俺の恋人は。

なつか

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俺の恋人は。

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俺の恋人はイケメンである。

名前は諏訪野 翔。
幅の広い二重が描かれた切れ長の瞳、すっと美しく通る鼻梁、容の良い薄い唇が黄金値で配置された見るものを一瞬で虜にする小さな顔。自然にウエーブがかった色素の薄い髪と青みを帯びた灰色の瞳はウクライナ人のおばあさん譲りだ。
身長は188センチ、体重は知らん。でも、高校時代に部活動で自然と鍛えられた太過ぎない腕筋とくっきりと割れたシックスパックは芸術品さながら。その下に伸びる引き締まった足の長さは言わずもがな。文句なしの十頭身。
そのパーフェクトな見た目から発せられる歪のない低音ボイスはリアルに腰を砕けさせてくる。

でも、外見だけだと侮るなかれ。彼は中身も文句なしのイケメンなのだ。
中学から高校まで一度も学年一位を譲ることなく、この春には最高峰と名高い大学へ推薦入学が決まっている。だからといってガリ勉ということもなく運動神経も抜群で、高校三年生の時にはキャプテンとして所属していたバスケ部を全国大会ベスト4に導いた。いわゆる文武両道ってやつだ。
そして、それらを鼻にかけるでもなく、性格は気さくで謙虚。誰にでも分け隔てなく接し、コミュニケーション能力もずば抜けて高い。

そんな今時少女漫画にも出てこないような全方位型イケメンが俺の恋人になって早、一年と少し。三年間共に過ごした高校を先日卒業し、学部は違えど同じ大学に進むことが決まっている。
一方、俺の隣人であり同居人であった孝太郎はというと、俺たちとは別の県外にある大学へ進学を決め、卒業式が終わるとあっさりと家を出て行った。
だから、俺はこれから一人暮らしになる予定だったわけなのだが。それが今、急展開を迎えている。

今朝、突然うちにやってきた翔に拉致られたと思ったら、「今日からここに一緒に住むからね」の一言で、連れてこられたマンションの部屋で翔と同棲することが決まっていた。
場所は俺たちの通う予定の大学から徒歩十分圏内にある中層階マンションの最上階。ワンフロアにこの部屋しかない、いわゆるペントハウス。なんと、3LDKだ。マンションなのに部屋の中に階段があるってどういうことなんだ。
もともと翔の父親が持っていた物件を翔が譲り受けたらしいが。一等地と呼ばれる場所にあるこのマンションの資産価値がどれほどのものか、俺の持っている金銭感覚では想像もできない。

一応、抵抗を試みようとはしたが、俺に対して『遠慮』という言葉をあえて自分の辞書から消している俺の恋人は、当然下準備にも抜かりはない。自分の両親はもちろん、俺の父親にもしっかりと了承を得たうえで、もともと住んでいたアパートの部屋を解約までされていたらもうお手上げだ。
有無を言わさない翔の圧のある笑顔を思い出し、俺は窓の向こうに見える星空を遠い目で眺めながら、ふうと少し長めの息を吐いた。
これまでその手、いや、その顔を使って、リンゴのマークがついたスマホも、ジンベイザメのぬいぐるみも、今、俺の右手の薬指にはまっている誰もが知っている高級ブランドの指輪も、全部受け取る流れに持っていかれたもんな。やり手だよ、ちくしょう。

むっつりとしながら座っているダイニングのテーブルには、翔が作った今日の夕飯が所狭しと並べられている。俺の家にあったテーブルよりもでっかいのにな。
俺の家に来るまでは包丁も持ったことがなかったらしい翔は、持ち前の器用さであっという間に料理をマスターし、今やどこのおしゃれ料理人だよって言うメニューをサラッと作ってのけるようになった。
俺はまだ怒っている。でも、料理に罪はない。だから両手を合わせていただきますだ。

「どう? おいしい?」
「……うまい」
「よかった」

この同棲は俺にメリットしかない。大学へは徒歩で通える距離だし、持ち家だから家賃はいらないと言われ、管理費などの維持費と生活費だけ折半することになった。それでも一人暮らしするために必要な金額よりは圧倒的に安い。
感謝こそすれ、怒ることではないとわかってはいるのだが。

「せめて一言相談が欲しかった」

なにかよくわからないおしゃれな葉っぱを白身魚のカルパッチョで巻いて口に運びながら、ぼそっとつぶやく。
翔がこんな強硬手段に出たのは、決して俺をないがしろにしているわけではない。相談したところで俺は首を縦に振らないと思ったからだろう。
でもさ、

「ソファとか、一緒に選びたかったのに……」
「えっ?!」

俺だっていつかは翔と一緒に暮らしたいと思っていた。
でもそれは、就職して、金をためて、多少は甘えることになっちゃったとしても、せめて俺が一人前になってからって思ってたんだ。
そうしたら、一緒に住む部屋を選んで、家具を見に行って、そういう、なんていうか、その、新婚さん、みたいなことがしてみたかったのに。
怒りを通り越して、しょんぼりとして来てしまった俺に翔は珍しく焦っている。おろおろしている姿は珍しいなと思いながら、ビーフシチューをすする。いい肉使ってるなぁ。
まぁ翔が強引なのは、なんでも一人で抱え込みがちな俺のせいでもあるから、あまり責められないんだけど。
沈黙が落ちる食卓には気まずい空気が流れる。せっかくたくさん料理を作ってくれたのに、なんだか申し訳ない気持ちになってしまう。いや、でも、俺は悪くないはずだ。
その後も会話はないまま二人で黙々と食事を口に運び、ほとんど食べ終わったころ、翔は俺の手を握った。

「明希は俺と暮らすことが嫌なわけじゃない……よね?」
「うん、それは嫌じゃない」
「俺、高校卒業したら絶対に一緒に暮らそうってずっと思ってて…。でも、明希はいいって言わないだろうなって……」
「うん」
「だからって、さすがにこれはやりすぎだった。ごめん」
「そうだな」
「でも、俺はどうしても一緒に明希といたいんだ。だから、ここで一緒に暮らしてくれませんか……?」

と、いわれたところですでに帰る家もないわけで。
さすがの俺も、退路を断たれてもまだ「金がたまったら出てくからな! 」なんて啖呵を切るほどの意地も根性も持っていない。俺だって翔と一緒にいたいし、甘えられるもんなら甘えたい。こんなふうに思うようになったのも、結局は翔に絆されているんだろうけど。なんせこの男はすべてにおいて規格外だ。そうでもしないと一緒にいられない。

「思うところはまだあるけど……甘えさせてもらってもいいか?」
「もちろん!!」

俺が手を握り返すと、翔は目に見えて表情を明るくした。美人は三日で飽きるとか言ったやつ誰だ。俺は一生、慣れる気がしない。

「よかったぁ。正直、俺もう我慢の限界だったから」
「なにが?」

トイレでも我慢してんのか? と首をかしげると、翔はぞくりとするほど妖艶に笑う。

「明希に触るの。心の準備、しておいてね」

正直その笑顔だけでお手上げだ。
唖然とする俺を置き去りにして、翔は鼻歌を歌いだしそうなほど上機嫌で後片付けを始めた。


そして、今、俺はシャワーを済ませ、前に住んでいたアパートの俺の部屋よりもでかいんじゃないかと思うほど広々としたベッドの上でジンベイザメを抱えている。
一緒に風呂に入るのは全力で拒否した。それからどうしようと思った時、この家にはベッドが一個しかないことにようやく気が付いた。

翔と付き合いだしたのは高校二年の冬。それから一年と少しの間に、キスは割と自然にできるようになったと思う。でも、俺の家は防音もへったくれもないボロアパートだったし、一緒に住んでいた孝太郎は同学年、同じクラスだから、行動パターンも丸っきり一緒。だから、そもそも翔と二人っきりになるというタイミングがほとんどなかった。
それなら翔の家(この地域の高級住宅街にある一軒家だぞ)はどうだったかというと、ご両親はほとんど不在、あとは通いのお手伝いさんがいるだけ。だから、二人っきりになれるという点はクリアしてたのだが。
家事のすべてをお手伝いさんが担っているというのがダメだった。しかも、翔のこと、家で起こったことを事細かくご両親に報告することもそのお手伝いさんの仕事だという。
そんな環境で何かしてみろ。速攻で全部筒抜けだ。翔は別によくない? といった様子だったが、俺はその羞恥に耐えられない。
とまぁそんな環境だったこともあり、これまで俺たちはキス以上のことは全くしていない。
三年生になると受験一色で、それどころじゃなかったっていうのもあるんだけど。推薦が早々に決まった翔と違って、俺は卒業式ぎりぎりまで追い込みが続いたしね。

俺だって純然たる十代男子だ。に興味がないわけじゃない。したいか、したくないか、と問われたら間違いなく「したい」。男同士のあれこれだって、のんちゃんから受けた布(腐)教のせいで無駄に知識だけはある。
つまりはあと心構えさえすればいいのだが。そこが一番の問題なんだよ。
だってさ……、絶対に俺が、”受け”だろ? その逆なんて一ミリも想像がつかないし。
だから、いいんだけど。いいんだけどね?! いざ、その時が来ると、ほんとにできるかなとか、そもそも翔は俺で勃つのかな、とかいろいろ考えちゃって、怖気づいても仕方なくない?!
俺はジンベイザメと一緒にベッドに突っ伏した。

「どうしたの? 明希」

寝室のドアが開く音と同時に聞こえたイケボに必要以上にびくりと体がはねる。俺はできる限りジンベイザメに同化しようと身を小さく縮めた。何の意味があるのかと聞かれたら、何の意味もない。意識しすぎている自分が恥ずかしくて、いたたまれないのだ。翔が余裕そうなだけ、余計に。
そんな俺の背を翔は優しくなでてくる。

「明希が嫌なら、今日はやめるよ?」
「嫌じゃない!」

思わず勢いよく起き上がってしまった。そう、決して嫌なわけじゃない。さっきも言ったとおり、俺だって「したい」のだ。

「お、俺はこういうこと初めてなんだ。だからどうしたらいいかわからないし、緊張しても仕方ないだろ?!」

もうちょっとやけくそだった。翔へジンベイザメを投げつける。翔はそれを軽々とキャッチすると俺の手をつかみ、唐突に自分の胸元に当てた。

「な、なに?!」

驚いて手を引こうとするが、さらに強く翔の胸に押し当てられる。困惑していると、手からドクンドクンと強くて速い振動が伝わってきた。
え、これって。もしかして翔の心臓の音? 
信じられなくて、顔を見上げる。翔は容の良い眉をへにゃりとへの字に下げ、弱弱しく笑っていた。

「俺だって緊張で心臓飛び出しそう」

翔はいつだって俺から見ると余裕そうで、俺の何歩も先にいる。今回だって、きっとそうだって思ってたんだけど。「かっこ悪い」とつぶやく翔の心臓は変わらず早鐘を打っている。
翔は俺から見ても、他の人から見ても間違いなく特別な存在だ。でも、こうやって俺と変わらないところもあるんだ。
そう思うと、さっきまで荒くれまくっていた心が少しだけ穏やかになったような気がする。

「一応言っとくけど、俺だって初めてだからね」
「は? なにが?」
「こういうことするの」

俺が翔と親しくなったのは高校二年生になった頃だ。それから付き合い始めるまで、確かに恋人という存在はいなかった。でも、その前は知らない。むしろ当然いただろうと思ってたから、思わず驚いた顔になってしまったのは許してほしい。

「あれ、信じてない?」
「……翔が嘘を吐くとは思ってないけど。びっくりはした」

だって、これだけイケメンなのだ。過去に一度もそういう機会がなかったとは思えない。あまり興味がなかったのだろうか? そんな疑問が顔に出ていたのか、翔は少し言いよどみながら眉を下げた。

「単純にしたいなって思える人がいなかったんだよ」

お誘いはあったけどってことね。でも、それで「とりあえずしてみよう」ってならないところが好きだなと思う。照れ臭いから、口には出さないけど。

「だから、初心者同士ゆっくり進んでいこ」
「うん、そうだな」

いつの間にやら緊張はどこかに行ってしまって。胸にあるのはむずがゆくなるような温かさ。互いに手を伸ばして抱き合い、唇を重ねた。
ついばむだけのキスから、だんだん深さを増していく。俺の様子を伺いながら、翔の舌がからめとるように俺の舌に巻き付いてくる。いつもならこのあたりでかけていたセーブも今日は必要ない。俺も懸命に翔の動きを追うが、唇が離れた時にはもう息も絶え絶えで。それなのに、翔は、一度熱のこもる息を吐いたくらいだ。なんなんだろうな、この差は。

「確認なんだけど、」
「うん?」
「俺が、明希を抱いても、いい?」

シミ一つない透明感のある翔の肌には赤みが差している。いつも俺を優しく見つめる青みの帯びた薄灰色の瞳にゆらりと熱が揺れた。
途端に脳が、体が、心が、俺の構成するありとあらゆるものすべてが理解した。
俺はこれからこの男に”食われる”のだと。
多分、わかってたのに、わかってなかった。覚悟が決まってなかったとも言える。
さっきまで怖気づいていたくせに。今はもう、そうなることが当たり前だとすら思える。

「いいよ」

招き入れるように両手を広げ、翔を抱きしめた。
俺を抱きしめ返す翔の手から喜びと興奮が伝わってくる。俺がOKしたのがそんなに嬉しいのか。かわいいやつだな、とか思っていられたのはここまで。
ベッドに俺を押し倒した翔と、もう一度唇を重ねる。それはさっきの俺を気遣う優しいものとは違い、性急で、余裕のない、欲望をぶつけるようなキス。
俺は当然ついていけなくて。息が絶え絶えどころじゃない。朦朧とした頭で見上げた先には荒々しく息を吐く翔がいた。その姿があまりにも色っぽくて。雄味ってこういうことをいうんだろうか。なぜか下腹がゾクリと疼くような錯覚に陥る。
俺が翔に見惚れているうちに、着ていたパジャマは脱がされ、翔の長くしなやかな指が俺の体を滑っていく。運動も何もしていなかった俺の貧弱な体に愛おしそうに触れる指先がくすぐったい。

「ここは感じる?」

そう言って、翔が胸の突起をくるりと撫でると、くすぐったいような、むずがゆいような、ソワソワとするような今までにない感覚。
それに気が付いたんだろう。翔はにやりと楽し気に口角を片方だけ上げた。それだけで目がくらんでしまいそうなほどの色気があふれている。

「ここも気持ちよくなれるよう、これから開発していこうね」

なんだ開発って?! そう聞きたいのに、翔がまだそこを撫でているから、口を開いたら変な声が漏れてしまいそうで。必死に唇を引き結ぶ。 そこをピンと指ではじかれるだけで、体がビクリと震えてしまうから。なんとか耐えていたんだけど。

「ふあぁっ?!」

指でさんざん弄られた小さな突起は固くなっていて。ツンと上を向いたその先端を翔が口に含んだ途端、小さな痛みが走った。多分、本当に軽く噛んだだけだろう。すごく痛いわけじゃない。いうなれば小さな電気信号が、胸の先端から体中にピリリと駆け巡るような。そんな刺激。

「噛まれるのが好き?」
「ち、ちが、」

いや、違うかどうかもわからない。すべてが初めてなんだ。でも、理解が追い付かないだけで体は正直だ。

「明希、腰上げて」

言われた通りに動くと、翔は俺の下着を引き下げた。案の定固く張り詰めたものが勢いよく飛び出てくる。それを見た翔が嬉しそうな顔をするのがまたいたたまれない。
俺は思わず、翔の胸元を軽く足の裏で押した。

「翔も、脱げ」

だって、俺はいつの間にか全裸にされているのに、翔はまだ全く乱れがない。これはまったくもって不公平だ。翔は一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、すぐに目じりを下げ、じらすようにパジャマのボタンに手をかけた。
いらない情報かもしれないが、さっき俺が脱がされたパジャマと、今まさに翔が脱ごうとしているパジャマは色違いのお揃いだ。もちろん翔が用意したやつ。手触りのいいコットン生地で、いわゆる開襟シャツのパジャマだが、こんなパジャマらしいパジャマ、初めて着た。まぁ今日の着用時間は一時間にも満たなかったが。
そんなパジャマの下から現れた翔の上半身は相変わらず彫刻の様だ。部活をやめてから少し筋肉が落ちたとは言っていたが、それでも十分引き締まっている。
翔の上半身は初見ではない。前から着替えの最中なんかに見る機会があったが、改めてみるととんでもなくエロい。よく、これまで平気でいたよ。思わず鼻血が出ていないか確認するレベル。しかも、それだけじゃない。美しく割れたシックスパックの下へと視線を移せば、あからさまにパジャマのズボンを押し上げられているのが目に入ってしまう。だって、その下を見るのは初めてだから。
翔がズボンと下着を両方同時に手をかけるところを、俺はゴクリを固唾をのんで見守った。

「で、でっかぁ」

そうして現れたものへの感想はこれに尽きる。
翔は俺よりも体格がいいから、当然俺よりデカいだろうとは思っていたけど。これはさすがに規格外ではないか。そびえ立つ、ってこういうときに使うんだなって思うほど立派だ。同時に、一抹の不安がよぎる。俺の尻、平気だろうか、と。
それが顔に出ていたのか、翔は着ていたものを全部取り払うと、真剣なまなざしを俺に向けた。

「けがは絶対にさせないから」

これはもう信じて、身を任せるしかない。男は度胸! どーんとこいだ!

「よろしく頼む」

いつの間にやら用意されていたローションを手に取りだした翔は、なじませるように数回手で握りこむ。にちゃにちゃという音が生々しい。

「まずは前から触るね」
「ちょっと待て、俺もする」

俺が抱かれる方だとはいえ、別に前戯まで受け身でいる必要はないし。というか、単純に俺もやりたい。
むくりと上半身を起こし、俺もローションを手にとる。初めて触ったが、ヌルヌルともとろトロトロ違う、なんとも言い表しにくい感触だ。あえて言うなら、タプタプ? それはまぁ置いておいて。翔がしていたのと同じように握りこんで手になじませながら、ベッドの上で胡坐をかいていた翔に跨った。こうすれば互いの下半身が近づいて、一緒に触れるようになる。
それにしても、近づけてみると余計に俺のものとの差は歴然だ。別に俺のだって小さいわけではないと思うんだが、存在感が圧倒的に違う。太い血管がくっきりと浮き出した竿は雄々しく反り返り、その上にはエラの張った肉厚な亀頭がまるで王冠のように鎮座している。ここまで猛々しいとグロテスクに見えてもおかしくないはずなのに、堂々たるその姿は芸術的ですらある。イケメンはチンコまでイケメンなのか。

「明希、そんなに見られるとさすがに恥ずかしいんだけど……」
「あっ、悪い。なんか、すごいなって思って」

俺の言葉に翔はぐっと息を詰まらせたような顔をした。太ももの上に跨っているせいでいつもは見上げるばかりのきれいな顔が今は俺よりも下にある。片手を翔の首に回し、もう片方の手でそっと翔のものに触れ、包み込むように指をまわす。初めて触れたそれは想像よりも熱くて、力強く脈打っている。短く息を吐きだした翔も同じように俺のものを握り、ゆっくりと上下にしごき始めた。
これ、やばいな。今、俺、翔にチンコしごかれてる。貴族のようにコーヒーカップを優雅に持つあのきれいな指が、バスケットボールを自分の分身のように華麗に操るあの手が、今はこんな卑猥な音を立て、俺に快感を与えている。そう考えるだけで、たまらなく興奮する。すぐにイッてしまいそうだ。
翔の熱を持った吐息から興奮が伝わってくる。それが嬉しくて。夢中で手を動かしながら、徐々に速度の上がるその動きに合わせて、息が荒くなっていく。

「明希、後ろも触っていい?」
「ん、いいよ」

身体をさらに密着させるように引き寄せられるとぴたりと竿が重なった。

「一緒にしごいて」

あっ、これあれだ。対面座位の兜合わせ。ふとした時によぎるのは腐った教育の成果なのか、なんなのか。でもまぁあれもすべて今日のためにあったものだと思えば、むしろ感謝すべきなのかもしれない。
片手では握りこめないので、両手で握りこむ。その間に、翔は俺の尻をやわやわともみながら、指先で俺の後孔に触れた。
前をしごくことに集中しようとは思うものの、ドキドキと心臓の動きが早まっていく。完全に未知の体験なのだ。少し体がこわばってしまうのは大目に見てほしい。

初めは周囲を緩めるように撫でていた指は、そのうち少しずつ俺の中に入り込んできた。抜き差しを繰り返しながら徐々に奥へと進んでいく。その一本がスムーズに出入りできるようになると、休む間もなく二本目の指が俺の中へと入り込んだ。指はさっきまでと同じ前後の動きに加え、左右に割り開くように動く。これは”準備”なのだ、と思い知るような動きに、甘く腰が疼く。

「痛くない?」
「だい、じょうぶ」

痛みはないし、気持ち悪くもない。でも、気持ちよくもない。当然、その異物感に耐えていると俺の手の動きも緩慢になってくる。すると、翔は俺の手に左手を重ね、動かし始めた。

「明希」

名前を呼ばれて、うつむきがちになっていた顔を上げる。すぐに唇が重なり、舌がからめられた。上も、下も、後ろも、翔になされるがまま。必死に喰らい付こうとしているうちに、俺の中には三本目の指が投入されていた。

「そろそろ、いいと思うんだけど……」

どれほどの時間がたったのか、もうわからなくなるほど頭がぼうっとしてきたころ。翔はようやく俺の中から指を抜いた。翔は、息を乱しているといった程度だが、俺はフルマラソンでも走ったのかな? っていうほど息も絶え絶え。当然、前を握り続けることなんてできず、俺は翔の首にしがみついていただヒイヒイ言っていただけだ。
ここからが本番なんて信じられる? 俺は、だるい体を背中からベッドに投げ出した。

「大丈夫?」

倒れこんだ俺を覗き込むように覆いかぶさってきた翔の目にはまだしっかりと興奮の色が浮かんでいる。それでもきっと、俺が「もう無理だ」と言ったら、やめてくれるのだろう。俺を気遣う声が愛おしい。
俺は翔の頬に手を伸ばし、そっと撫でた。

「好きだ」

自然と出た言葉だった。
翔は驚いた顔をしている。そうだよな。多分、言ったの、付き合い始めた時以来だし。
翔は割とよく言ってくれるけど、俺は恥ずかしがってなかなか言えなかった。
でも、こうやってあふれ出てくるもんなんだな。

「俺も好きだよ、明希。愛してる」

くしゃりと笑った翔は、触れるだけのキスを唇に落とすと、体を起こした。

「入れてもいい?」
「ん、入れて」

それから、翔がコンドームをつけるところまじまじと見てたら、また見すぎって叱られて。後ろからにする? って聞かれたけど、前からがいいって首を振った。だって、顔が見たいじゃん。「わかった」って頷いた翔が俺の足の間に腰を据えて。触れた熱の塊が、中へと入ってくる。

「んん~~~っ」

圧迫感に息が詰まった。指とは違う圧倒的な質量が狭い穴を押し開こうとして、ミシミシときしむ音が聞こえてきそうな気さえする。
でも丁寧にほぐしてもらったおかげか、痛みはない。俺はゆっくりと息を吐き、下腹に力を込める。少しずつ、でも、確実に奥へと進んでくる熱を、包み込んで俺の中に迎え入れるようなイメージで。

「明希の中、すっごい温かい」
「そ、そういうのは、んくっ、言わなくていいし……ふぅ」

先端を何とか飲み込み、その後はどれくらいまで入ったんだろうか。動きを止めた翔は、起こしていた上体をまた倒し、俺の背に両腕をまわす。それに応えるように俺も翔の背中に手を回して、中にある熱に感じ入る。

「……翔のは、熱いな……、はっ?!」

大人しく俺の中に収まっていたはずの熱が唐突に膨張した。急に中を押し広げられて、ぎゅっと体に力が入る。

「うっぁ、明希、ちょっと力抜いて……」
「む、むり言うな、っていうか急にでっかくするなよ!」
「だって、明希がかわいいこというから!」

お互いに必死だな、って思ったらなんだか笑えて。初心者同士、こんなもんだよなって。おかげでいい感じに力も抜けた。

「動くね」
「ん、」

ゆっくりと腰を引かれると、なんでか背中がぞくぞくと波打つ。それが引く前に、また押し込まれると、今度は頭がビリビリと痺れる。その繰り返しに、『快感』と呼ぶにはまだ少し足りない刺激が波紋のように広がり、下腹に溜まっていく。

「んんっっ?!!」

奥へ奥へと進んでいた熱が、唐突に物足りなかったはずの刺激を大きく波立たせた。
翔がものがそこを通るたびに背が跳ねる。これは、これが、あの、まさか……。

「ココがいい?」
「ふっうぁ、わ、わかんない、けど、たぶん、いい、かも……」
「そっか」

声を弾ませた翔が獰猛に笑う。あぁなんでこんなにもイケメンなんだ。たまらなくなって、手も足も翔に絡ませてしがみつく。何度も何度も翔が俺のイイトコロを丁寧に擦るから、その優しい猛攻を俺はただ享受して喘ぐだけ。
さすがにまだ後ろだけじゃいけないから、前も一緒に扱いてもらって。最後は一緒に……。

「明希、もう、」
「はっぁ、おれも、もう、イキたい……! あっ、あぁぁ!」
「明希、あき……ッ!」

名前呼びながらイくとか、ずるいよな、ほんと。

俺を抱え込んでいた腕をほどき、体を起こした翔を見上げる。
あぁ、今日も俺の恋人はイケメンだ。

「気持ち、よかった?」
「うん、すごくよかった。ありがとう。明希は? 体、大丈夫?」
「全然、大丈夫。俺もよかったよ」

いや、自分でもびっくりだよ。まさか自分が「初めてなのに、こんなにも気持ちいなんて……」とか、あまりにもBLっぽいセリフを自分が思い浮かべることになるとは思わなかった。
忘れてたけど、そういえば俺の恋人はとんでもなく高スペックな人間なんだった。同じ初心者としてスタートしたはずなのに、そのあとの成長ペースが全く違った。
確かにゆっくりじっくりではあったが、気が付いたらちゃんとゴールしていたから驚くほかない。
まだポヤポヤと熱に浮かされたままの頭の端で振り返りをしつつ、隣り合って寝転がりながらの俺の髪を弄っている翔を見る。絵に描いたように上機嫌な顔も相変わらずのイケメンだ。
未だにこんな男が俺の恋人だなんて信じられない気持ちになる。でも、ここまでされて翔からの愛情を疑う方が失礼だと、最近は思えるようになった。
俺はだるい腕を起こして翔の首に回す。そのまま引き寄せて、触れるだけのキスをした。

「ありがとう翔、大事にしてくれて」

照れ臭くて上手に笑えなかったかもしれないけど、これが今の俺の精一杯だ。反応を待つのも恥ずかしくなって、反対側に体を向ける。でも、体全体が反対を向く前に、肩を掴まれた。
見上げた先には、俺を囲うように顔の横に手を突き、とろけんばかりの笑みを浮かべる翔がいた。その甘くて優しい表情に、なぜか背筋がビリリと竦む。それは、その瞳の中にある獰猛さをさっきも見たばかりだからだ。

「……む、むり」
「俺も、無理。明希がかわいすぎる」

今、俺の太ももに当たっている固いものはなんでしょうね?!
我が身の明日の無事を祈りつつも、俺は降りてきた唇を受け入れた。




翌朝、俺は聞き覚えのある声で目を覚ました。とは言ってももう日は高く昇り切っていて、朝とは言い難い時間だったけど。そもそも寝た記憶がないんだからしかたがないと思う。
ベッドの上に翔はいなかったが、ドアは開いたままになっていた。

「ほんと信じらんない! いきなり抱きつぶすなんて!」
「俺の方が信じられないよ。初夜の翌日に訪ねてくるなんて」
「初夜とか、キモッ!」

ちょっと待ってくれ。何の話をしているんだ。
咄嗟にベッドから起き上がろうとして、俺はそのままベッドから落ちた。慌てていたからではない。リアルに足腰に力が入らなかったのだ。
BLで情事の翌朝立ちあがれない、なんて描写を見聞きしたことがあるが、まさか事実だったとは。そして、今更ながら自分が思っていた以上にBLのことに詳しいことに驚愕する。のんちゃんの腐教は伊達じゃなかった。

「明希!」
「明希ちゃん!」

ちなみに、この寝室は部屋の二階部分にある。しかも風呂の真横にな。大変便利な間取りで、何も言えない。一階はリビングとそれぞれの私室等々。広すぎて迷子になるかもしれない。
翔は一階にいたようだが、俺がベッドから落ちた音を聞きつけて寝室に飛び込んできた。孝太郎と共に。

さて、お気づきだろうか。さっき言った通り、俺は昨日”眠った”という記憶がない。つまり、どのタイミングかはわからないが最中に気を失ったんだろう。
ということで、今現在俺は真っ裸なのである。
すごいスピードで翔がおれにTシャツをかぶせても、時すでに遅し。というか、下半身隠せないからね、Tシャツじゃ。

「三星くん、いきなりプライベートの部屋に入るのはマナー違反だよ」
「はんっ、俺は明希ちゃんの裸なんて見慣れてるんで~」
「それは今迄の話だよね。これからは俺以外は見るの禁止だから」
「おい、無意味な言い争いをするな」

そんなことよりパンツだ。そう思ってきょろきょろしていると、どこから持ってきたのか、翔が渡してくれたパンツをサポートされながらのろのろと履く。ここでもじもじしたりしたら恥の上乗せでしかない。だったらもう、開き直るしかないだろ。

「で、孝太郎はなんか用?」
「新居見学。という建前で、この野獣が明希ちゃんに無体を働いてないか確認しに来た。そしたら案の定だよ」

ぎろりと翔を睨む孝太郎の視線を翔は気にするそぶりもなく、俺を抱き上げてベッドに乗せると、ズボンをはかせ始めた。もはや介護だが、俺が立てないのはまぎれもなく翔のせいなので、やらせておく。

「明希、ご飯食べれそう?」
「うん、足腰に力はいらないだけだから大丈夫」
「それは大丈夫なわけ?」

お小言がうるさいが、あれでも孝太郎は俺の心配をしてきてくれたのだろう。強制お引越しだったしね。
翔に支えられたままリビングに移動してソファに腰を掛けると、ドスンと横に孝太郎が座った。翔はキッチンで食べるものを用意してくれている。

「……明希ちゃん、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だって。翔は俺がホントに嫌がるようなことはしないよ」

まぁ結局は俺が翔に何をされても嫌じゃないってものあるけど。俺の答えに不満げな孝太郎はごろりとソファの背もたれに大きくもたれかかった。

「あーあ、俺だけ一人ぼっちじゃん」
「お前はこれからだろ」
「どうかなー。恋愛とか俺はよくわかんないし」

孝太郎の視線が陰りを帯びて下を向いた。
その気持ちも痛いほどにわかってしまう。俺たちは『愛』が簡単に壊れることを知っているから。

「それでも俺は、孝太郎に幸せになってほしいよ」

だから、諦めないで欲しい。それが恋愛という形じゃなくてもいいから、信じ、支え合える人に巡り合うことを。

「自分が幸せだからってムカつく!」
「うわぁ!」
「なにしてんの?!」

言葉とは裏腹に、孝太郎は突然俺に飛びついてきた。その勢いでソファに押し倒されたような体勢になってしまう。慌てて駆け寄ってきた翔にあっという間に引きはがされたけど。背に回された手から伝わる熱が、じんわりと温かいまま残っている気がした。

「諏訪野! 約束破ったら、返してもらうからね!」
「安心して、絶対に返さないから」
「チッ!!」
「えっ、約束ってなに?」

俺だけ話に乗れないまま聞いてはみたけど、答えないまま孝太郎は「もう帰る!」去っていき、翔はにこっとされて終わった。
最終的に俺が仲はずれってどういうことだよ。

こうして、嵐のような一日は終わり、俺はまた、明日に進んでいく。

この先もきっと俺の恋人は。
俺を優しく甘やかしながら、ずっと隣にいてくれるだろう。
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蒸しケーキ
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結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

ほたるのゆめ

ruki
BL
恋をすると世界が輝く。でもその輝きは身体を重ねるといつも消えてしまった。そんな蛍が好きになったのはオメガ嫌いのアルファ優人だった。発情したオメガとその香りを嫌悪する彼に嫌われないように、ひたすらオメガである事を匂わさないようにしてきた蛍は、告げることの出来ない思いに悩んでいた。 『さかなのみるゆめ』の蛍と(木佐)優人のお話です。時間軸的には『さかな・・・』のお話の直後ですが、本編主人公達はほとんど出てこないので、このお話だけでも楽しめるかと思います。けれど『さかな・・・』の方も読んで頂けると幸いです。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

婚活アプリのテスト版に登録させられたら何故か自社の社長としかマッチング出来ないのですが?

こたま
BL
オメガ男子の小島史(ふみ)は、ネットを中心に展開している中小広告代理店の経理部に勤めている。会社が国の補助金が入る婚活アプリ開発に関わる事になった。テスト版には、自社の未婚で番のいないアルファとオメガはもちろん未婚のベータも必ず登録して動作確認をするようにと業務命令が下された。史が仕方なく登録すると社長の辰巳皇成(こうせい)からマッチング希望が…

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

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