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53話 謁見
しおりを挟む「よく来てくれた、頭を上げてくれ 」
国王陛下の前で頭を下げて膝を着いた俺達に玉座から声を発したのはこの国の国王陛下だ。
正直、こうしてお目にかかるのは初めてなので緊張する。
グレイサスも国王になっていたがあれは昔から知っている人間なので緊張なんかしなかったけど、この国の国王様には威厳が感じられ、圧迫感のようなものがある。
「今日足を運んでもらったのは他でもない、決定事項について話しておこうと思ってな 」
どういう事だろう?
ここに今日来たのはレオルカ様の爵位授与のためだと思ったが、何か他にも予定があったのだろうか?
俺は聞かされていないので分からないが、チラリと隣に目をやるとこれが予定通りなのか、レオルカ様とフェリス様はほのかに微笑を含んだ表情でこくりと頷いている。
「まず、ロアが攻め落とされた件について私から話をしよう 」
そう言って王の隣りに立ったのは第一王子のエドモンド様だ。
エドモンド様はフェリス様とは全く異なった雰囲気で、髪と目の色こそ同じだが、体格はがっしりのした体付きで、快活そうな男らしい雰囲気を纏っている。
「ディトス伯爵並びに長男、ジョルジュとディール伯爵、そして一昨日護送されて来たハンス・ミネルヴァについて、昨日処分が終わったので当事者であるレオルカ・チェスターには報告しておく 」
「ありがとうございます 」
「まず、グレイズからの侵略に対しての防衛、ご苦労であった、今回のロア陥落についてはあまりにも手際がよく、内部の裏切りが露呈したのだが、グレイズ帝国に与していたのはディトス並びにディール両名であったことが分かった。そしてこの件について早くに気が付いたとされるハルバート・チェスターの殺害に関与しているのもディトスだということが分かった 」
やっぱりそうだったか、ディトスめ・・・伯爵様だけでなくハルバート様まで!
それにしても、ハルバート様を手にかけておいてよくものうのうとお嬢様と婚約なんて出来たものだな。
「何か言いたいことがありそうだな 」
エドモンド様の言葉に我に返りエドモンド様を見ると、俺を見ている。
あれ? 今の俺に言ったのか?
「発言していいぞ、言ってみろ 」
やっぱり俺に向かって言っている。
「ディトス家はアイリーン様との婚約を望んでいました。ハルバート様を殺害しておきながら何故なのかと思いまして 」
「うん、ディトスに自白させるのはかなり手こずったが、自白剤も使って全て履かせている。ディトスはグレイズに協力する代わりにこの国を落とした暁にはそれなりの地位を約束されていたようだ、だが用心深いディトスは保険を掛けようとしたんだ、グレイズが我が国を落とせなかった場合、攻防戦はチェスター領が戦場になることは間違いない。だが両名は加勢に加わることがなければ怪しまれるので、適当な魔物を自分の領地に配置して邪魔をされたと言うつもりだったらしい。そして、運良くチェスター伯爵、レオルカ殿を戦死させる事が出来た場合、令嬢の婚約者としてチェスター領を手に入れるつもりだったようだ 」
「そうでしたか・・・ 」
ディトスの計画は全て予定通りに進まなかった訳か、それでもハルバート様と伯爵様、それに多くの兵士が命を落としたんだ、ディトスの企みは大きな爪痕を残した。
「既に当事者に対しては重い罪を言い渡した。罪を償ったからといって無くした命が戻る訳では無いのだが・・・相応の報いは受けてもらうから安心してくれ 」
「どのような罰をお与えになったのですか? 」
「うん、気になるのも当然だな、教えてやろう、ディトス及びディールは爵位剥奪、領地没収の上、死刑となる。ディトスの息子は父親に操られていた節もあるので北の鉱山で10年間の労働、ハンスについては死刑と言う意見が多かったが、レオルカ殿から再三刑の緩和が求められたのでな、チェスター家からそのように言われては考え直すより他あるまい、ハンスについては鉱山での労働30年が下されることとなった 」
エドモンド様はそう言ってレオルカ様を見る。
「寛大なご配慮ありがとうございます 」
レオルカ様は僅かに口角を上げて頭を下げた。
レオルカ様は本当にテオの父親を死刑から守るために尽力していたんだ。
横から見えるレオルカ様の表情は満足しているように見える。
「この件に関する処分は以上だ、ここからは明るい話題だ 」
エドモンド様はそう言うと一旦言葉を止めて国王陛下を見やる。
「うむ、此度の防衛戦についてはレオルカ・チェスター及びセルジュ・ルーセントの働きにより被害を最小限にとどめることが出来た。チェスター伯爵が命を落とした事は残念ではあるが、両名の働きご苦労であった 」
「陛下、お言葉ですが私は何もしておりません。全てこちらに居るセルジュの働きです 」
レオルカ様がそう言うと、国王陛下は表情を緩めてレオルカ様を見る。
「そう謙遜するでない、セルジュ・ルーセントの雇い主であるチェスター家に手柄が無いわけがあるまい 」
そして陛下は今度は俺に視線を向けた。
「セルジュ・ルーセント、そなたの事はフェリスから聞いている。此度はそなたの働きが大であることは間違いない。そしてグレイズ帝国との停戦及び交渉にも大きな働きをしてくれたと聞いておる。本国は攻め入られた側にも関わらず優位な条約を結べた事はそなたの功績無くしては成しえなかった事だ。国民の代表として感謝申しあげる 」
陛下はそう言って俺に向かって頭を下げた。
「そんな、一国民として当然のことをしたまでです。陛下から感謝をされるようなことはございません 」
一国の王が頭を下げた事に焦る俺を見て、陛下は緩やかに微笑んだ。
「褒美を与えようと思うが、何か望みはあるか? 」
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