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王のお茶会

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 それから数日後の暖かい日、王主催のお茶会が開かれた。場所は王のサロン。
 王弟たちが来る前に集まった王妃と妃はソファに座っていたが会話はほとんどなかった。今日はそれぞれの侍女がついているため、王妃が緊張している。公の場だけでなく、秘密の部屋でも一緒にすごすうち、ユリアにも王妃が緊張しているかどうかわかるようになっていた。
「そろそろ時間だな」
時計を確認して王が言うと、王の侍従が動き出す。美しく花が飾られたテーブルに色とりどりのお菓子が並べられる。テーブルの用意ができた頃、侍従が王弟たちの来訪を告げた。
「キース、よくきたね」
「陛下、お招きありがとうございます」
王とよく似た面差しの王弟はキースといった。
「キース、今日は身内での茶会だ。堅苦しいのはなしだよ」
「ではお言葉に甘えて、兄上」
王の言葉にキースが微笑む。するとキースの後ろにいた美しいが気の強そうな女性が一歩前に出た。
「陛下、私たちまでお招きいただきありがとうございます」
「よくきたね。ティファラ、カイルも」
「お久しぶりでございます、陛下」
カイルと呼ばれた少年が挨拶をして一礼する。王はうなずくと3人をテーブルに案内した。
「今日は王妃と妃たちも一緒だ。まずは新たに後宮に入った妃を紹介しよう。ユステフ伯爵家のユリアだ」
王に紹介されたユリアは一歩前に出るとドレスの裾を持って優雅に一礼した。
「はじめまして。ユリアと申します」
「はじめまして。キースです。こちらは私の妻のティファラと長男のカイル」
「はじめまして、ユリア様」
「はじめまして」
キースに紹介されてティファラとカイルが挨拶する。ユリアもそれに挨拶を返すとそれぞれが席についた。

 お茶会は和やかな雰囲気で始まった。王と王弟は会うのが久しぶりだったようで、会話に花が咲いていた。楽しそうな会話を王妃と妃たちも穏やかに聞いている。いつもは緊張して表情が硬くなる王妃も、このふたりの雰囲気のおかげかいつもより若干表情が柔らかかった。
「ところで陛下、カイルの王位継承はいつ宣言していただけますか?」
「ティファラ、よさないか」
王と王弟の会話が一段落したのを見計らってティファラが口を開く。その内容に王妃の表情が一気に硬くなり、妃たちも眉をひそめた。ユリアは驚いて目を丸くしてしまった。
「そう焦らずとも、私に子ができなければ次の玉座はカイルのものだ。カイルなら私も安心して王位を譲れる。だが、今はユリアが新しく後宮に入ったばかり。今すぐ宣言するのはどうかと思うが?」
「それは、そうでございますね。わたくしが浅慮でしたわ」
「ティファラ、王位継承は兄上がお決めになること。私たちが口を挟んでいいことではないよ」
王弟の厳しい言葉にもティファラは反省した様子はなく、形だけ「申し訳ありません」と言っていた。
「けれど、王妃様はよろしいのですか?ユリア様はお若くお美しいですもの。陛下のお心が移ってしまわれるのでは?」
「…私は陛下のお気持ちに従います」
明らかに棘のある言い方に王妃が感情のこもらない声で返す。ティファラはつまらなそうな顔をするとユリアに目を向けた。
「ユリア様はおいくつになられましたの?」
「私は16になりました」
尋ねられてユリアが尋ねると、ティファラは「本当にお若いのねえ」と微笑んだ。
「ユステフ伯爵は子煩悩で知られた方。このように可愛らしいご令嬢を後宮に送り出したのではさぞお寂しいのでは?」
「家には兄と姉がおります。そんなに寂しくはないと思いますよ」
にこりと笑ってユリアが言うと、ティファラはいやらしく目を細めた。
「お姉様はまだどなたにも嫁ぎませんの?お姉さまのほうが後宮に入ってもよろしかったのでは?」
「それは…」
ティファラの言葉にユリアは答えに詰まってしまった。確かに順番からいえば姉が後宮に入るほうが自然だった。
「ユリアをと望んだのは私だよ。ユステフ伯爵はユリアはまだ早いと言っていたが、私が無理を言ってユリアを後宮に呼んだんだ」
答えに詰まったユリアを見て王が言うと、ティファラは「あらまあ」とあからさまに驚いた顔をした。
「陛下もまだまだお若いですわね」
そう言って笑うティファラに王妃だけでなく妃たちも表情が固まっていた。
「陛下、少しお庭を見せていただいてもいいですか?」
殺伐とした雰囲気を破ったのは王弟の息子、カイルだった。カイルが庭に咲いているバラを見たいと言うと、王は微笑んでそれを了承した。
「母上、一緒に見に行きましょう?バラは母上がお好きな花ですよね?」
「え?ええ、そうね」
さすがに息子に誘われては断れずにティファラが席を立つ。そのまま息子に手を引かれてサロンを出ていくと、王と王弟はついため息をついてしまった。
「兄上、いつものことながら申し訳ありません」
「うん、まあ、仕方ない」
謝る王弟に王は苦笑しながらうなずいた。
「王妃様とお妃様たちも、申し訳ありません」
「殿下が悪いわけではありませんわ」
小さく微笑みながら言ったのは王妃だった。王と幼馴染みである王妃は王弟とも子どもの頃からよく一緒に遊んでいた。
「陛下、王位をカイル様にお譲りになるときはカイル様を陛下と王妃様の養子になさると早く教えて差し上げてはいかだすか?」
たまりかねて口を開いたのはエリスだった。エリスの言葉にカリナとイリーナも同意するようにうなずく。王は苦笑しながらそうするとカイルを隠されそうだと言った。
「カイルに何かあっては困るからね。あの子は確かに頭はいいが、まだ9歳だ。両親から引き離してしまうのは可哀想だよ」
「カイルがもう少し成長したら、正式に養子として城にあげることにはなっています」
「もうそこまでお話が進んでいるのですね」
王と王弟の話は次の王はほぼカイルに決まっていると言っているのと同じだった。カイルを養子としてしまえばティファラが国母となることもない。そのことに王妃や妃たちは少しだけホッとした表情を浮かべた。
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