勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
398 / 519

【200話】 当日の夕方

しおりを挟む
リリア達は夕日に染まり始めたナト森を巡回中。正確に言えば緊急出動から引き返し中。
ナト村に押しかけているギルメンで感知魔法を設置できるナザリアが各所に魔法陣をしかけている。デュラハンが村に接近したら場所がすぐに特定できるようにだ。
気が利いているが、他の魔物、動物が魔法陣に入っても反応するので誤報もしばしば。
今も魔法陣から反応があったと言うのでリリア、ペコ、アリスは馬で出発してきたが誤報とわかり戻る途中。

魔法陣から反応があると名を上げたいギルメン達は我先にとスクランブル発進していく。
ここまでは誤報だが、次こそはと勢いごみ、特に今日は宣告当日とあって気合が入っているようだ。

「他の連中に先を越されて… ずいぶんとのん気だけど大丈夫なのか?」背中でダカットがリリアに聞く。
「何が?だって誰かが倒してくれたらそれでいいじゃない、あんまり村から離れると撃退手順違反でリスポーンしてくるみたいだけど、それはそれで委員会から一日でもデュラハンの登場を遅らせてくれって頼まれているから良いんだよねぇ」リリアは軽く答える。
“どっちに転がっても私の勝ちよ”的な余裕…
ペコは渋々といった感じで同行している。喧嘩以来リリアとは全く口をきかない。
ペコはリリアとの喧嘩の後、本当に帰ろうとしていたがアリスに引き止められた。
「アホくさい、付き合い切れないじゃん、帰るよ」とペコは言っていたが「ダメよ、引き受けたからには責任持つのよ」とアリスに結構強く諭されていた。
「… わかったって… 全く…」ペコは思いとどまったようだ。
リリア側からはアリスの表情までは見えなかったがペコの態度が変わるのがはっきりとわかった。
薄々感じるがアリスはペコなんかよりよっぽど怖い人物ではないだろうか、リリアは時々思う。

「リリア、デュラハンの登場を1日でも延長してくれって言われて承諾していたけど、あれはどうするの?」アリスが質問してきた。
三人一緒にいるとリリアとペコの会話が多くアリスはあまり口を挟まない。ペコが渋々といった感じで後方にいるので話しかけてきたのであろう。
「あれね… 一日延びると儲けも違うみたいだね。便乗し過ぎだよねぇ、ここに滞在中は全て王国が費用を出してくれるし、結構楽しいからもう少しいても良いかな?って思えるし、まぁ、さっさと仕事完了して街に帰ろうかとも思えるし… なるようになるよ…」リリアはえっへっへと笑っている。のん気。
「リリア、今は状況が状況だから笑っていられるけど、本来デュラハンは理屈を超えた強敵よ。少しはペコの怒る理由を考えなさいよ、いい加減な返事をしてはだめよ」
「わかったよ… ごめん…なさい…」
リリアが振り返るとアリスは相変わらず微笑んでいたが何だか鳥肌が立つ思いをした。
アリスは言うと馬を止めてペコを待っている。

その時通信が入った
「ナザリアよ。皆、ポイント・ウィスキーで反応したわ」
どうやら別の地点で何かが感知魔法陣にかかったらしい。
「了解」「任せろ、一番乗りだ」複数の応答が入る。

「ペコ、アリス、待って。ウィスキーポイントって結構遠い場所だよね。少し様子みようよ。また誤報かもよ、あんまり離れると今度は村まで戻るのに時間かかるよ」
ペコとアリスを制すリリア。皆は馬を止めて様子をみる。
夕日が傾く森の中はしばらく静寂に包まれていた。夜中から午前中は霧が濃いせいか霧が晴れている今、改めて森を見ると緑が深く濃く見える。山村ガールリリアは深呼吸をする。
「…ずいぶんと時間かかってるね」ペコ。
「場所が外れになるから」アリス。
また少し静寂に包まれる。

「返事ないね… 道に迷ったんじゃないの」ペコ。
「ウィスキー… 魔力があっても通信のイヤリングの範囲からは外れるわ」アリス。
「えぇ、だって、中継係りいるじゃん、誰か中継するでしょ」ペコ。
「普通なら… 中継係りなんて決めていないでしょう」アリス。
「まぁ、でも、取り決めなんかなくたって状況を見て誰かが中継するでしょ」ペコ。
「ウチはギルドとしてハイレベルだから誰かが組織的に動いてくれることが通常だけど、でも寄せ集めメンバーでは期待は難しいわ」アリス。
リリアは離れてペコとアリスの会話を聞いていた。

リリアのイヤリングにも雑音混じりの通信が入ってきた。
「魔法陣…入ったのは…」「… 見当たら…」「… 通って… 言ったって…」「…黒い…」
雑音混じりに耳に入るので何を言っているのかわからない。
リリアはイヤリングをぐっと耳に押し当てて集中する。見るとペコとアリスも同じ様な恰好をしている。
「… ちょっとわからないけど、今回はその辺の魔物でも動物でもないみたい。リリア、行ってみるよ」
ペコとアリスが馬を森の奥へと進ませ始めた時だった。
リリアは何か空気が動くのを感じた。

「二人とも待って!止まって!」
リリアが呼び止めるのと
「…見たって 黒い騎士が爆走…」「…首無し…村に向…る!」
複数の通信が耳に届くのとペコとアリスがリリアを振り返るのが同時だった。

“ドッ!!”
大きな蹄の音がして木々の間から黒い塊が勢いよく飛び出して来た。
ペコとアリスの馬が驚き二人が落馬した。
「森の中から?… ペコ!アリス!」リリアが叫ぶ。
黒い塊はそのまま飛ぶように二人を飛び越えると物凄い勢いで森の道をリリアに向かってくる。

その姿…
黒い騎士、黒く大きな馬体、鎧から上は首が無く左手に首を持ち、右手でしっかりと手綱を握り、疾風のように迫って来る。
勢いに驚いてリリアの馬が立ち上がる。リリアは必死に馬にしがみついた


デュラハンがあらわれた
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...