落ちる。
「リリア!攻撃開始するぞ!」「先輩!」声がする。
馬車は引きずられながらラビの傍まできていているのだ。リスクが大きい気がする…

“父さん、母さん、リリアを助けて!ラビを守って!仲間を助けたいの!お願い!”
リリアはペンダントを握りしめる。

“… あ!”
リリアの視線がある物を捉えた。
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