勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【223話】 二週間目のリリア

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リリア達はこの三日間程“虎頭団”を見張っている。
この虎頭団は切り落としたサーベルタイガーの首が飾られていたためリリアが勝手につけた名前だがその後、チャトというコードネームが付けられた。
虎頭だと意味ありげ過ぎるので通信のイヤリングで聞かれては目立つ。リリアの村にいた猫の名前から付けられた。

今日が決行の日から三日目、狂騎士の斧作戦開始からちょうど二週間目である。
リリアとデューイ、ダーゴが三人で見張っている。
ダカットの活躍も忘れてはいけない。
リリアとダーゴが賊のアジト付近に潜伏した後、程なくデューイが合流してきた。
「リリア、俺だ!バカ!デカい声だすなよ!」
潜伏していたらデューイが突然声をかけてきて驚いた。
リリアとダーゴの匂いを辿って来たらしい、さすがウルフマン。
「凄いね!便利ね」リリアが感心する。
「俺は特に鼻が利く方だ。リリアは考え方も体臭も青臭いからすぐわかるぜ」デューイが言う。
「昨日水浴びしたけど、お風呂入れてないからね…」リリア。
「… そういう意味じゃないと思うけどな」ダカットが呟く。

とにかくリリア達の潜伏は思った以上に効果を上げ守備は上々のようだ。
リリアが気配を消して潜伏する。デューイは鼻を頼りに追跡、ダーゴも身軽な上ジッとしていると見つかりにくい。
そしてダカットが大活躍。
リリアの指示でダーゴがダカットをアジト付近に放置しては回収する。夜でもビジョンがあるダカットは優秀な人材。
「間違いないな、あれは賞金首のバーンズとチャビィだった。夜、手下と山道を戻ってきたよ」ダーゴに回収されたダカットがリリア達に報告する。
それをまた、使い魔等を使ってビケットに報告する。
魔法でターゲットの印をつけた荷物四つのうち三つはここに運び込まれた。ビケット側でも場所は把握できている。もう一つは別な盗賊団のアジトに運び込まれたらしくそちらには“ジャック”とネームがつけられミスニスとバンディが潜入している。


リリア達は大きな盗賊団のアジトに潜伏できたようだ。
三日間で結構チャト団の情報を丸裸にできた。

Dead or Alive
バーンズ (12000G)
チャビィ  (7200G)
その他小者 (2000G)
手下を含めメンバー総勢13名
囚われ5名(2名はMissingの届け出人)
保有資産 (最低7000G)

リリア達が把握している状況だ。
保有資産のほとんどは今回ビケットから手に入れた物資が価値のほとんどを占める。しかも横取りがあり目減りしている。
必要経費等諸々を計算するとバーンズを取り押さえブレークイーブン程度、儲けをだす条件としては最低バーンズの確保からその他どれだけ人を押え資産を取り戻せるか。
アジト撲滅なら街からもお礼が出る。その他Missingも依頼人からお礼がもらえて、取り返したアイテムによっては保険会社からもお礼がもらえる。

賊はビケットの狂騎士の斧作戦前までは20名以上いたようだが、混乱の中でメンバーを失ったようだ。
メンバーが半減したこともあり、組織としての機能がだいぶ低下しているように見て取れる。
この一件で、横取りした賊同士も不仲になったようでここ数日も山中で小競り合いが続き、賊同士戦力を削り合っている。
メンバーが減り闘争に気を取られていて、リリア達には好都合な状況が続いている。
喧嘩、争いに乗じて他に潜む盗賊団の場所も割り出した。


リリア達はカモフラージュを作り、その中で行動パターンを観察したり時には追跡をして過ごしている。
「ビケット凄いよね、計画取りに進んでいるよね」リリア
「そうだな、正直計画以上と言ってもよいな、しかし、これからが勝負だ。ここまではプロローグみたいなものだろ」デューイが言う。
確かに言う通り、大勢の冒険者で大挙して、あるいは衛兵に通報して根絶やしにしてしまっては苦労の意味がない。ビケットに雇われているリリア達は自分達の手でDead or Aliveを押さえ、Missingを保護し、賞金につなげなければならない。
「やっぱり賊は根絶したほうが良いけど…」リリアが呟く。
リリア達が隠れるネットと枝葉で作ったカモフラージュはちょうど日差し避けになっている。秋も深く、じっとしていると肌寒く感じる時もある。
「そうか?…まぁそうだな… わかるがどうせこの世から完全に悪が無くなることはないぜ。なるべくしてなる人間がいるもんだ。完全にいなくなったら仕事が減る。ビケットに任せておけばいいぜ」デューイ。
「そうだね、リリアだってこれで儲けたいものね」リリアは少しテヘペロ的にわらう。
「… でも、囚われている人は解放したいよね…」リリアが呟いた
「…あぁ、それはそうだな」デューイも頷く。
格子がはまる洞穴があり、そこに女性ばかり囚われている。

町中にも賊の手下がいる、兵士等が公に動き出すと逃げてしまうだろう。
また、他の冒険者ギルドが力技で攻めても同じ結果、あるいは利益をめぐって対立しかねない。そんなことより一人、また一人と可能限り知られないうちに暗殺してしまうのが低リスクな作戦。
ビケットの指示に従って行動するしかない。


その夜
リリアはカモフラージュから観察を続けていた。
デューイとダーゴは寝ている。夜中は交代で見張らなければいけない。
ダカットは沢のアジトの通り道で定点観測要員として放置ホウキされている。
「いいなぁ… 温かい食事して、お風呂入って、フカフカベッドで寝たいなぁ…」リリアが呟く。
ここから覗くと賊共はキャンプファイヤーを囲み食事をし、お酒を飲んで騒いでいる。
「なんだかこっちが罰ゲームを受けているみたいだよ」リリア。
ここ数日間は口にするのはぼそぼその保存食、寝るのは岩の上、虫に体を這われ、痕跡を出せないのでトイレも補水も制限状態だ。
栄養が足りていないのか胸が小さくなった気がする。
賊が騒いでいるのを羨ましがって見ていたら声がした。
「皆いる?連絡に来たわよ。ゴーレムお疲れ様。皆を起こして」
レナードの使い魔、妖精のサラが伝言にやってきた。相変わらず透き通った声をしている。

「皆聞いて、明日の夜、このチャトにビケットが来るわ。そろそろ次のステップだって。ビケットが来て確認して指示を出すからそれまでは下手に手を出さず、行動を見張り続けてくれだって。ダカットは定点観測?OK、特に報告は?何か伝えたい物ある?それじゃ私帰るから、がんばってね」サラは告げると帰っていった。
「使い魔ってどこか他人事っぽいよね…たまにはお土産でも持って来てくれればいいのに」
リリアは飛び去るサラを眺めながらいう。
「お土産?サラが?おまえビスケットの欠片を三等分して食うつもりかよ」デューイは笑いながら再び寝に入った。

リリアがアジトを見下ろすと酔った賊が囚われていた女を穴から引っ張りだすところだった。
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