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33話 甘い話題と・・・
しおりを挟む「全く、こうなる事はレオルカの予想通りなんだろう? 」
パーティーの時とは違う庭に設けられた東屋でお茶を楽しみながらフェリス様が嘆息混じりにレオルカ様を見る。
「そんなことは無いよ、まさかフェリスが妹を茶会に呼んでくれるなんて夢にも思わなかったよ 」
相変わらず笑顔を浮かべたまま感情の読めない表情でフェリス様に返すレオルカ様。
「よく言うよ、レオルカの掌で踊らされてるのはわかってるよ 」
そう言いながらも面白くなさそうに頬杖をついて綺麗な唇をとがらせるフェリス様。
今俺とレオルカ様、アイリーンお嬢様は宮殿の中にあるフェリス様の離宮に居る。
先日約束したお茶会に来ているのだ。
「だけど、フェリスも楽しんでるだろ? 」
「そうだよ、僕は今楽しんでるよ、それが面白くないんだよ 」
「くすくす、私もお兄様とフェリス様のお話を聞いているの楽しいです 」
お嬢様もそんな二人の会話を楽しそうに眺めている。
ーーーーお嬢様が、俺を好きだと言ってくれた次の日、どんな顔をして会えばいいのか戸惑う俺を他所に、お嬢様はいつもと変わらず普通だった。
俺に想いを告げた事など初めから無かったかのような様子に、俺はさらに打ちのめされた。
彼女にこんな気を使わせてしまっているのは自分なのだと。
あの日、レオルカ様は俺には這い上がるためのものがあると言った。
それが何なのか俺には分からない。あの後首を傾げる俺に「まぁ、頑張りなよ 」そう言って俺の肩を叩いて部屋を出て行った。
レオルカ様はなんのことを言っていたのだろう? まぁ、俺がその手段を持っていたとしても、地位を手に入れることが出来たとしても、その頃にはお嬢様は誰かの元に嫁いだ後だろう。それでは意味が無いんだ。
「で、フェリス、どう? うちの妹は 」
「うん、しっかりしたいい娘だね 」
「でしょ? 私の自慢の妹だからね 」
レオルカ様はお嬢様の事を褒められて本当に嬉しそうに笑う。
気を許した人間しかいないこういう時はあどけない表情がたまに顔を出すんだよな。
「もう、お兄様ったら、フェリス様に変な事言わないでください 」
お嬢様は恥ずかしそうにレオルカ様を睨む。
昨日のお嬢様の気持ちを聞かされていなければ、俺も素直にレオルカ様の思惑を応援しただろう。
フェリス王子の元に嫁ぐ方がいいと自分でも判断したのに、俺はなんて気の小さい男なんだ、素直に応援出来ない。
「うん、僕もアイリーンは素敵だなって思ったよ 」
「じゃあ 」
「でも、アイリーン・・・ 」
フェリス王子は何かを解いたげにしていたけれど、途中で言葉を止めた。
止めた理由は、この場所に第三者が現れたからだ。
騎士団の制服を来た男が俺たちの元に足早に駆け寄って来て片膝を着いた。
「フェリス王子、レオルカ殿、至急報告申し上げたい事がございます 」
「何? 言ってごらん 」
「はっ、イングスタ公国がグレイズ帝国に落とされました 」
「なんだって? それで今の状況は? 」
「はい、グレイズ帝国はそのまま進軍を進め、現在チェスター領にある我が国との国境カナンを目指しております。同時にグレイズ帝国とチェスター領の間にある国境、ロアにも大軍が進行してきていると報告を受けております 」
「フェリス様! すぐに国王に謁見を! 」
そう言って立ち上がったのはレオルカ様だ。
「うん、直ぐに向かおう 」
フェリス王子も立ち上がったのを見て、レオルカ様はお嬢様を見る。
「アイリーン、すまない、セルジュと屋敷に戻っていてくれないか? 」
「は、はい、分かりました 」
大変な事が起こっている。
お嬢様もそれを理解したのだろう。
そう言って立ち上がった手は震えていた。
「セルジュ、アイリーンを頼む 」
レオルカ様は俺の返事も待たずにフェリス王子とその場を後にした。
チェスター領は二国の国境を守る重要な都市だ。その二国同時に国境を突かれれば戦力を二分せざるを得ない。
普段からそれぞれに部隊は十分派遣されてはいるが、それはそれぞれの国に見合った部隊だ。両方が同じ国となればどんな手で来るのか、向こうの数、出方次第ではチェスター領は危ないだろう。
レオルカ様がこの先どう動かれるのか、知りたい所だが、蝙蝠を飛ばして大丈夫だろうか?
レオルカ様もだが、フェリス王子も鋭い。気付かれるかもしれない。
・・・・・・蝙蝠の透明化も考えたが、ここで危ない橋は渡らない方が良いな、辞めておこう。
詳細は後でレオルカ様から聞けばいい。
「お嬢様、お屋敷に戻りましょう 」
「ええ 」
「ルー、大丈夫よね? 」
馬車に乗り込むまで気丈に振舞っていたお嬢様は今震えている。
「お父様が何とかしてくれるわよね? 」
「ええ、そうですね、大丈夫ですよ 」
お嬢様を不安にさせないよう、精一杯笑ってみせたけど、正直グレイズ帝国の軍事力は我が国より上だ。大丈夫だとは言いきれない。
だが、グレイズ帝国の動きが今まで掴めていなかったのか、俺が知らなかっただけなのか、いや、前者だろうな、動きを察知していたら秘密裏に国境を固める手筈をしていただろう。
イングスタにしてもそうだ、グレイズに攻められているのなら情報が我が国に入っていてもおかしくないのに、フェリス王子の様子からすると、さっき初めて知ったようだった。
となると、イングスタ公国は情報を伝える間もないほど呆気なく落ちた事になる。
これはかなりヤバいかもしれない。
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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