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お金稼ぎ
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兄ちゃんとの初夜から三週間。俺は結局兄ちゃんに告白出来ずにいた。兄ちゃんは何事も無かったかのように振舞っているし、俺も何も無かったかのように振舞ってしまっている。結局のところ、勇気がないのだ。兄ちゃんに嫌われるかもしれないとか、『あれは無かった事にしてくれ』とか言われたらと思うと、胸が張り裂けそうになる。そしてそのまま時間だけが経ってしまっていた。
そして現在俺は。
「祥くん、カメラ見て―!」
「はーい!」
アルバイトで読者モデルになっている。せっかくのゴールデンウイークに突入するのだが、先立つものが厳しいのだ。兄ちゃんは近くのスーパーで裏方をやっている。なら俺もアルバイトをしなければ、と思っていた矢先にいつも読んでいる雑誌からスカウトが来たのだ。金額は決して多く無いが、貰えるだけ良いだろう。今日は雑誌の5回目の撮影だ。いつも大学に行く時のファッションでの撮影だ。
「はいオーケーです! お疲れ様でした!」
「お疲れ様でしたー!」
撮影が終わり帰ろうと荷物を取った時、ふとディレクターに呼ばれた。
「祥くん、実は君が読モになってくれてからオファーが多数寄せられていてね。うちとしては君を他所の事務所に行かせるのは惜しいと考えている。そこで、うちで一時的にでもいいから契約をしないか?」
「えっと、つまりは『正式にモデルにならないか?』って事ですか?」
俺が首を傾げて言われたことをまとめる。ディレクターは頷いた。
「そうだ。学生業があるのは承知の上で頼みたい。出来るか?」
ちょっと憧れていたモデル業の打診に驚いた。正直やってみたい。でもそうすると、兄ちゃんがまた『危なっかしい事を』と怒るかもしれない。
「えっと、俺としてはやりたいんですけど……。」
「何か問題でもあるのか?」
「同居してる兄ちゃんに、なんて言われるか分からなくて、その……。」
俺は口ごもってしまう。そんな俺にディレクターが名刺を渡してくれた。
「ならお兄さんとゆっくり話して、それから決めてくれ。待ってるぞ。」
「……はい!」
第10話 お金稼ぎ
「モデル業? いいんじゃないか?」
「へ?」
晩ご飯の時、俺は恐る恐る兄ちゃんに『モデルをしてもいいか』聞いてみた。兄ちゃんはあっさり賛同してくれた。俺は思わず情けない声を出した。
「え……、いいの? 怒らない?」
「事務所がしっかりしたところなら、俺は文句はない。それに、」
兄ちゃんはテーブルの下から雑誌を二冊取り出す。俺には見覚えがある。
「……俺が読モやってる雑誌。」
「スーパーの裏方で、たまたま見つけてな。最初は何事かと思ったぞ。」
「デスヨネー……。」
だって兄ちゃんに怒られそうな気がしたから、読モの事言ってなかったし。
「とにかく、事務所と一時的にでも契約するなら契約書をしっかり読んで、祥のやりたい事をしたらいい。厄介事は事務所に頼れ。」
「うん! ありがと兄ちゃん!」
妙にあっさりした兄ちゃんの態度に、俺は少し寂しかった。もっと俺に小言言ってくると思ってたのに。
「でも、その、契約する時一緒にいて欲しいな、って思うんだけど。一緒に来てくれない?お願い、兄ちゃん。」
俺はいつもの様に『お願い』する。しかし、返ってきた言葉は。
「もうお前も大学生なんだから、俺無しでもいいだろ?」
兄ちゃんに突き放された感じがして、俺は胸がギュッと苦しくなった。
「……祥、どうかしたか?」
俺はいつもの笑顔で答える。
「なんでもないよ。頑張るね!」
______
ディレクターに連絡を入れ、事務所に入る。
「祥くん、よく来てくれたね。」
「はい!お世話になります!」
俺は契約書を念入りに確認し、手続きを済ませる。契約書にサインをすると、ディレクターが確認する。
「これで晴れてうちの事務所所属だ。おめでとう!」
「はい!これからよろしくお願いします!」
「相変わらず祥くんは元気がいいな!その意気だ。そうそう、マネージャーを紹介しよう。」
そう言って連れてきたのは、30代くらいの女の人だ。
「長谷川です。祥くん、これからよろしくお願いしますね。」
「颯水祥です!よろしくお願いします!」
「これは人気出そうね。学業もモデルも頑張りましょうね。」
「はい!」
こうして俺は、憧れていたモデルになった。帰りは長谷川さんの車で家まで送ってもらい、そのまま帰った。
「ただいま兄ちゃーん!」
「おかえり、祥。」
帰ってくると、兄ちゃんが自室でパソコンモニターを使ってゲームをしていた。
「ゲームしてるの?リビングのテレビ使えばいいのに。」
「いや、今パソコンでゲーム録画してるんだ。」
「録画?何でまた。」
俺は首を傾げる。兄ちゃんはパソコンを弄り画面を見せた。
「ゲーム実況動画作っていてな。その録画だよ。」
映っているのは、さっきまで兄ちゃんがやっていた『スーパーマルオブラザーズWitch』だ。主人公の『マルオ』がえげつない動き方をしてゴールへ向かっている。
「兄ちゃん、これ動画にしてネットに上げるの?」
「そうそう。WeTubeに上げて広告収入出来るかなって。ゲームなら得意だし、暇つぶしになるから。」
「ねぇ兄ちゃん。」
俺は傍にあったスペアのコントローラーを持つ。
「2人で動画上げたら、もっと面白くなるんじゃない?」
兄ちゃんがふっ、と笑う。格好よくて、見とれちゃう程凄く綺麗だ。
「祥は俺よりアクションゲーム得意だからな。『マルオ』と『スペブラ』やる時は一緒にやろうか。」
「うん!」
こうして2人で作った動画は、後に『リアルスーパーマルオブラザーズ』と呼ばれる事になるのであった。
そして現在俺は。
「祥くん、カメラ見て―!」
「はーい!」
アルバイトで読者モデルになっている。せっかくのゴールデンウイークに突入するのだが、先立つものが厳しいのだ。兄ちゃんは近くのスーパーで裏方をやっている。なら俺もアルバイトをしなければ、と思っていた矢先にいつも読んでいる雑誌からスカウトが来たのだ。金額は決して多く無いが、貰えるだけ良いだろう。今日は雑誌の5回目の撮影だ。いつも大学に行く時のファッションでの撮影だ。
「はいオーケーです! お疲れ様でした!」
「お疲れ様でしたー!」
撮影が終わり帰ろうと荷物を取った時、ふとディレクターに呼ばれた。
「祥くん、実は君が読モになってくれてからオファーが多数寄せられていてね。うちとしては君を他所の事務所に行かせるのは惜しいと考えている。そこで、うちで一時的にでもいいから契約をしないか?」
「えっと、つまりは『正式にモデルにならないか?』って事ですか?」
俺が首を傾げて言われたことをまとめる。ディレクターは頷いた。
「そうだ。学生業があるのは承知の上で頼みたい。出来るか?」
ちょっと憧れていたモデル業の打診に驚いた。正直やってみたい。でもそうすると、兄ちゃんがまた『危なっかしい事を』と怒るかもしれない。
「えっと、俺としてはやりたいんですけど……。」
「何か問題でもあるのか?」
「同居してる兄ちゃんに、なんて言われるか分からなくて、その……。」
俺は口ごもってしまう。そんな俺にディレクターが名刺を渡してくれた。
「ならお兄さんとゆっくり話して、それから決めてくれ。待ってるぞ。」
「……はい!」
第10話 お金稼ぎ
「モデル業? いいんじゃないか?」
「へ?」
晩ご飯の時、俺は恐る恐る兄ちゃんに『モデルをしてもいいか』聞いてみた。兄ちゃんはあっさり賛同してくれた。俺は思わず情けない声を出した。
「え……、いいの? 怒らない?」
「事務所がしっかりしたところなら、俺は文句はない。それに、」
兄ちゃんはテーブルの下から雑誌を二冊取り出す。俺には見覚えがある。
「……俺が読モやってる雑誌。」
「スーパーの裏方で、たまたま見つけてな。最初は何事かと思ったぞ。」
「デスヨネー……。」
だって兄ちゃんに怒られそうな気がしたから、読モの事言ってなかったし。
「とにかく、事務所と一時的にでも契約するなら契約書をしっかり読んで、祥のやりたい事をしたらいい。厄介事は事務所に頼れ。」
「うん! ありがと兄ちゃん!」
妙にあっさりした兄ちゃんの態度に、俺は少し寂しかった。もっと俺に小言言ってくると思ってたのに。
「でも、その、契約する時一緒にいて欲しいな、って思うんだけど。一緒に来てくれない?お願い、兄ちゃん。」
俺はいつもの様に『お願い』する。しかし、返ってきた言葉は。
「もうお前も大学生なんだから、俺無しでもいいだろ?」
兄ちゃんに突き放された感じがして、俺は胸がギュッと苦しくなった。
「……祥、どうかしたか?」
俺はいつもの笑顔で答える。
「なんでもないよ。頑張るね!」
______
ディレクターに連絡を入れ、事務所に入る。
「祥くん、よく来てくれたね。」
「はい!お世話になります!」
俺は契約書を念入りに確認し、手続きを済ませる。契約書にサインをすると、ディレクターが確認する。
「これで晴れてうちの事務所所属だ。おめでとう!」
「はい!これからよろしくお願いします!」
「相変わらず祥くんは元気がいいな!その意気だ。そうそう、マネージャーを紹介しよう。」
そう言って連れてきたのは、30代くらいの女の人だ。
「長谷川です。祥くん、これからよろしくお願いしますね。」
「颯水祥です!よろしくお願いします!」
「これは人気出そうね。学業もモデルも頑張りましょうね。」
「はい!」
こうして俺は、憧れていたモデルになった。帰りは長谷川さんの車で家まで送ってもらい、そのまま帰った。
「ただいま兄ちゃーん!」
「おかえり、祥。」
帰ってくると、兄ちゃんが自室でパソコンモニターを使ってゲームをしていた。
「ゲームしてるの?リビングのテレビ使えばいいのに。」
「いや、今パソコンでゲーム録画してるんだ。」
「録画?何でまた。」
俺は首を傾げる。兄ちゃんはパソコンを弄り画面を見せた。
「ゲーム実況動画作っていてな。その録画だよ。」
映っているのは、さっきまで兄ちゃんがやっていた『スーパーマルオブラザーズWitch』だ。主人公の『マルオ』がえげつない動き方をしてゴールへ向かっている。
「兄ちゃん、これ動画にしてネットに上げるの?」
「そうそう。WeTubeに上げて広告収入出来るかなって。ゲームなら得意だし、暇つぶしになるから。」
「ねぇ兄ちゃん。」
俺は傍にあったスペアのコントローラーを持つ。
「2人で動画上げたら、もっと面白くなるんじゃない?」
兄ちゃんがふっ、と笑う。格好よくて、見とれちゃう程凄く綺麗だ。
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