ヒロインが迫ってくるのですが俺は悪役令嬢が好きなので迷惑です!

さらさ

文字の大きさ
22 / 30

22話 予期せぬ事(リリアンナ)

しおりを挟む



翌日、私はセイラ様に謝罪しようとセイラ様達のいる教室がある棟へ向かって歩いていた。

「何様かしら 」

「セイラ様がお可愛そう 」

そんな小さな声が私の耳に届いた。
いえ、きっと聞こえるように言ったのだと思う。

「あの、セイラ様はどちらにいらっしゃるかご存じですか? 」

セイラ様のお話をされているようだったので、聞いてみる。

「え? 」

聞かれた方は一瞬戸惑ったように硬直したあと、笑顔を向ける。

「あちらにいらっしゃいましたわ」

私は指の刺された方を見やって、教えてくれた方に向き直る。

「ありがとうございます 」

お礼を言うと、教えてもらった方角へ歩き出す。
しばらく歩くとまた何人か居たので聞いてみる。

「・・・セイラ様でしたら、先ほど実習室の方にいらっしゃいましたよ 」

そう言われて、実習室の方へ向かう。

「あれ? リリアンナちゃん? どうしたの? 」

軽い声で話しかけてきたのはジュリアス様だ。

「ジュリアス様、ごきげんよう、セイラ様のところに向かっているのです 」

「セイラ嬢? さっき教室にいたと思うけど 」

「そうなのですか? 先ほどお聞きしたら実習室の方にいらっしゃると仰っていらっしゃたのですけど・・・」

「そうなの? 移動したのかな? ・・・まぁ、いいや、俺もついて行ってあげる 」

ジュリアス様は楽しそうに私と並んで歩く。

「いえ、ご迷惑なので結構ですわ」

「全然迷惑なんかじゃないよ、むしろリリアンナちゃんと話が出来て嬉しいくらいなんだから、そこまで一緒に行くよ 」

ジュリアス様のキラキラした笑顔はシルル様の王子スマイルとは違って、なんだか演劇の中の主人公を見ているようなキラキラした眩しさです。
シルル様の周りって見目麗しい方ばかりなのよね、ジュリアス様はたまにお会いすれば分からない事を優しく教えてくださる紳士な方です。

「ありがとうございます。ではご一緒させて下さいませ  」

ジュリアス様は気さくでお話上手で、楽しくお話をしているうちにすぐに実習室の前まで到着した。
実習室の中を覗いてみたけれど誰もいない。

「居ないみたいだね 」

「そうですわね、隣のお部屋かしら? 」

実習室の中にはもう二部屋あって、先生に個人的に教えて欲しい時に使う部屋になっている。

「一応確認しとく? 」

「そうですわね 」

私とジュリアス様は奥の部屋を確認する為、実習室の中に足を踏み入れた。
中に入ってしばらく歩いた所で、後ろで扉の閉まる音がした。
その音にジュリアス様が敏感に反応して振り返る。
私も遅れながら振り返ってみると、開けておいたはずの扉が閉まっていた。

「まさか 」

ジュリアス様が慌てて扉に向かって行って開けようとするけれど、開かないのかかなり焦っている様子。

「おい! 開けろ! 」

ジュリアス様が外に向かって声を張り上げているけれど、一向に反応はない。
私はジュリアス様の行動を呆然と眺めながら何が起こったのか頭の中で整理していた。

え? なに? 何が起こったの? 
ドアが開かないの? 閉じ込められた? どうして?

「リリアンナ嬢、ごめん、どうやら閉じ込められたようだ・・・クソ、俺達が居るのを分かってて閉じ込めたんだ  」

しばらくドアと格闘していたジュリアス様がドアとの格闘を諦めて向き直ると、悪態をつきながら他に出口がないか部屋の中をぐるりと回る。
外に面した大きな窓はあるけれど、ここは五階、そこからの脱出は望めない。

「リリアンナ嬢、大丈夫、何とかするから、少し待っててくれる? 」

ジュリアス様は自分も焦っているだろうに、私に椅子を出していつもの笑顔で座るよう促してくれる。

「ありがとうございます。私は大丈夫ですわ 」

少し怖いけど、怖いと言えばジュリアス様に気を使わせてしまうし、迷惑が掛かる。
平気なフリで私もにっこり笑ってみせる。

「リリアンナ嬢は強いね 」

そんな私の様子を見てジュリアス様がふんわり微笑む。

「え? 私は全然強くなんてありませんわ 」

そんなことを言われたのは初めてだ。 ずっと自信がなくて、でも、公爵家の子女として、シルル様の婚約者として恥じぬよう、私なりに努力してきたつもりだ。 

「俺も、リリアンナ嬢はたおやかな見た目通り、守ってあげなくちゃいけない女の子だと思ってたんだ。でも、君はこんな状況でも落ち着いてる。さすがシルル様の婚約者って所かな 」

褒められたようで、何だか嬉しくなる。

「そんな事を言っていただけたのは初めてですわ 」

嬉しくてつい顔がほころぶ。 今までシルル様の婚約者として相応しくいなければと思っていたので、こんな風に自然に笑ったのは初めてかもしれない。

「正直、シルル様が羨ましいよ 」

「え? 」

「こんなに素敵なリリアンナ嬢を独り占めしてるんだ、羨ましい 」

気が付くと、ジュリアス様は私の座る椅子のすぐ横に来ていて、私の事を熱い眼差しで見下ろしていた。





しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

処理中です...