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21話 キリク・アシュレイ
しおりを挟むお嬢様が別室に入った後、レオルカ様も頼んでいた衣装の確認を終えて、今はお嬢様を待ちつつ出されたお茶を楽しんでいる。
「それにしても、アイリーンはレオルカに似て美人だね、さっき笑った時ドキッとしたよ 」
「私の自慢の妹だからね 」
キリクの言葉にレオルカ様も満更ではないようだ。
ただ、キリク、俺も頭の中ではお前を呼び捨てしてるが、今日出会った女性をいきなり呼び捨てとは気に入らん。
「今度のパーティーで俺、ダンス申し込んでいいかな 」
「キリク、お前には婚約者が居るだろう 」
「ああ、うん、そうなんだけどさ、アイリーンって可愛いよね 」
なんだ、公爵ならお嬢様の結婚相手としては申し分ないかと思ったけど、既に婚約者持ちか。なのにお嬢様にまで手を出すつもりか?
「そりゃ、私の妹だからね、可愛いに決まってる。その言い方じゃ婚約者殿と上手く行ってないのか? 」
「あー・・・・・・いや、エリーには最近なんか避けられてる感じなんだよな・・・ 」
キリクは言いにくそうに、レオルカ様から目を背けて、レオルカ様の座るソファーの横のカーペットを見つめながらつぶやいた。
「何かやったのか? 」
「そんな覚え無いんだけどな・・・ 」
「明日のパーティーには来るんだろ? 」
「うん 」
「じゃあ、そこで機嫌を取らないと、アイリーンと踊ってる場合じゃ無いだろ 」
レオルカ様の言う事は最もだ。
何故か避けられてるのにほかの女性なんかと踊ったら余計こじれる。
そんな修羅場にお嬢様を参加させる訳には行かない。
「うん、分かってるんだけどさ、避けられてるからどう接していいのか分からなくて・・・ 」
さっきまで元気の良かったキリクが為す術なくうなだれる姿はまるで、叱られた子犬の様だ。うん、うなだれた耳まで見えるようだ。
「最後に普通に会った時に何を話したの? 」
「えー? なんだったかなぁ・・・・・・確か、庭を散歩してて、木の上で降りられなくなってる子猫を見つけたんだ。助けてあげたいけど、ほら、俺ってちびじゃん? 彼女はスラッとしていて俺より少し背が高いから、彼女にお願いしたんだけど・・・・・・その後くらいかな? 」
ふむ、確かにキリクは男にしては身長は低いがちびという訳でもない。
その女性が女性にしては少し身長が高いのだろう。
「なるほどね、キリク、彼女へのプレゼントでも用意して、ちゃんと君の気持ちを伝えたら? ほら、君の瞳の色と同じブルーグリーンの髪飾りなんてどうかな? 」
どうやらレオルカ様には何か検討がついたみたいだ。流石レオルカ様。
「プレゼント? 俺の瞳の色? 」
「そう、女性は自分と同じ色の物を贈られると特別に感じるものだよ 」
「そうなんだ、分かった 」
キリクはレオルカ様の言った事を素直に納得したように頷いて、早速店内にある髪飾りを物色しに行った。
とりあえずお嬢様が修羅場に巻き込まれることは無さそうだ。
「お待たせいたしました 」
キリクが婚約者へのプレゼントを決めてしばらくして、お嬢様が別室から戻って来た。
「全然待ってないよ 」
三杯目のお茶を飲み終えたレオルカ様がカップをソーサーに戻しながら優雅に微笑んで答える。
「どれもとても素敵なドレスばかりで、レオルカ兄様、本当にありがとうございます 」
レオルカ様のサプライズが余程気に入ったのか、お嬢様は本当に嬉しそうに笑う。
俺ではこんな事出来ないからな、お嬢様が幸せなら俺も嬉しい。
「アイリーンがさっきのドレスを着た所を見るのが楽しみだな、三日間が長く感じそうだよ 」
「まぁ、キリク様、そんな期待をされると恥ずかしくてお見せできませんわ 」
キリク、奥手なのかと思ったら何お嬢様を口説いてんだ。
こんなんで婚約者との仲を修復する事なんて出来るのか?
まあ、お嬢様に被害が及ばないのであれば俺はどうでもいいけどな。
「いや、きっと綺麗だよ、三日後を楽しみにしてるね 」
「はい、キリク様も手に持っていらっしゃる物、どなたかへのプレゼントなのでは? 喜んでくださるといいですね 」
お嬢様はキリクの手に持った綺麗にラッピングされた箱を見て微笑む。
「ああ、これは婚約者殿にね、アイリーンも上手くいくように応援してくれるとありがたいな 」
「はい、私はキリク様を応援致しますわ 」
キリクの何気ない頼みに、お嬢様も満面の笑みで元気よく返事をする。
お嬢様はキリクの事情を知らないからなんの事だか分からないだろうに・・・
この様子ではお嬢様がキリクに引かれている事はなさそうだな。
「私達は帰るけど、キリクもそろそろ屋敷に戻った方がいいんじゃない? 」
「ああ、そうだね、そうするよ、・・・・・・はぁ・・・また説教から始まるんだろうな 」
キリクは自分が置かれた状況を思い出したのか、ため息を着いて空を仰ぐ。
「それは君がやった事だから仕方ないね、素直に甘んじなさい 」
「はーい、まぁいつもの事だからね、でもレオルカが遣いをやってくれたから今日は少しマシだと思いたい 」
そう言って外に出た所に待機していたユリウスに会釈をする。
このさり気ない動作ひとつでキリクという人間性が分かる。
一見適当な礼儀知らずの男に見えるが、下の者に対しても礼節をわきまえている男のようだ。
「じゃ、三日後に会えるの楽しみにしてる! 」
キリクはそう言うと足早に去って行った。
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