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私は転生した悪役令嬢ですの。

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転生先が、頑張っても"悪役令嬢の取り巻き"なんて嫌すぎる。
ヒロインと仲良くする計画で行くことにした。
そして、秘密の共有をしたのだった。
「お願いだから、この事は二人だけの秘密にしてくれる? ね?」
「うん……」
取り巻きは二人いただろう…とか思うかもしれないが、あれは私が自ら進んでなったものであって、別に本心ではない。
お兄様が私の行動に無頓着だったからこそ成り立っていた関係だ。
それにそもそも私は悪役令嬢としては優秀でもなんでもない。
取り巻きなんて必要ないのだ。
「それよりも、ね……私とお友達になってくれないかな? これからもずっと、ずっと……」
私はそう言うと手を彼女に差し伸べた。
彼女は躊躇う事なくその手を握り返した。
「もちろん!これからよろしくね!アーシャちゃん!」
「……うん!」
悪役令嬢としての人生が幕を開けた。
私は彼女から見えない角度でニヤリと微笑んだ。
(まずは第一歩……どんな手を使ってでも必ず彼女の心を掴んでみせるわ)
もう後戻りはできない。
でも、それでいい。
私の選ぶ道はただ一つ……アーシャをヒロインにして私は幸せになるのだ。
********
「ねぇ、アーシャちゃん……」
「どうしたの?」
今日は彼女との初めてのお茶会。
彼女は平民だが、魔法の才能を買われて私のお母様が後見人になったらしい。
だから本当は私の家に来てはいけないのだが、お母様が許可したみたい……正直何を考えているのか分からないわ。
まぁ、それほど彼女から私への信頼が厚いと考えておこう。
「ううん……やっぱりなんでもない……」
彼女の歯切れの悪い言葉に私は首を傾げる。
(何か変な事でもしたかしら?)
正直言って、彼女が何を悩んでいるのか分からない。
やはり、平民と貴族の差を埋めるのは難しいのだろうか……?
「……そう言えばさ、アーシャちゃんってお兄さんがいるよね?」
「えぇ、いますわよ」
お兄様は年上で私の5つ上だ。
もうこの頃には私にも婚約者がいた筈だからきっと彼女も「この人と結婚するんだろうな」と思うのではないだろうか。
私がそう言うと彼女は嬉しそうにした。
「じゃあ、この家に遊びにきたりするの?」
「えぇ、たまに来ますわよ」
すると、彼女は目を輝かせた。
その反応に私は思わず後退る。
(まさか……)
そんな馬鹿なと思いつつも彼女の次の言葉に確信した。
「もしかして……アーシャちゃんのお兄さんって私の好きな人に似てるかも!」
(やはりそうだわ……お兄様本人よ!)
彼女に好きな人がいたなんて初耳だったが、これで辻褄が合う。
違うのならば一体誰なのだろうか? お兄様とは年齢が随分と離れているようにも感じるし……本当に謎だ。
「ねぇ、その好きな人ってどんな人ですの?」
「……え?」
「だって、私が知ってるわけないでしょう?その人には会った事ありませんもの」
(私はこっそりと見てきたから知っているけど)
私は適当にそう言うと紅茶を一口飲んだ。
彼女は何か言いたそうにしていたが、それを飲み込んでいた。
(もしかして……本人だと言い難かったのかしら?)
「わ、私の好きな人はね……髪が短くてね、背が高くてカッコいいんだよ」

(ん?ちょっと待ってくださるかしら……)
「あの~もしかしてですけど……」
私は恐る恐る彼女に尋ねる。
すると、彼女はクスクスと笑った。
(私ったら自意識過剰だったのかしら?でも、それなら言えるはずだし……)
彼女の答えを待つ間、私はハラハラとしてしまった。
そんな私を他所に彼女は満面の笑みを浮かべながらこう言った。
「その人の名前はジル。私の想い人だよ」
「……」
(やっぱりお兄様ですの?)
私は彼女の顔を見ると、まるで恋する乙女のような表情をしていた。
その反応に私は思わず顔を顰める。
そして、深くため息をついた。
(これは……かなり不味い事になったわ)
悪役令嬢として頑張らなくては!と思っていたが、思わぬ障害が現れてしまったようだ。
彼女とお兄様をくっつけるのは正直言って嫌だが……彼女が幸せになれるならそれはそれでありかもしれない。
(まぁでも……悪役令嬢がヒロインを助けるなんて…。しかも、義理のお姉様になるなんて絶対に許さないけどね)
ヒロインには申し訳ないが、彼女の恋は実らない。
私がなんとしてでも邪魔してみせる。
(その為にも……彼女との距離を縮めておかなくちゃね)
彼女が私を頼ってくれるように……もっと仲を深めたい。
「ねぇ、アーシャちゃん」
「何かしら?」
彼女はとても深刻そうな顔をした。
そんな表情も愛らしいなと私は思ったが口には出さなかった。
「アーシャちゃんっていつからここに来たの?」
「あー……」
(それね……)
彼女はしばらく黙ったが、何か閃いたのか手をポンと叩いた。
そして、私の手を掴んできた。
「アーシャちゃん!私と一緒にここから逃げない?」
(なるほど……まずはそれもありかもしれないわね)
私は彼女の提案に乗った。
それから私たちは逃げる計画を立てたのだった。
*****
悪役令嬢として頑張れば頑張るほど彼女は私から離れていくし……というか、私の嫌がらせでさえも味方にしてしまうし……
正直言って、私の思い通りに事が運ばない。
(やっぱりヒロインって厄介だわ)
アーシャは自分が主人公だと信じて疑わないし、表面だけで一向に私に心を開いてくれない。
一筋縄ではいかないのだ。
(あー!もうっ!めんどくさいっ!!こうなったら最終手段よ)
私はある秘策を考えた。
それは"断罪イベント"だ。
(この学園には"罪の告白"をする機会が一度だけあるわ)
それを利用して悪役令嬢の烙印を押されてしまえばいいんだ。
しかし、問題はどうやって断罪イベントを起こすかだ。
(何かいい方法はないかしら……?)
うーんと頭を悩ませていると、私の耳にとある噂話が聞こえてきた。
(あ!これよ!この手ならきっと上手くいくはずっ!!)
私は早速準備に取り掛かったのだった。
*****
***
今日はいよいよ断罪イベントだ。
(まさか私が悪役令嬢として選ばれる日が来るなんてね……)
私は悪役令嬢らしく不敵な笑みを浮かべる。
そして、ヒロインである彼女を見つめた。
(これからあなたを私の踏み台にしてあげるわ……アーシャ・ノアニールの名にかけてっ!)
彼女は未だに自分が主人公だと思い込んでいるようだ。

(そんな幻想も今日で終わりよ)
「皆さんに悲しいお知らせがあります」
そんな時、彼女の凛とした声が体育館中に響いた。
(始まったわね……!)
私はゴクリと唾を飲む。
ついに断罪イベントが始まったのだ。
「私、アーシャ・ノアニールは婚約者であるジルベルト様に対し度重なる嫌がらせを繰り返していました」
(……ん?ちょっと待ってちょうだい?)
私は思わず首を傾げる。
だが、彼女はそんな私を他所に言葉を続ける。
「そしてついに、彼に婚約破棄を言い渡されてしまいました」
(いやああああああぁぁぁ!!私が先に断罪イベントされてるじゃないのおおおぉぉぉっ?!)
私は膝から崩れ落ちる。
そんな私に周りの人たちは奇異の目を向けてきた。
(嘘だと言ってよおおぉぉっ!!)
***
「という訳で、私はアーシャ様に虐められています」
まさか彼女が先に断罪されてしまうだなんて思いもしなかった。
いや、私的にはそっちの方が好都合なのだが……やはり複雑な気持ちになる。
そんな私を他所に彼女は満足そうな表情を浮かべると、私の方を見てこう言った。
「私がやったっていう証拠はあるの?」
その言葉を待っていたわ!と言わんばかりに私はニヤリと笑う。
そして、高らかに宣言した。「えぇ、ありますわ!」
「え?」
彼女は困惑している。
(さぁ!私と共に堕ちなさい!悪役令嬢として、そして……ヒロインの敵として!!)
私はゆっくりと深呼吸して話し始める。
今からが私のスタート地点だ。
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