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⑧優しい魔王様
しおりを挟むふっと目を覚ますと、見知った天蓋付きのベッドに寝ていた。
私の部屋かしら・・・
ぼーっとしながら辺りを見回す。
ふと横を見ると魔王様がベッドに腰掛けて私を見下ろしていた。
「良かった。目が覚めたか、具合は?大丈夫なのか?」
「ええ・・・私は何を・・・っっ」
身を起こしながらぼーっとした頭が徐々にハッキリとしてきて、ふと、思い出した。私に向けられた鋭い切っ先を。
「あっ・・・」
私は真っ青になり両手で自分を抱えると震えが止まらなくなった。
「怖かったね、もう大丈夫だ」
そう言って魔王様は私を優しく抱きしめてくれた。
その優しい温もりに思わず涙が溢れてくる。
全然知らない人なのに何故か懐かしい。魔王様の腕の中はとても安心できる空間で、それまでの緊張と恐怖が一気にほぐれて行き、私はわっと魔王様にしがみついて泣いた。
どれくらい泣いていたのか、魔王様はずっと私を抱きしめて背中を撫でてくれていた。
しばらくして徐々に落ち着き、少し余裕が出てきた頃、些細な疑問が浮かんだ。
あれ?魔王様の背中、羽が生えてなかった?
何も無い。そう思って肩甲骨のあたりをさわさわと触っていると、
「何をしている?」
魔王様に甘い声で耳元に囁かれた。
「あ、これは、特にいやらしい気持ちでさわっていた訳ではっ・・・」
ぼーっとした頭で無意識に考えていたので気がつかなかったけれど、今の私の行動ってめちゃくちゃ怪しいわよね。
慌てて身体を起こして魔王様から距離を取ろうとしたけれど、魔王様の腕は緩むことは無く、抱きしめられたまままた耳元に囁かれる。
「ほう・・・いやらしい気持ちは無かったと?」
「あ、あの!魔王様最初に出会った時真っ黒な翼があったと思ったんだけれど、無いなって思いましてっ・・・」
甘い声で囁かれ続けると顔が火照って魔王様をまともに見れない。
ぎゅっと抱きしめられてるので顔を見られなくてすむのは今はいいのかもしれない。
そう思ったのに魔王様は腕を緩め、少し身体を離すと私の顎をぐいっと上げて見つめてきた。
片方の腕では腰を抱き寄せられたままだ。
何??ダメ、今見ないで!今は顔が真っ赤なんだから!恥ずかしすぎる!
無理やり顔を逸らそうとしながら目が合わないようにぎゅっと目を閉じる。
「ぷっ」
ぷ?
「くくくっっ」
ん?
恐る恐る目を開けてみると、破顔した顔で笑う魔王様がいた。
「なっ、何を笑っているんですか!?」
「アリアは面白いな」
まだ笑いが収まらないようでにこやかに答える魔王様、こんな顔するんだ。
「何がですか?」
「さっきまで泣いていたと思ったら突然なんで俺の羽が気になった?」
「?何となく・・・?」
特に意味は無いけれど、魔王様にしがみついてると背中に何も無かったことを思い出して確かめてみただけなんだけれど。
「やはりアリアは面白いな」
くくくっっと笑いながらやっと私を解放してくれた。そしておもむろに黒い大きな翼が背中に現れる。
「これは背中に生えているのではない。魔力の塊、魔力によって作りだしたものだ。なので消すことも出来る」
そう言ってサッと消してみせる。
「魔力の塊??翼がある訳では無いんですの?」
「人間は魔族には翼を持つ者もいると思っている者もいるようだが、魔族に翼は生えん」
知らなかった。私って本当に箱入り娘だったようで、魔族についての知識は全く無かったことを改めて実感した。むしろ、前世の記憶があるから前世での魔王像を勝手に当て嵌めてしまっていた。
「じゃあ、翼を魔力で出して飛ぶのですね」
「それも違う」
「え?」
「翼がなくても魔力で飛べる」
そう言って身体を浮かせる魔王様。
「じゃあ、翼はなんの為に出すんですの?」
「ん?・・・カッコつけたい時?・・・威嚇?かな?」
首をかしげて真剣に悩みながら出した答えは単純なものだった。
「ぷっ、何それ、魔王様の方が面白いわ」
「そうか?」
「そうよ!」
くすくすとしばらく笑っていると、魔王様が優しい眼差しで私を見ていることに気がついた。
私が気を失ってからずっとそばに居てくれたんだ。そして泣く私をずっと優しく抱きしめていてくれた。
「魔王様、ありがとうございます。おかげで元気になれました」
ニッコリ笑って返すと魔王様は微笑み返してくれた。
「アリアが笑ってくれて良かった。では、私は失礼する。無理せず今日は部屋でゆっくりするといい」
そう言うと魔王様は部屋を出ていった。
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