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㉒裏切りのアリア
しおりを挟む「魔王様、本当にごめんなさい。ここまで送って頂いてありがとうございました」
「アリアが気にすることは無い。もし俺が必要になったらいつでも呼んでくれ」
そう言うと私は魔王様に優しく抱きしめられた。
「もし・・・アリアがまた会いたいと思ってくれるならいつでも会いに来る」
魔王様のつらそうな声が耳元で聞こえて、一瞬、このまま優しい魔王様の腕の中にずっと居たいと願ってしまったけれど、そんな願いは直ぐに後悔に変わると思い直す。
一緒に居られるのは魔王様にとってほんの短い時間。その後の魔王様の孤独と寂しさを考えると簡単に答えることは出来ない。
「ええ、また遊びに行かせていただきます」
込み上げる思いをグッと飲み込んで、平静を装った声で答えた。
こういう時、令嬢として、未来の国王妃として教育を受けて来たかいがあったと思う。
どんなに心は乱れていても平静を装うことが出来る。
魔王様が腕を解き離れると、私はにっこり笑って見せた。
「では、さようなら」
名残惜しそうな魔王様に向かって微笑んで淑女の礼をする。
「ああ、また」
そう言って魔王様は私の前から姿を消した。
私は魔王様が消えた場所をしばらく眺めていたけれど、あらためてくるりと振り返ると見慣れた我が家が佇んでいた。
帰ってきたんだわ。
そう思いながら家の扉を開くと、執事のクリストフが出て来て私の顔を見るなり少し硬直した。
「クリストフ、ただいま、久しぶりね」
私は懐かしい顔に笑顔で話しかけた。
「アリアお嬢様、お帰りなさいませ。申し訳ございません。しばらくお待ちいただけますか?」
クリストフはそう言うと私を残して行ってしまった。
待てと言われたのでしばらく待っているとお父様が慌ててやって来た。
「アリア!お前、どうして帰ってきたんだ?」
何故か慌てた様子のお父様。
帰って来てはいけなかったのかしら・・・そう言えば嫁に出た身ですものね。
本来帰る場所はここでは無いのかもしれないけれど・・・結婚式は終わっていなかったし・・・
なんてことを思っていると、お父様がふわりと私を抱きしめた。
「とにかく、無事で良かった」
「お父様・・・ご心配をお掛けして申し訳ございませんでした」
久しぶりのお父様の温かさに一気に今までの緊張がほぐれていく。
心からほっとしている自分がいることに気がついた。
「魔王に酷いことをされなかったかい?」
心配そうに私を見つめるお父様。
「ええ、魔王様にはとても大事なお客様としてもてなして頂いたの。とても居心地のいい場所でしたわ」
私が少しうるっと来た涙を拭いながら答えると、お父様はガっと肩を掴んで言った。
「では、何故帰ってきたんだ?今からでもすぐに魔王の元へ戻りなさい!」
「え?」
お父様は何を言っているのかしら。
魔王様の元へ戻る?何故そんな事になるの?
せっかく戻ってきたのに・・・
「アリア、よく聴きなさい」
キョトンとする私にお父様が真剣な眼差しで、とても焦ったように言ってきた。
「お前はこの国で反逆者扱いになっている」
「え?反逆者??何故??」
私が反逆者??なんでそんな事になっているの?
「お前が魔王に攫われた後、魔王が現れてアリアを追わない、魔族領に攻め込まない約束を飲めば北のはぐれ竜を始末すると言ったんだ」
「ええ、それは知っているわ。魔王様は何とかしてくれたんでしょう?」
「ああ、それ以来竜は現れなくなった」
カルナリカにとってはありがたいことだと思うのに、何かあるのかしら。
「お前は王家を裏切り魔王の元に付いた裏切り者だと判断されたんだ。追わないが、もしも戻ってきた時には厳重処罰すると」
・・・頭が真っ白になって一瞬何も考えられなくなった。
それって、私が戻る場所はもう無かったってこと?
「オブサーク家は罪を負わなくてもいい代わりに、アリアが戻ってきた時には差し出すように言われたが、私にそんなことは出来ない。早く、魔王の元に戻りなさい」
お父様が慌てている理由が分かった。私を匿うと、オブサーク家も同罪とみなされる。
でも、私を差し出すなんてこと父親として出来ない。なら、早く家から追い出すに限る。
ドンドンドンドンドン!
不意に玄関のドアが激しく鳴った。
途端にお父様が私を抱く手に力を込める。
「裏切り者のアリアが戻って来たのは知っている!早く差し出せ!さもないと一家全員捕えることになるぞ!!」
扉の外で誰かが大声で叫ぶ。
「クソ、やはりうちは見張られていたか」
お父様が悔しそうに顔をゆがめる。
私がここに居るのはバレているみたいだし、私を出さなければお父様達に被害が及んでしまう。
そうなると取れる手はひとつしかない。
「お父様、ありがとうございます。私出ますね」
そう言って微笑むと玄関に向かって歩き出した。
「アリア!・・・すまないっ!」
お父様の悔しそうな声が後ろから聞こえていたけどそのまま振り返らずに玄関の扉を開けると、城の騎士団が家を取り囲んでいた。
私は素直に捕らえられ、城へ連行されていった。
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