ヒロインが迫ってくるのですが俺は悪役令嬢が好きなので迷惑です！

20話 リリアンナの誤解（シルル）

「何言ってるんだ？ 」

俺の声にリリアンナが身を震わせるのが分かった。
でも、リリアンナの口からまさかそんな言葉が出ると思っていなかった俺は少し怒りを顕にしていたので、言葉が荒々しくなる。

「なんでそんな事になる？ 」

「･･･セイラ様と仲がよろしいのは存じてます。私はシルル様が幸せならそれでいいと思っていたのですが、今回の事で、私の事を思ってくださる方がいることも分かりました。本来、私が、そういった方々も抑えてこその婚約者という立場ですのに、私は全然存じておりませんでした。その結果、セイラ様を傷付けてしまったのです。ですから･･･私はシルル様の婚約者に相応しくないと･･･」

俺の怒った様子に、最初は毅然と答えていたリリアンナが最後は自信なさげに下を向く。
下を向いてしまったので、リリアンナの表情が分からない。
だけどその様子は、俺との婚約関係の破棄を望んでいるようには見えない。

「リリアンナ、何言ってるんだ？ みんなも、リリアンナも誤解しているようだけど、俺とセイラ嬢はなんの関係もない 」

「私にお気遣いは無用です。シルル様は本当にお優しいですね、大丈夫です。私はシルル様の婚約者と定められた時からそういう覚悟はしております 」

顔を上げて微笑むリリアンナはどう見ても強がっているようにしか見えない。
しかもリリアンナの言葉、そんなことを思っていたなんて･･･

「リリアンナ、俺はリリアンナと婚約出来てとても嬉しかった。リリアンナの事が好きで、他の誰かなんて目に入らないくらい愛してるのに、リリアンナまで俺のことを信じてくれないの？ 」

俺はリリアンナが座るソファーまで移動すると、リリアンナの横に座って手を取った。

「え？ 」

リリアンナが驚いたように俺を見つめる。

「セイラ様との事を攻めているのでは無いですよ？ 」

「だから、セイラ嬢とは何も関係もないし、これっぽっちも好きだなんて思ったことも無い！ 俺はリリアンナが好きなの！ 」

そうだ、俺はリリアンナが好きなのに、ちゃんと言葉にして言ったことがあっただろうか？
俺が言葉にしない事で、リリアンナにずっと苦しい不安な思いをさせてたのかもしれない。

「本当に？ 」

リリアンナの目が状況を把握出来ていないのか、子供のようなあどけない瞳で俺を見つめる。

「うん、俺にはリリアンナしか考えられないのに、俺から離れていくの？ 」

俺が見つめ返すと、リリアンナの表情がどんどん赤くなっていく。

「あ、あの、手を離してください！ 」

「どうして？ さっき手を繋いだ時、もっと繋いでたいって思ったんだ、最初からこうして隣に座ってればよかった 」

リリアンナの表情がますます赤くなる。照れて困った顔、可愛い。
ますます虐めてみたくなる。俺ってサドだっけ？ 
俯いてしまったリリアンナの顎に手を掛けて顔を上げさせる。

「まだ信じない？ 」

顔を上げたリリアンナの顔は真っ赤で、目には少し涙が滲んでいた。

「ごめん、泣かせるつもりはなかったんだ 」

俺は顎を持ち上げた手でリリアンナの目じりを拭う。

「嫌だった？ 」

俺の言葉に、リリアンナが首を横に振る。

「私はシルル様に本当に愛されることは無いと思っていました 」

リリアンナの言葉に俺はショックを受ける。なぜそんなふうに思っていたんだ？

「どうしてそんなこと思ったの？ 」

「だって･･･私はどう見ても不細工でしたし･･･シルル様のお相手が私だけとは限りません。何人かおそばに置かれるだろうと思っていましたし、私は政略結婚のお飾りの妻でしかないと思っていましたので･･･愛されることは無いと思っていました 」

「そんな事、ずっと思っていたの？ 」

「はい･･･ 申し訳ございません 」

謝る彼女を俺は優しく抱き寄せた。
確かに、王になる俺に妻が一人とは限らない。現に父にも三人の妻がいる。それは王族としては当たり前の事だけど、俺はリリアンナ以外考えもしていなかった。
この世界での考えはリリアンナの方が正しいのだろう。だけど、俺が他の人を好きになるのをずっと隣で見ているよう言われたリリアンナの気持ちはどうなる？
リリアンナが控えめだったり、あまり俺と関わらないようにしていた訳が分かった。
きっと、辛くなるのが目に見えていたからだ。

「謝ることなんてない、俺がもっとちゃんとリリアンナに気持ちを伝えていれば良かったのに、苦しい思いをさせてごめんね、俺はリリアンナ以外と仲良くなるつもりは無いから安心して？ 」

「シル･･･様･･･」

リリアンナは安心したのか、俺の腕の中で顔を真っ赤にして涙を流した。