転生魔王は今日もお嬢様を愛でる。

さらさ

文字の大きさ
33 / 55

33話 甘い話題と・・・

しおりを挟む



「全く、こうなる事はレオルカの予想通りなんだろう? 」

パーティーの時とは違う庭に設けられた東屋でお茶を楽しみながらフェリス様が嘆息混じりにレオルカ様を見る。

「そんなことは無いよ、まさかフェリスが妹を茶会に呼んでくれるなんて夢にも思わなかったよ 」

相変わらず笑顔を浮かべたまま感情の読めない表情でフェリス様に返すレオルカ様。

「よく言うよ、レオルカの掌で踊らされてるのはわかってるよ 」

そう言いながらも面白くなさそうに頬杖をついて綺麗な唇をとがらせるフェリス様。
今俺とレオルカ様、アイリーンお嬢様は宮殿の中にあるフェリス様の離宮に居る。
先日約束したお茶会に来ているのだ。

「だけど、フェリスも楽しんでるだろ? 」

「そうだよ、僕は今楽しんでるよ、それが面白くないんだよ 」

「くすくす、私もお兄様とフェリス様のお話を聞いているの楽しいです 」

お嬢様もそんな二人の会話を楽しそうに眺めている。

ーーーーお嬢様が、俺を好きだと言ってくれた次の日、どんな顔をして会えばいいのか戸惑う俺を他所に、お嬢様はいつもと変わらず普通だった。
俺に想いを告げた事など初めから無かったかのような様子に、俺はさらに打ちのめされた。
彼女にこんな気を使わせてしまっているのは自分なのだと。

あの日、レオルカ様は俺には這い上がるためのものがあると言った。
それが何なのか俺には分からない。あの後首を傾げる俺に「まぁ、頑張りなよ 」そう言って俺の肩を叩いて部屋を出て行った。
レオルカ様はなんのことを言っていたのだろう? まぁ、俺がその手段を持っていたとしても、地位を手に入れることが出来たとしても、その頃にはお嬢様は誰かの元に嫁いだ後だろう。それでは意味が無いんだ。

「で、フェリス、どう? うちの妹は 」

「うん、しっかりしたいい娘だね 」

「でしょ? 私の自慢の妹だからね 」

レオルカ様はお嬢様の事を褒められて本当に嬉しそうに笑う。
気を許した人間しかいないこういう時はあどけない表情がたまに顔を出すんだよな。

「もう、お兄様ったら、フェリス様に変な事言わないでください 」

お嬢様は恥ずかしそうにレオルカ様を睨む。
昨日のお嬢様の気持ちを聞かされていなければ、俺も素直にレオルカ様の思惑を応援しただろう。
フェリス王子の元に嫁ぐ方がいいと自分でも判断したのに、俺はなんて気の小さい男なんだ、素直に応援出来ない。

「うん、僕もアイリーンは素敵だなって思ったよ 」

「じゃあ 」

「でも、アイリーン・・・ 」

フェリス王子は何かを解いたげにしていたけれど、途中で言葉を止めた。
止めた理由は、この場所に第三者が現れたからだ。 
騎士団の制服を来た男が俺たちの元に足早に駆け寄って来て片膝を着いた。

「フェリス王子、レオルカ殿、至急報告申し上げたい事がございます 」

「何? 言ってごらん 」

「はっ、イングスタ公国がグレイズ帝国に落とされました 」

「なんだって? それで今の状況は? 」

「はい、グレイズ帝国はそのまま進軍を進め、現在チェスター領にある我が国との国境カナンを目指しております。同時にグレイズ帝国とチェスター領の間にある国境、ロアにも大軍が進行してきていると報告を受けております 」

「フェリス様! すぐに国王に謁見を! 」

そう言って立ち上がったのはレオルカ様だ。

「うん、直ぐに向かおう 」

フェリス王子も立ち上がったのを見て、レオルカ様はお嬢様を見る。

「アイリーン、すまない、セルジュと屋敷に戻っていてくれないか? 」

「は、はい、分かりました 」

大変な事が起こっている。
お嬢様もそれを理解したのだろう。
そう言って立ち上がった手は震えていた。

「セルジュ、アイリーンを頼む 」

レオルカ様は俺の返事も待たずにフェリス王子とその場を後にした。

チェスター領は二国の国境を守る重要な都市だ。その二国同時に国境を突かれれば戦力を二分せざるを得ない。
普段からそれぞれに部隊は十分派遣されてはいるが、それはそれぞれの国に見合った部隊だ。両方が同じ国となればどんな手で来るのか、向こうの数、出方次第ではチェスター領は危ないだろう。

レオルカ様がこの先どう動かれるのか、知りたい所だが、蝙蝠を飛ばして大丈夫だろうか?
レオルカ様もだが、フェリス王子も鋭い。気付かれるかもしれない。
・・・・・・蝙蝠の透明化も考えたが、ここで危ない橋は渡らない方が良いな、辞めておこう。
詳細は後でレオルカ様から聞けばいい。

「お嬢様、お屋敷に戻りましょう 」

「ええ 」



「ルー、大丈夫よね? 」

馬車に乗り込むまで気丈に振舞っていたお嬢様は今震えている。

「お父様が何とかしてくれるわよね? 」

「ええ、そうですね、大丈夫ですよ 」

お嬢様を不安にさせないよう、精一杯笑ってみせたけど、正直グレイズ帝国の軍事力は我が国より上だ。大丈夫だとは言いきれない。
だが、グレイズ帝国の動きが今まで掴めていなかったのか、俺が知らなかっただけなのか、いや、前者だろうな、動きを察知していたら秘密裏に国境を固める手筈をしていただろう。
イングスタにしてもそうだ、グレイズに攻められているのなら情報が我が国に入っていてもおかしくないのに、フェリス王子の様子からすると、さっき初めて知ったようだった。
となると、イングスタ公国は情報を伝える間もないほど呆気なく落ちた事になる。
これはかなりヤバいかもしれない。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...