勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【236話】 容疑者リリア

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スパイ容疑と国家転覆罪の容疑でルーダリア城に連行されたリリア。

「何よ、勇者が来てもお迎えも無ければ、誰も見向きもしないじゃない」と待遇に不満を漏らしていたリリアだったが、ある意味リリアの待遇は一気に改善された。

お迎えの馬車は警護強固にして厳重。
もちろん、魔物が道中出現してもリリアが倒しに行く事は無い、全部衛兵が始末してくれる。
馬車内ではリリアの両脇に屈強な衛兵達がリリアをがっちりガード。魔物等、リリアに指一本触れられない厳戒体勢。
贅沢とは言えないが食事も出る、トイレまで付き添ってもらえる。
お城に到着すると普段の一般開放門に立ち寄り一般人列にならび、“ゲスト”と書かれた札を首からかける必要もない。
大きな第二ゲートからそのまま馬車で乗り入れた。
正面ゲートとはいかなかったものの、とうとう一般以外で勇者リリアは入城を果たした。
本来なら感動するシチュエーション、リリアは普段使わないルートで入場できたが、兵士に両脇を固められていて少しだけ車窓から確認しただけだった。
城の前に到着すると、リリアの馬車は大勢の兵士達に迎えられた。
当然、歓迎ムードではない。ピリピリした雰囲気だが。
「あぁ… 皆さんお揃いで… えー… スパイ容疑なんて勘違いですよ、えっへっへ」
普段は迎えの一人もいない放置プレイに不満があったが、いきなりこうも物々しいとちょっと驚く、しかも雰囲気は最悪。
リリアは愛想笑いしながら挨拶をしてみたが誰一人ニコリともしない。

普段ならリリアは必ず勇者管理室に立ち寄らされる。
室長の長い、小言のような愚痴のようなお説教を聞かされるため、ルーダリア宮中でリリアが最も近づきたくない部屋に直行させられる。
が、今回は勇者管理室にも行かなくて良いようだ、本来ならリリアには「ラッキー!」って感じなのだが、馬車から降ろされたリリアは、厳戒態勢のまま、お城の隅の一室に押し込まれた。
「今日はもう遅い、明日から査問になる、今夜はここで待機されよ」
ドヤドヤとリリアを囲んで歩く衛兵の中で、マントをつけ、ヘルメットに赤いフサフサしたものをくっつけている大男に半ば押し込まれるように部屋に入れらた。
「… え?待って! あの… その… ご飯と飲み物って出るのでしょうか?… あとトイレ使えるのならどこかなって… えぇ… 車中は話しかけても誰も答えてくれないし、紋章入りの鎧の人が取り調べ後の決定があるまで何も話せんっとか言うから、事前の説明なかったんだよね… こうと知ってれば、ここに来る前に、馬車手さんにお手頃グッズ店に寄ってもらって、ご飯とお泊りセット買ったんだけど… 説明無かったんですよ… お腹空いちゃって… 馬車移動からすでに色々制限があって、既にご飯食べさせない拷問とかトイレは村まで待て拷問とか始まってるのかなぁ?とか思っちゃったり… まぁ、あの… お腹すいてるんだよね…」リリアは愛想笑いしながらやんわりと切り出してみた。
「…… 移動中の事は良く知らないが、貴様は容疑者だ、行動に制限があるのは当然。特に食わさない事はない。食事は出る、飲み物もだ。トイレは廊下を右に出てすぐだ。この部屋を出るなら左には行けない。もっとも見張りがいるので勝手に出歩けないが、とにかくここで待機だ」ヘルメットに赤いフサフサしたものをくっつけている大男が説明してくれた。
リリアは部屋に入れられ、見張りを残して全員立ち去るようだ。
「あ!ちょっと待って、ください… あの… あたし、城で出る、あのもったいぶった量の食事苦手で… 珍しい物があって美味しいけど… 量がねぇ、ケチケチでしょ?… すごくお腹空いているから、量多いと嬉しいなぁって… それと、出来れば鶏肉料理が食べたいです。あ、後、いきなりでこんな格好だけど、王様と食事するなら… ちょっと着替えたい、というか… 着る物貸して欲しいの… 貸し衣装… 出来ればあのフワフワのヒラヒラして道幅いっぱいに広がったスカートのやつとか憧れっていうか… せっかくだから、白い純白の肘までグローブとか… あと出来たらティアラ…」リリアはちょっとすまなそうに切り出してみた。
「ふざけるな!!貴様は犯罪者だ!食事に呼ばれるとでも思っているのか!食事はここに運ばれる、今回は政治犯扱いで牢屋留置でないだけありがたいと思え!若造!」
赤いフサフサはメッチャ切れて、ドアをぶち閉めて去っていった。


「そっか… お呼ばれはされないのか… 考えてみればそうか… お腹空いたなぁ… お腹いっぱい食べれる量だといいなぁ」リリアは独り言を呟く。
一人になって部屋を見回すと小さいが、ベッド、デスクセット等がある、必要最低限はそろった部屋だ。
テーブルセットではないので、どうやら身分の低い執事等が使う部屋だろうか?
リリアは確定的に胸が大きく、決定的に勇者の器は小さくとも、その言動からたまにスゲェ人間の器の大きさを感じさせる言動を取る。
リリアはあまり緊張感がなくのん気な感じだが… 今、実際にのん気なところがある感。
スパイ容疑や国家何とか罪がどんなものかよく知らないが、勇者になってメッチャがんばった二年間で全然知名度もあがらないリリアが、そんな大それた悪事を行う力を持っているとはリリア自身思っていない。
「何かの間違いだよ。きっと例の勇者リリアの名をかたる偽者の言動が勘違いされただけだよ、説明したらわかってくれるよ」リリアは呟いてベッドに倒れ込んだ。
しかし、のん気なリリアでも少しは不安を感じている。呟いてみたのは自分を励ましてみたところでもある。

“… あたし何かしたかなぁ?”
リリアは天井を見ながら考えた。特に心当たりはない。
“… あたし何かしなかったかなぁ?”
リリアはベッドをギシギシさせながら考えた。何かした心当たりが無いなら何かしなかった方面から考えるしかない。
“わかんないなぁ… まぁ、明日になったらわかるよね”
天井の模様を結ぶと、ちょうど幽霊が立っているように見える。
リリアは立ち上がって窓から外を見てみた。
この部屋には小さな窓が一つだけある。
「ここは二階なんだ、まぁ逃げる気はないけどね」
リリアは再びベッドに寝転んだ。他にすることも無い。


“リリアは壁の一点を見つめて何かを考えていた”
壁絵等も特にない部屋。壁のシミを見つめている。
“よし、決めた!”
リリアは意を決したようにベッドから立ち上がった。
素早くドアに近づく…
“… これは正しい権利よ…”
リリアは静かにドアを開けてみた


“ジロリ”
ドアの脇にいた兵士がリリアに気がついて顔を向けた。
バイザーで目線はわからないが、まさに“ジロリ”と音が聞こえてきそうな感じ。
「あの… すみません…」リリアがか細い声をだす。
「………」
返事がない、ただの… 兵士のようだ。恐らく余計な会話は禁止されているのだろう。
「あの… あたし… けっこうお腹空いちゃって… 夕食早めがいいなぁ…って… ぁ、でもやっぱり出来次第でいいです」
リリアは最後の方は消え入りそうな声でいうと、再びドアを閉めた。

雰囲気は最悪のようだ。
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