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気になるあの娘 その2

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Kは次の日、うだるような暑さのなか無目的のような目的でプラットホームの中の立ち食いそばへ出かけた。

(とにかくこの日は暑かった)

Kはとなり町の駅まで歩くと入場券の切符を買い、プラットホーム中央の立ち食いそばへ入った。

Kは食券を買う前に彼女が接客しているかどうか、店の外からこっそり中の様子を見た。

(あの娘だ)

いることを確認すると、食券を買って中へ入った。

このときKは澄まし顔で、とりあえず無言で食券をカウンターに置いた。

「おうどんでよろしいですか」

彼女はKをちらりと見た。

Kは無言のまま首を縦に振った。(もうちょっと素直になれよK!)

「お待ちどうさまで~す」

その後、しばらくは会話が途絶えた。

「お水ちょうだい」

客のなかのひとりの男が水を持ってくるように彼女に頼んだ。

「は~い」

水が入ったポットは、Kの頭上のカウンターにあった。

彼女はコップに水を入れ、客の男に差し出した。

Kはタイミングを見計らった。

(突発的に彼女のプライベートなことだけは聞いてはまずい!)

次の会話を探すのに、苦戦を強いられたKではあったが、彼女がポットを置こうと戻ってきた瞬間、

( いまだ! )

「ダルメシアンって知ってる」

Kの脳裏にマーブルが浮かんだ。

そして…

「ええ、知ってます」

彼女は冷静な表情で言った。

「犬って可愛いよねぇ、犬と猫どっちが好き?」

「どっちも可愛いけど犬かな」

彼女の先程までの淡々した表情とは一変、笑顔だった。

「どうして?」

「私、犬を飼ってますから」

うどんを食べるだけの目的だけで来た訳ではなかったKにとって、次のセリフを探す苦戦を強いられた。

店の地味な茶色い掛け時計はもう二時間を経過していた。

カウンター越しに立ちつくすだけの空しい時間がいたづらに過ぎた。




Kはいら立ちから、いったん店の外に出てホームの喫煙コーナーでタバコを吸った。

Kは駅の売店でボールペンを買った。

Kは立ち食いそばに戻り、食券を買い食券の裏面の空白部分に[デートしよう]と書き記して店のなかへ入った。

Kはカウンターに食券を置き「うどん」とやや強い口調で置いた。

Kはうどんをすすりながらあの娘の様子をちらりと見続けた。

(変化があるのか?、どうなんだ?)

(次に口を開くのは俺かそれともあの娘か?)

娘は食券を調理場の横にある電話の横に置いた、何一つ表情を変えない冷静さだ。

どうやら沈黙を破りそうにない、Kにしても次の会話を探す困難な状況だ。

(やっぱり沈黙を破るのは俺のほうだ)

「お水ちょうだい」

Kは頭上にあるすぐ手に届くポットの水を頼んだ。

娘はすでに洗われたコップに水を注ぎ「はいどうぞ」と淡々とした表情でカウンターに置いた。

Kは、またも次の言葉に詰まった。

(あの娘の心境が読めない…)

(やっぱり俺って変わってんのか?あの娘の心のなかで俺のことを笑っているのか?どうなんだ?)

「ダルメシアンって知ってる」

突発的なKの言葉だった。

「101匹わんちゃんのことでしょ?」

「そうそう、101匹わんちゃんはダルメシアン」

「はい知ってます」

「犬ってかわいいよね、犬と猫どっちが好き?」

(何を言ってんだ俺は)

「どっちもかわいいけど犬かなあ」

「どうして?」

「わたしが犬を飼ってるから」

「散歩する時はどこへいくの?」

「うちの近くです」

「公園とかは?」

「行くこともありますよ」

「ひ、ひまわり公園は?」

「ひまわり公園、日曜日は行きますけど、どうしてそんなに聞くんですか?」

「ひまわり公園はここら辺では犬の散歩のコースで有名だから」



Kは日曜日、進のスーパーの仕事があったが急用ができたことを告げてマーブルを連れて犬好きが集まるひまわり公園に出かけた。

(名前すら知らない娘を追いかけるKだったが…)

AM9:00から待つこと2時間半、あの娘がビーグル犬を連れて散歩にやってきた。

公園の噴水の前で偶然を装うKと何も知らない娘だったのだが…

「あのー」

「え?」

「こないだの、あっ、かわいい 女の子ですか?」

「そうそう、ビーグルちゃんも女の子?」

「はい」

マーブルとビーグルはスキンシップを始めた。

「こないだの食券」

「食券?」

「僕のプロポーズ」

(ごめんなさい だけは言うなよ)

「チョコに優しい人は好き」

「チョコ? あー、わんちゃん(ビーグル)の名前」

「この子はマーブルって言うんだ」

「じゃあ、マーチャンね」

「そうそう、マーチャン」

マーブルとチョコを通じてKと娘は散歩仲間としての友達になれた。

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