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ユリア

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「陛下、ご報告したいことがございます」
オルガと共にやってきたヒギンズの言葉に王はうなずいた。
「オルガが一緒ということは、ユリアのことかな?」
「はい。先ほど先生に診察していただきました」
「それで、ユリアの容態は?」
王に問われてヒギンズは言葉に詰まった。どう言ったものかと考えていると、先にオルガが口を開いた。
「恐れながら、ユリア様の不調の原因ははっきりしません」
「はっきりしないとは?」
オルガの言葉に王が怪訝な表情をする。オルガは言葉を選びながら話した。
「お疲れがでたのは確かかと思います。しかし、女性の不調には常に妊娠を考えなければなりません」
「妊娠?ユリアが?」
「まだ確定ではありません。ユリア様はまだお若く、月のものが定期的ではありません。まして、後宮に入られたりパーティーや視察など環境の変化が激しかったですから、周期が乱れてもおかしくはありません」
妊娠という言葉に驚いた王は困惑したようにオルガを見つめた。
「オルガ、ユリアは妊娠しているのか?」
「確定するにはあと数ヵ月お待ちいただくのがよろしいかと。しかし、産婆に診てもらえば多少早く確定できるかもしれません。ユリア様にも妊娠の可能性はお伝えしました。ひとまず月のものがくるまでは安静になさるのがよろしいかと」
「…わかった。ヒギンズ、産婆の手配を頼む。それから、このことは外に漏らすな。妃たちと叔母上以外には侍従や侍女たちにも知られるな」
「かしこまりました」
王の言葉にヒギンズは一礼してオルガと共に部屋を出た。

 部屋を出たオルガはヒギンズを自分の部屋に連れていった。
「ヒギンズ様、産婆には心当たりがございます。あれならば口も固いですしちょうどいいかと」
「ありがとうございます。では、あとでその方について教えてください」
産婆をどこから手配するか考えていたヒギンズはオルガの言葉にホッとしたような顔をした。
「…これは私の勘でしかないのですが、おそらくユリア様はご懐妊されています。ただの疲れ、暑気あたりとは違うように見受けられます」
「先生がそうおっしゃるのなら、おそらくそうなのでしょう。私もそのつもりで色々と動こうと思います」
「ユリア様はまだお若い。妊娠するとただでさえ精神的に不安定になるものです。あまり不安にさせないように、ユリア様が穏やかにすごせるように、お願いいたします」
そう言って深く頭を下げるオルガにヒギンズはしっかりとうなずいた。
「陛下の御子をご懐妊されているのですから、心身の安全を最優先にいたします」
子どもを授かることは難しいかもしれないと言われていた王の子を身籠ったかもしれない。そのことがもし万が一にも貴族たちに知れればユリアの身が危ない。ユリアに危害が加えられるなどあってはならないとヒギンズは気を引き締めた。

 オルガとヒギンズが退室した後、王は険しい表情で考えこんでいた。
「陛下、難しいお顔をされて、どうしました?」
王妃がそっと王の手を握って声をかけると、王はハッとしたように顔をあげた。
「リーシュ。ユリアが、妊娠したかもしれないと…。私の子を…」
「ええ。とても喜ばしいことですわ」
王妃はにこりと笑うと握った王の手をそっと撫でた。
「わたくしはとても嬉しいです。世継ぎということだけでなく、陛下のお子が生まれるということが嬉しいのです。陛下はいかがですか?」
「私は、私も、嬉しい。だが、ずっとどこかで私に子はできないのだと思っていた。だから、急に子が生まれるかもしれないと言われて、戸惑っている」
どこか不安そうに言う王に王妃は微笑みながらうなずいた。
「それは、確かにそうかもしれませんわね。まだ確定ではないと言いますし、過度に期待するのはいけないのかもしれませんが、それでも、今は素直に喜んでもいいとわたくしは思います」
王妃の言葉に王の顔がくしゃりと歪む。王は王妃の肩に額をつけるとぎゅっと抱き締めた。
「リーシュ。たとえ子が生まれても、私の王妃はお前だけだ。それでも、やはり子ができたとなれば嬉しい」
「ありがとうございます。わたくしも陛下のお子が生まれるのはとても嬉しいですわ」
王妃はそっと王を抱き締めて微笑んだ。

 オルガの診察を受けたユリアはオルガから妊娠の可能性があるためしばらく安静にするようにと言われて困惑していた。
「メイ、私が妊娠なんて、本当かしら?」
ベッドに体を起こして自分の腹に手を触れながら言うユリアに、メイは嬉しそうに微笑んだ。
「まだ確定ではないということなのでなんとも言えませんが、もしそうなら喜ばしいことです」
「そうよね。喜ばしいことよね。でも、なんだか不思議だわ。私の中にもうひとりいるかもしれないなんて」
そう言って不安そうな顔をするユリアの手をメイはそっと握った。
「ユリア様、私はいつもおそばにおります。不安なこと、辛いことがあったらいつでもおっしゃってくださいね?」
「メイ、ありがとう」
メイの頼もしい言葉にユリアはやっと笑みを見せた。
「でも、今日のお茶会は出られないわよね?残念だわ」
「体調が優れないのですから仕方ありません。先生も安静にとおっしゃっていましたし。私が侍従長にお話しておきますので」
「お願いね」
残念そうな顔をしながらうなずくユリアにメイは微笑みながらうなずいた。
「お任せください。ユリア様は少し横になってお休みください。何か口にできそうなものはありますか?」
「そうね。何かさっぱりした冷たいものが飲みたいわ」
ユリアの言葉にうなずいたメイは一礼して部屋を出ていった。残されたユリアは妊娠したかもしれないなどと言われてもまだ信じられないものの、無意識に自分の腹を撫でていた。
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