勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【230.5話】 郊外ドライブの人々 ※一日前の話し※

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「超えよ~あの黄金の峰~、ドラゴンを駆り~、称えよこの紺碧の空~、命を炎と燃やし~」
手綱を手にリリアは口ずさむ。
リリアは結構ご機嫌だ、フユネコから借りた馬車は大きくはないが良く手入れされている。もともと自分の馬車を所有することに憧れているせいかリリアは操車するのが好きなようだ。
「うるせえな、居眠りもできねぇ」護衛席のガスコインが笑う。口で言う程眠くもなさそうだ。
「ドラゴンライダーだよ、コトロがバーで歌ってるから覚えたんだよね」リリアがニコニコ答える。
「歌はエルフか人間だな、それは認めるぜ。鬨の声は俺達オーガだな。俺達の雄叫びに適う種族はいないぜ。しっかし何でまたドラゴンライダーなんだ?自分が勇者だからか?」ガスコインが聞く。
「えっへっへ、まぁそんなところだね」リリアが笑う。

ルーダ・コートの街を出発して順調だが。ちょっとオーバーペース気味で移動している。馬にも疲れが見えるが何とか今日中に最寄りの村に到着したい。期限は一週間、捕獲仕事なので完了出来る時はあっという間だが探し出せない時は全然見つからないものだ。
魔物はなるべく回避してきている。メンバーを考えると馬車で逃げ切るのが安全かつ効率的。
日没を過ぎそうだがなんとか最寄りの村に到着可能な行程までやってきて一安心。リリアもおやつを食べながら歌の一つも口ずさむ。


早朝から街を出発して来たリリア達、今のところそれなりに順調。
リリアは馬車手と護衛を交代で行っている。もちろん休憩もある。
ガスコインは護衛を専門、サンキャット、ヒマネコも操車と護衛に入る。
どうせ何もしてくれないだろうと思ったがコロットが操車する事もある。
その時はアケミがコロットの隣に座る。
コロットとアケミはドライブ気分、コロットが「俺が馬車手するぜ」というとアケミも「なら私も前に座らせてよ」とコロットの隣に座る。
この二人にとっては馬車を安全に移動ということより本当に二人で郊外ドライブ気分のようだが、何もしないと思っていただけに負担が少し減るのはありがたい。
アケミは見張り役にはならないのでその時だけリリアかガスコインが馬車の前席に並んで座っている。

コロットは時々調子に乗って強引に前方の馬車を追い越してみたり、かってに景色の良い丘に上がり出したりしてアケミとわいわいやっている。
「ちょっと!煽り運転はルーダリア王国の条令で禁止だよ!」
「なんでそんなにペースを変えるの?馬が疲れるでしょ!」
「えぇ!ちょっとリリアが居眠りしてたら勝手に道外れて!スケジュール守ってよ!」
たまにリリアが注意している。
「人のデートの邪魔して、私達だって手伝ってるんだから楽しむ権利あるじゃん、後ろで寝てなよ、ドライブの邪魔よ」
アケミが憎まれ口をたたく。
リリアは苦々しく思いながらもあまり言わないようだ。
確かに少しは役に立っている。サンキャットとヒマネコ達は真面目だが、いざとなるとコロットやアケミレベルと大差ない。
それに馬車を郊外でドライブするのは確かにウキウキする、リリアもあまり無粋な事は言わないようにしている。

今もコロットが操車してアケミが隣でおしゃべりしている。
隣でリリアは弓を抱えて黙って聞いている。
荷台から乗り出してサンキャットとヒマネコもコロット達と話に花を咲かせている。
馬車はちょうど丘を過ぎてなだらかに下り、前方には森、左手には湖が見えてきた。右手の丘陵には小さな砦が立っている。気持ちの良い眺め。
「おい、こんな場所までくることないけど綺麗だな」
「俺もキャラバン商人も悪ないと思っていたところだぜ」
「キャハ、あんた隊長と喧嘩して追い出された口でしょ無理よ。でも色んな景色を見れるの最高」
「街商人は安全だが、キャラバンに入った連中が辞めないの気持ちもわかるな」
「最高だぜ!この台地は俺達のものだぜぇ!」
皆楽しそうに馬車を転がす。
「…… ねぇ、サンキャット、あたしは荷台で少し休むからここ変わってよ」
リリアはサンキャットに護衛を頼むと荷台の方に移った。
ガスコインが檻と荷物の間で休息している。
リリアも適当にスペースを見つけて寝っ転がる。
「あたし寝ているから、魔物に襲われたら遠慮なく起こしてよ。それからペース守ってよ。日没過ぎには村に到着予定だけどあまり遅くなると危険になるからね」
リリアは四人に声をかけると休息に入った。
「おい、あの連中に任せて大丈夫なのかよ。コロットとアケミなんてピクニックじゃないか、デートと勘違いしてるぜ」ダカットが呟く。
「…別にいいんじゃない… 真剣に聞いていると腹が立つから休んでるよ。皆楽しそうだし…良いじゃない。馬車旅行って楽しいもんよ」
リリアは言うと水を飲んで寝に入ってしまった。


リリアは横になるとすぐに寝息をたてはじめた。
どんな状況でもすぐに寝に入れるリリアの得意技だ。
「… 珍しいな… 気を使ったのか…何か不満でもあったのか?」
傍でリリアを見続けているダカットだが、リリアの心境はよくわからなかった。
ダカットはしばらく馬車に揺れながらおしゃべりをする四人の様子とリリアの様子を交互に見ていた。
「… いちよう俺もドライブしてるんだけどな…」
ダカットはちょっと呟いてみたい。
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