転生魔王は今日もお嬢様を愛でる。

さらさ

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8話 兄妹

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会場に入ると皆が暖かい拍手でジョルジュを迎える。
世間体は良さそうだから皆からは好かれているのだろう。
実際、お嬢様よりも先に好きな女性が居ると言うだけで、そんな女性と出会っていなければお嬢様とも上手くやれたのかもしれない。
だがアイツはお嬢様を愛することは無い。
お嬢様が不幸になるのをわかっていてお嬢様を利用なんてさせない。
この話しは潰してやる。

とはいえ、一使用人の俺に出来ることなんて限られている。
ジョルジュの事を告げ口したとして、どこからそんな情報を得たのか聞かれるのがオチだ。
だからまた前回のように魔物をけしかけるつもりだった。
前回は偶然だったが、あの程度の魔物を従える事など今の俺には造作もない。
俺の力で呼び寄せることも出来る。

ただ、お嬢様を危険に晒すことになる。
お嬢様は俺が守るとしても、他の者が傷付くことにお嬢様は心を痛めるだろう。
そんなことは避けたい。
そう思っていたが今日ここに来てその手を使わなくてもいいかも知れない。
他人任せではあるが別の方法で何とかなりそうだ。 

その方法とは、どうやらディトス伯爵は人に恨みを買うような事をやっているのだろう。
殺気を持った奴が招待客の中に紛れていて、不穏な雰囲気の奴らが今日は何か起こそうとしている。
転生特典なんだろうか? こんな事まで分かってしまうこの能力はかなり便利だ。
つくづく前世に欲しかった能力だ・・・・・・

「アイリーン嬢、しばらくこの辺りに控えていてくれるかな、私は挨拶に行ってくるからしばらくしたら呼ぶね、レオルカ様もお寛ぎ下さい 」

「はい、分かりました 」

「うん、ありがとう、挨拶頑張って 」

「ありがとうございます 」

ジョルジュはお嬢様達にに席を案内すると挨拶の為離れて行った。

「レオルカ兄様、私とても緊張します。上手くやれるかしら・・・ 」

ジョルジュが居なくなると、お嬢様は急に不安そうな表情でレオルカ様を見る。

「大丈夫、アイリーンはそこに立っているだけで花になるんだから、少しくらい失敗しても愛らしくていいよ、そんなに力むことは無い 」

さすがレオルカ様だ、ただ頑張れとは言わない。
失敗しても良いんだとお嬢様を勇気づける。

「そうかしら、レオルカ兄様が付いてきてくださったのは心強いけれど、ディトス領の方々に情けないと思われないかしら 」

不安そうな表情のお嬢様を見て、レオルカ様はクスリと笑う。

「レオルカ兄様、何がおかしいの? 」

「いや、相変わらずアイリーンは可愛いなと思っただけだよ、ほら、そんな膨れた顔をしていると皆に見られるよ? 」

うんうん、レオルカ様の仰る通り、アイリーンお嬢様はいつも可愛らしい。
不安そうな表情も見ていて愛らしいと思ってしまう。
本人にとっては気が気では無いのだろうけど、俺もレオルカ様同様、心の中で微笑ましく眺めてしまう。

「もう、レオルカ兄様が変なところで笑うからよ! 私は緊張でどうしていいか分からないのに笑うなんて・・・・・・あれ? 緊張・・・無くなってるわ 」

驚いたように自分の心境の変化をつぶやくお嬢様を、レオルカ様は微笑ましく眺める。

「良かったね 」

穏やかに微笑むレオルカ様に、お嬢様も少し安心したようで、何時もの表情に戻って用意されたお茶を楽しむ余裕もできたようだ。
さすがレオルカ様、お嬢様の扱いになれていらっしゃる。

レオルカ様はこういう方だ。
元々チェスター家の次男に生まれ、人一倍周りに気を使うレオルカ様は、家を次ぐ長兄の邪魔にならないよう、学校卒業と同時に騎士団に入り剣の腕を磨いていた方だ。
騎士団の中で才を見込まれ部隊長も務めていた方だったが、一昨年、突然レオルカ様とアイリーンお嬢様は上の兄を亡くされた。
それは本当に突然だった。
領内を視察中だった長兄のハルバート様は何者かに襲われ、命を落とされたのだ。
誰かに恨みを買うような方ではなかった。優しい、このお二人の兄らしい穏やかな領民思いな方だったのに、誰が何の目的でハルバート様を手に掛けたのか、犯人はすぐに姿をくらましてしまい捉えることが出来なかった為、犯人は複数人居るという事以外今も詳細は分からないままだ。

死んだ長兄に変わり、チェスター領主を継ぐために騎士団を辞め戻って来たレオルカ様に対し、最初周りの声は冷たかった。
自分が伯爵位を継ぐために兄を殺したのではないかと囁く者も多かった。
学院に入ってから戻ってくるまで、10年間チェスター領を離れ王都にいたレオルカ様の事を知る者は少なかったからだ。

俺自身もチェスター家に仕えるようになってから、レオルカ様の事は、たまに里帰りで戻って来た時に出会う程度で、良く気の利く明るい方だという印象以外あまりよく知らなかった。
だけどハルバート様が亡くなった後、ショックで塞ぎ込んでいたお嬢様を元気づけたのがレオルカ様だった。

レオルカ様自身も兄上を無くされ、突然騎士団を辞めさせられた上に周りの心無い言葉に心身を病んでいたであろうに、お嬢様の所へ毎日顔を出して、何気ない会話や、時にはハルバート様の事で一緒に泣いたり笑ったりして、2人で悲しみを乗り越えられた。

「悲しむ事も大事だけど、きっとそればかりじゃハルバート兄さんは喜ばないよ、アイリーンの可愛い笑顔は俺も兄さんも大好きだった。また元気な笑顔を見せて、前を向いて明るく笑うアイリーンが私は好きだよ、きっと、そんなアイリーンの事を兄さんもずっと見てる。泣きたくなったら私がこうして抱きしめてあげるから、アイリーンは1人じゃないよ 」

そう言って何度も泣くお嬢様を優しく抱きしめ続けた。
それは自分に対して勇気づけるための言葉だったのかもしれない。
だけど、お嬢様はその言葉に救われた。
悲しいのは自分だけじゃないと気が付かれたんだ。

「レオルカお兄様も、お父様もお母様も、みんなハルバートお兄様のことで悲しんでる。私がしっかりしないと天国にいるハルバートお兄様も悲しむわよね 」

お嬢様はそう言って前を向くようになられたんだ。






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