勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
395 / 519

【198.5話】 森の中の事故

しおりを挟む
「これで大丈夫ね。さぁ、リリアを追いかけましょう」
アリスはペコを治癒すると馬に怪我がないか確認している。
「ありがとう、アリス。リリアに追いつかないとね。アリスは大丈夫だった?」ペコが気を使う。
「とっさにプロテクトをしたわ。少し怪我したけどまともに地面に激突しなかったから…」アリス。
「そっか… よし、リリアを追いかけよう」
ペコとアリスは馬に怪我の無い事を確かめ再び騎乗した。

「すっかりやる気無くしたみたいだね、走ってくれない」
ペコとアリスはリリア達が走り去った道を追いかける。馬も疲労と転倒したショックですっかりやる気を無くしている。かなりゆっくりとしたペースで森の中を進む。
一本道だから迷う事は無いだろうがもしリリア達が全力で走り続けていたら追いつけるはずがない。
「リリア?こちらペコ」
何度か繰り返し通信してみるが反応が無い。

しばらく道なりに馬を進ませながら通信してみる。
「ペコ?ペコとアリスね!無事だった?リリアだよ!」
やっとリリアから返事が戻ってきた。もうそう遠くない場所にいるようだ。
「こちらペコ。落馬したけど追いかけてきた。アリスも無事。リリアはどこなの?デュラハンは?」ペコが返事する。
「デュラハンは逃げたよ。追いかけてきたなら一本道だからそのまま進んで。そしたらリリアが道に馬を繋いでいるから… それで馬車の部品が散乱している場所があると思う。そこから湖を覗くと斜面になっていて、そこにリリアはいるよ」リリアが応える。
「怪我はないんだね?元気ないけど大丈夫?もう近くまで来ているはず。状況を説明してよ」ペコ。
「逃げていた馬車が車体ごと湖に落ちてね… デュラハンは立ち去ったよ。救助活動中だけど… 一刻を争う状況じゃないよ…」リリアが力なく言う。
アリスは無言で馬に鞭を入れた。
「わかった… 無理しないで私達を待ってもいいよ。もう近いはず、今行くから」
ペコも通信を終えてアリスの後を追った。


「リリア!」
ペコとアリスが到着すると道端にびしょ濡れで座り込んでいるリリアを見つけた。
「あたし追いかけたんだけど… だんだん離されてね… ここまで追って来た時には馬車ごと落水した後で… 多分事故だよ。デュラハンの馬車がいたけど…救助に向かう間にデュラハンは逃げていった。木に人が引っかかっていて… まだ生きていたからポーションを飲ませてあげたかったけど… 完全にあばらとかいっちゃってて、動かせない状態だったしあのままポーションを飲ませても地獄だったろうし… で、その人にはお別れを告げて… それで、馬車の中の人を助けにいったけど、底が腐葉土の泥になっていて馬車は横転してハマっているし… 何とかドアを開けて全員助け出したけど… 手遅れだったよ…」
リリアの傍には合計6名の遺体がある。4人家族だろう、子供を含めた4名と護衛が真っ白になって横たわり、歪んだ遺体が1人横たわっている。
アリスがリリアの言葉を聞きながら素早く全員を確認した。
ペコをちらっと見て頭を横に振っている。
「…そっか リリアよくがんばったよ。全員天命だよ。無理にデュラハンと戦わなかったのも賢明だったよ。気にしちゃだめだよ。デュラハンを退治しなきゃいけないからね、気をしっかり持って…」
ペコが声をかけるがリリアはうつむいて泣いている様だった、無理もない。
「こんな場所に…デュラハン見物にでも来た家族かしら… とにかくご遺体を最寄りの教会に連れて行かないと… 馬車も引き上げなければ…ね…」アリス。
「あたし、ここに残るから二人で集落からギルメン呼んできて」リリアがポツリと言う。
「馬なら往復でそんなにかからいないじゃん。私が行くからリリアとアリスが残ってよ」ペコ。
湖はガラスの様に澄み、水底で馬車が泥にハマっているのが良く見える。皆あえて馬の方は見ないように努めながら話す。
気がつけば昼になり霧もほぼ晴れてきている。
「クレアレ、デル、エル…」
アリスがスクロールを読み上げるとアンデッド・ナイトがクリエイトされ、何か命令を与えている
「今、この遺体を守るように命令を与えたわ。これで熊程度なら余裕で追い払ってくれるでしょう。どちらにしても一人で行動するのは推奨されないし今こうしている間にもデュラハンが集落に現れないとも限らない。三人で集落に戻って報告して後は任せましょう。我々の最優先はダノン家をデュラハンから守ること、専念しましょう」
アリスの言う事はもっともだ。
「わかった、戻ろう。だけど、誰か一人は案内に戻らないとダメでしょ?」リリアが立ち上がる。
「大丈夫よ、デスティネーションの魔法で道標を残してあるから感知できる者なら迷わずここまで戻れる」アリス。
「集落にいるメンバーなら最低でもゼルスとアマネなら感知できるよ」ペコが言う。
「… そう、リリアには何も見えないけど… ペコは見えるの?」リリアがアリスの周辺を見つめる。
「私は場所打ちできないけど感知魔法は持ってるよ。色々便利だからね。これに比べるとリリアは無能力なのに驚異的な方向感覚を持ってるよね」ペコ。

リリア達はアンデッド・ナイトを残して馬を発進させた。


リリア達がナト村に戻って報告すると集まっていた冒険者達が事故現場に赴き、遺体と馬車を回収した。
リリア達はデュラハン撃退の責任者である。村に残っていた。

「リリア、顔色良くないよ。居残り組と私たちが見張っているから少し休みなよ」
ペコがリリアを気遣う。
「… そうだね、すっごく疲れた。少し何か食べて横になるよ…」リリアは明らかに元気がない。
「… 無理もないなぁ… あの惨状だったからなぁ、少し休めよ」ダカットも心配する。

リリアは言うと用意してあった食事を葡萄酒と一緒に済ませ「あんな思い… ごめんだよ…」と呟きながら馬車の荷台にあがっていった。
「… ねぇアリス、リリアはミートパスタの大盛りおかわりしてたよね…本当にショック受けてるのかな?」ペコが呟く。
「しっかり休んで、しっかり仕事をしてもらわなければなりません」ディル。

「あ… ディルいたんだったね…」
ペコが振り返る
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...