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55話 レオルカ様の要望【⠀最終話 】
しおりを挟む「して、レオルカ殿、後になってしまってすまぬな、そなたにも褒美を与える。そなたには伯爵位とチェスター領を、そして元ディトス領を与える。他に何か望みはあるか? 」
「陛下、伯爵位は有難く受けさせて頂きますが、私は先の戦で特に何も手柄を立てていません。ディトス領まで頂くことは分不相応です 」
レオルカ様が凛とした姿で陛下を見上げて言葉を返す。
「そなたが居なければセルジュ・ルーセントがあの場に居る事も無かったやもしれぬ、それに、グレイズ帝国が引いてからのそなたの動きのおかげでこんなにも早く事後処理が片付いたのだ、それに対して褒美を与える事が分不相応だとでも? それとも何かほかに欲しいものがあるのか? 」
陛下の言葉に対してレオルカ様がほんの少し口角を上げたように思えた。
その隣に見えるフェリス様は明らかににやけている。
二人は何か企んでいるのか?
「でしたら陛下、私に頂きたいものが一つだけございます 」
「何だ? 言ってみよ 」
陛下がそう言った瞬間、レオルカ様はふわりと花が開くように柔らかに微笑んだ。
「陛下、私にクリスティナ姫を頂けませんか? 」
「クリスティナを? 」
レオルカ様の言葉に陛下以上に驚きを隠せないのは俺だ。
レオルカ様がクリスティナ姫を? クリスティナ姫と言えばフェリス様の妹ぎみだが、レオルカ様とクリスティナ様の関係なんて今まで聞いたことが無い。
レオルカ様の口からクリスティナ様の事も一度も聞いていない。
フェリス様の様子から察するに、フェリス様は知っていたようだが、先日のフェリス様のパーティーの時もクリスティナ様の姿はなかったし、レオルカ様が会われているような感じもなかった。
「クリスティナか、姫は器量良しで美しいからな、だがあの娘はナトリア王国に嫁に出そうと思っていたのだが・・・・・・ふむ・・・・・・ 」
陛下も思ってもいなかったレオルカ様の申し出に戸惑っているようだ。
私も見た事はないが美しい姫だと聞く、政治的にも隣国に嫁ぐのが良いのだろう。その方をレオルカ様は欲しがっているという事だ。
「お父様、失礼致します。私からもお願い致しますわ、レオルカ様の元へ嫁がせてくださいませ 」
背後から声がして振り向くと、そこにはフェリス様に良く似た、フェリス様以上に可憐な女性が立っていた。
この方がクリスティナ姫だとすぐに分かる。
「クリスティナ、お前も望んでおるのか? 」
「はい 」
少し恥じらうように微笑んだクリスティナ姫は本当に美しいと思った。
クリスティナ様が近づいて来ると、レオルカ様が手を差し出してその手をクリスティナ様が取る。
その瞬間、二人がふわりと微笑んで周りの空気が変わった気がした。
どうやら二人は付き合っていたようだ。
だけど、レオルカ様がチェスター領に戻ってから一度も会っていないだろうし、先日王都に来た時もそんな様子は見えなかった。
陛下も、その隣にいるエドモンド様も動揺の色が見えるところを見ると二人の関係を知らなかったようだ。
唯一知っていたのはクリスティナ様の隣で二人を見ながらふわりと微笑んでいるフェリス様だけか。
「うむ・・・・・・そういうことであれば・・・良かろう、クリスティナをレオルカ・チェスターに与える。ただし元ディトス領も受け取り、チェスター領として管理するように 」
「ありがとうございます 」
陛下は少し考えた後、レオルカ様の要望を飲んでくれた。
その言葉にレオルカ様とクリスティナ様はお互い顔を見合わせて微笑み合う。
全く知らなかった二人の関係だが、こうして見ると美男美女でとてもお似合いの二人だ。
レオルカ様の選ばれた方だ、いい方なのだろう。
この後、俺とレオルカ様は爵位授与式を無事終え、俺は爵位と領地を手に入れた。
「セルジュ殿にはこちらから王都に住んでもらうよう申し出たのだ、屋敷を用意させるのでしばらく待ってくれ 」
エドモンド様にそう言われて了承する。
「それならばしばらくは私の屋敷に居るといいよ 」
「はい、レオルカ様、ありがとうございます 」
「その前に、一度チェスター領に戻らないとね 」
「はい 」
レオルカ様の笑顔につられて自分も笑顔になる。
今の俺はきっと、とても晴れやかな顔をしているだろう。
心も軽やかになり、足取り軽く歩き始める。
俺は何一つ自分の力で手に入れた訳でもない、全ては周りの、レオルカ様のお陰だろう。
こんな情けなくて、元魔王な俺だけど、お嬢様は・・・アイリーン様はついて来てくれるだろうか?
いや、工程はどうあれ手に入れたのは俺だ、愛するものを手に入れる為の箱は用意できた、後は俺の心次第だ。
「ただいま戻りました 」
「ルー? おかえりなさい! 早かったのね 」
突然俺が現れたことに驚きの表情を見せつつも何処か嬉しそうなお嬢様。
「レオルカ様の提案で瞬間移動で戻ってきました 」
「うん、早く知らせたくてね 」
「レオルカ兄様、お帰りなさいませ 」
「ただいま、だけどまたすぐに王都に戻らないといけないんだよ 」
レオルカ様の言葉に一瞬表情を曇らせるお嬢様。
「まあ、お忙しいんですね 」
「まあね、セルジュがここを辞めることになったからその手続きなんかがあるからね、それに・・・・・・ 」
「ルーがここを辞めるんですか?! 」
レオルカ様の言葉を遮ってお嬢様が叫ぶ。
きっと俺が居なくなると思っているんだ。
だけど出ていくのは本当だ。
「はい、そうです 」
「そんな・・・・・・ 」
今にも泣き出しそうなお嬢様に、なんと言えばいいのか言葉を探しながら説明する。
「すみません、この度私に爵位と領地が頂けることになりまして、そちらに移ることになります 」
「え? ・・・・・・爵位? ・・・・・・領地? 」
突然の話に目を白黒させながら俺とレオルカ様を交互に見る。
「セルジュは伯爵になったんだよ、だからここで働くことが出来ないんだ 」
「伯爵? そうでしたか、おめでとうございます・・・・・・ 」
俺もまだ信じられないのだ、お嬢様も当然驚いたようだが、祝いの言葉は気持ちの籠っている言葉には聞こえない。
目線の端に映るレオルカ様が俺に視線を送っている。
分かっているんだけど、緊張する。そんなに見つめないで欲しい。
「それでお嬢様・・・・・・いえ、アイリーン様 、よろしければ私と一緒に来て頂けませんか? 」
「え? 何処へ? 」
なんの事か理解出来ず首を傾げるお嬢様。
確かに突然一緒に来いと言われても何を言っているのか分からないか、隣にレオルカ様が居るのが恥ずかしいけど、仕方がない。
「アイリーン様、俺はお嬢様に庶民の暮らしをさせてまで幸せに出来る自信がなかった、だから逃げるつもりでした。だけど今日爵位をいただくことが出来たんです。こんな卑怯な俺ですがこれからもずっと一緒にいて貰えませんか? 」
「それって・・・・・・ 」
「俺もお嬢様の事を愛してます 」
お嬢様は目を見開いて顔を真っ赤にして口を両手で覆い、その後笑顔を見せる。
「・・・・・・はい! 」
この笑顔を絶やさないように、絶対アイリーン様を幸せにしてみせる。
いや、違うな、俺が幸せになるんだ、この愛らしい彼女をこれからも愛で続けられる。
俺の幸せはそれだけで十分だ。
ーーーー end ーーーー
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
後半かなりスローペースになってしまい申し訳ありませんでした。
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