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2度目の人生は絶対に失敗したくありませんわ。
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悪役令嬢は2回目の人生を生きていくようです。
ある朝、私はベッドの上で目を覚ました。
寝ぼけ眼をこすって、ゆっくりと体を起こす。
窓から差し込む日差しが眩しい。
「お嬢様、おはようございます」
「おはよう、アニー」
部屋付きのメイドであるアニーに挨拶を返して、ベッドから降りる。
鏡台の前に座り、髪を梳いてもらう。
鏡に映る自分の顔をじっと見つめる。
長いまつ毛、大きな目、整った鼻筋、ぷっくりとした唇。
自分で言うのもなんだが、将来有望な美女だ。
私が物心ついたころから、ずっとお世話になっているこの顔。
きっとこの先も変わることはないだろう。
そう、私はこの人生は2回目なのである。
前世では、学園を卒業する前に婚約破棄をされてしまい、家が没落してしまうという悲惨な終わり方をしました。
いわゆる転生というやつである。
記憶は少ししかないけれど、その人生が終わる頃の記憶は鮮明に残っている。
なにせ、あんな悲惨な思いをしたのだから忘れようがない。
前世の私も、今の私も、変わらず私だ。
しかし、一つだけ大きく違うところがある。
やり直しだ。今の私はヒロインでも悪役令嬢でもなく、ただの侯爵家の娘になるのだ。
これはとても幸運なことだと思う。
二度目の人生をやり直せるなんて夢のようだ。
もっとも、公爵家に生まれていればもっとよかったのだけれど……。
それでも、没落寸前の家に生まれたことを考えれば十分すぎるほど幸せだろう。
身支度を整えて、朝食をとるために食堂へ向かう。
廊下を歩いていると、中庭で剣術の練習をしている兄を見つけた。
兄の名はギルバート・エルラーゴ、私の二つ上である。彼はこの国の第一王子であり、いずれ王となる人物である。
この国では、王位を継ぐのは第一子に限るという法律があるため、彼が王太子になることはほぼ確定している。
そのため、幼い頃から様々な教育を受けて育ってきた。
現在は、剣や戦術といった戦闘技術に加えて、帝王学などの政治に関する勉強も行っているようだ。
さすが未来の王様だなと思う反面、まだ子供なのに大変だなとも思う。
ゲームの中の彼も幼少期から多忙を極めていたけれど、現在になっても忙しいとは驚きである。
「兄上、おはようございます」
練習中の兄に声をかける。
「ああ、エレナか。おはよう」
兄は汗を拭いながら返事をする。
「朝から稽古ですか?頑張っていますね」
「まあね、僕がしっかりしないと国が立ち行かないからね」
そう言って微笑む顔は、やはり子供のそれとは思えないほどに大人びている。
次期国王としての責任感を感じるとともに、少し寂しさを覚えた。
私と兄は血が繋がっているわけではない。私の母は父の再婚相手なので、義理の兄にあたる。
だからだろうか、父が亡くなってしまってからは、より一層責任を感じているように見えた。
「そういえば、父上が生前言っていたよ。『いつかお前に大事な人ができたときに、その人を守るために強くなれ』ってね。僕は今、父上との約束を守るため、そして自分自身のためにも強くなっているんだ」
そう言った兄の目は輝いていた。
それはまさに、未来の王にふさわしい輝きだった。
父が亡くなった後、兄は一人でこの家を守ってきた。
王位継承権を放棄せず、母や私を路頭に迷わせないようにするという約束をして。
もちろん、その約束には私達に対する思いやりもあったのだろうが、それ以上に兄が家族を失いたくなかったという思いが強かったのだろう。
そんな兄の姿を見て、私も何か恩返しをしたいと思った。
幸いにも、私には前世の記憶がある。
知識を活用して、これからの人生に役立つことができればいいなと思っている。
そのためにもまずは、悪役を脱する必要がある。
せっかく生まれ変わったのだから、今度は失敗しないよう精一杯生きていこうと思う。
その後、朝食を終えて自室に戻った私は、さっそく行動を開始した。
まず最初に取り掛かったのは、今後の身の振り方だ。
これから先、何が起こるかわからない。もしかしたら、また婚約破棄されてしまうかもしれない。
そうなったとき、少しでも生き残る確率を上げるためにはどうすればいいのかを考える必要がある。
例えば、公爵領に戻って商人を目指すというのも一つの手だ。
しかし、公爵家に生まれた以上、政治的な思惑に巻き込まれる可能性も考えられるし、何よりも領地経営のノウハウがない状態で独立するというのは現実的ではない。
まずは、生き残ることを優先し、安全を確保するためにも最低限の知識を身につける必要があるだろう。
そう考えた私は、この日から勉学に励むことにしたのだった。
それから数ヶ月後。
季節は春を迎えようとしていた。
今日は先生に勉強の成果を見てもらうことになっている。
「先生、今日はお願いします」
「おおエレナ、よく来たな。さあ入りなさい」
部屋に入ると先生が笑顔で出迎えてくれた。先生は普段忙しくしていることが多いが、今日のために時間を取ってくれたらしい。
「エレナは最近よく勉強しているようだね。関心なことだよ」
先生は私の努力を認めてくれているようで嬉しかった。
「ありがとうございます。これからも頑張ります」
私が笑顔でそう答えると、先生も嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、早速始めようか」
教室に入ると、テーブルを挟んで向かい合わせに座るように促された。テーブルの上には書物や紙の束が置かれている。おそらくこれらが教材なのだろう。「エレナは算術が得意だったね。まずは簡単な問題からやってみようか」
先生はそう言うと、一枚の紙を取り出した。
「まずはこの問題を解いてみて」
私は頷くと、ペンを手に取って問題を解き始めた。
数式を解く手順を思い出しながら、一つずつ計算していく。
しばらくすると、答えが出たので先生に見せた。先生は真剣な表情で採点を行っているようだ。
数分後、先生が顔を上げた。その表情からは満足げな様子が見て取れる。
「さすがエレナだね。全問正解だよ」
そう言って褒めてくれた。先生に認められるのはとても嬉しい。
その後もいくつかの問題を解き、その度に先生に採点してもらった。
全ての問題を解き終え、一息つく頃にはもう日が暮れていた。
「お疲れ様。よく頑張ったね」
先生は優しく微笑んでくれた。私も笑顔で返す。
「ありがとうございます!先生もお疲れ様です」
お礼を言うと、先生は照れたように笑った。そして、少し考えるような仕草をして口を開いた。
「エレナは、いずれ国の...そこまで言いかけて、口をつぐむ。どうしたのだろうか?不思議に思って見つめていると、慌てた様子で続けた。
「いや、何でもないんだ。気にしないでくれ」
先生はそう言うけれど、何だか様子がおかしい気がする。少し気になったけれど、あまり詮索するのも良くないと思い、それ以上は何も聞かなかった。
帰り際、玄関まで見送ってくれる先生の後ろ姿を見つめながら、ふと先程の言葉が頭をよぎった。
(『将来、隣国の王妃になるのかな?』)
2回目の人生は、お兄様の意志も汲んで、私がこの国で王妃を務めようとする道はとりませんわ。
なんとしてでも、絶対に破滅の道を回避してみせますわ。
ある朝、私はベッドの上で目を覚ました。
寝ぼけ眼をこすって、ゆっくりと体を起こす。
窓から差し込む日差しが眩しい。
「お嬢様、おはようございます」
「おはよう、アニー」
部屋付きのメイドであるアニーに挨拶を返して、ベッドから降りる。
鏡台の前に座り、髪を梳いてもらう。
鏡に映る自分の顔をじっと見つめる。
長いまつ毛、大きな目、整った鼻筋、ぷっくりとした唇。
自分で言うのもなんだが、将来有望な美女だ。
私が物心ついたころから、ずっとお世話になっているこの顔。
きっとこの先も変わることはないだろう。
そう、私はこの人生は2回目なのである。
前世では、学園を卒業する前に婚約破棄をされてしまい、家が没落してしまうという悲惨な終わり方をしました。
いわゆる転生というやつである。
記憶は少ししかないけれど、その人生が終わる頃の記憶は鮮明に残っている。
なにせ、あんな悲惨な思いをしたのだから忘れようがない。
前世の私も、今の私も、変わらず私だ。
しかし、一つだけ大きく違うところがある。
やり直しだ。今の私はヒロインでも悪役令嬢でもなく、ただの侯爵家の娘になるのだ。
これはとても幸運なことだと思う。
二度目の人生をやり直せるなんて夢のようだ。
もっとも、公爵家に生まれていればもっとよかったのだけれど……。
それでも、没落寸前の家に生まれたことを考えれば十分すぎるほど幸せだろう。
身支度を整えて、朝食をとるために食堂へ向かう。
廊下を歩いていると、中庭で剣術の練習をしている兄を見つけた。
兄の名はギルバート・エルラーゴ、私の二つ上である。彼はこの国の第一王子であり、いずれ王となる人物である。
この国では、王位を継ぐのは第一子に限るという法律があるため、彼が王太子になることはほぼ確定している。
そのため、幼い頃から様々な教育を受けて育ってきた。
現在は、剣や戦術といった戦闘技術に加えて、帝王学などの政治に関する勉強も行っているようだ。
さすが未来の王様だなと思う反面、まだ子供なのに大変だなとも思う。
ゲームの中の彼も幼少期から多忙を極めていたけれど、現在になっても忙しいとは驚きである。
「兄上、おはようございます」
練習中の兄に声をかける。
「ああ、エレナか。おはよう」
兄は汗を拭いながら返事をする。
「朝から稽古ですか?頑張っていますね」
「まあね、僕がしっかりしないと国が立ち行かないからね」
そう言って微笑む顔は、やはり子供のそれとは思えないほどに大人びている。
次期国王としての責任感を感じるとともに、少し寂しさを覚えた。
私と兄は血が繋がっているわけではない。私の母は父の再婚相手なので、義理の兄にあたる。
だからだろうか、父が亡くなってしまってからは、より一層責任を感じているように見えた。
「そういえば、父上が生前言っていたよ。『いつかお前に大事な人ができたときに、その人を守るために強くなれ』ってね。僕は今、父上との約束を守るため、そして自分自身のためにも強くなっているんだ」
そう言った兄の目は輝いていた。
それはまさに、未来の王にふさわしい輝きだった。
父が亡くなった後、兄は一人でこの家を守ってきた。
王位継承権を放棄せず、母や私を路頭に迷わせないようにするという約束をして。
もちろん、その約束には私達に対する思いやりもあったのだろうが、それ以上に兄が家族を失いたくなかったという思いが強かったのだろう。
そんな兄の姿を見て、私も何か恩返しをしたいと思った。
幸いにも、私には前世の記憶がある。
知識を活用して、これからの人生に役立つことができればいいなと思っている。
そのためにもまずは、悪役を脱する必要がある。
せっかく生まれ変わったのだから、今度は失敗しないよう精一杯生きていこうと思う。
その後、朝食を終えて自室に戻った私は、さっそく行動を開始した。
まず最初に取り掛かったのは、今後の身の振り方だ。
これから先、何が起こるかわからない。もしかしたら、また婚約破棄されてしまうかもしれない。
そうなったとき、少しでも生き残る確率を上げるためにはどうすればいいのかを考える必要がある。
例えば、公爵領に戻って商人を目指すというのも一つの手だ。
しかし、公爵家に生まれた以上、政治的な思惑に巻き込まれる可能性も考えられるし、何よりも領地経営のノウハウがない状態で独立するというのは現実的ではない。
まずは、生き残ることを優先し、安全を確保するためにも最低限の知識を身につける必要があるだろう。
そう考えた私は、この日から勉学に励むことにしたのだった。
それから数ヶ月後。
季節は春を迎えようとしていた。
今日は先生に勉強の成果を見てもらうことになっている。
「先生、今日はお願いします」
「おおエレナ、よく来たな。さあ入りなさい」
部屋に入ると先生が笑顔で出迎えてくれた。先生は普段忙しくしていることが多いが、今日のために時間を取ってくれたらしい。
「エレナは最近よく勉強しているようだね。関心なことだよ」
先生は私の努力を認めてくれているようで嬉しかった。
「ありがとうございます。これからも頑張ります」
私が笑顔でそう答えると、先生も嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、早速始めようか」
教室に入ると、テーブルを挟んで向かい合わせに座るように促された。テーブルの上には書物や紙の束が置かれている。おそらくこれらが教材なのだろう。「エレナは算術が得意だったね。まずは簡単な問題からやってみようか」
先生はそう言うと、一枚の紙を取り出した。
「まずはこの問題を解いてみて」
私は頷くと、ペンを手に取って問題を解き始めた。
数式を解く手順を思い出しながら、一つずつ計算していく。
しばらくすると、答えが出たので先生に見せた。先生は真剣な表情で採点を行っているようだ。
数分後、先生が顔を上げた。その表情からは満足げな様子が見て取れる。
「さすがエレナだね。全問正解だよ」
そう言って褒めてくれた。先生に認められるのはとても嬉しい。
その後もいくつかの問題を解き、その度に先生に採点してもらった。
全ての問題を解き終え、一息つく頃にはもう日が暮れていた。
「お疲れ様。よく頑張ったね」
先生は優しく微笑んでくれた。私も笑顔で返す。
「ありがとうございます!先生もお疲れ様です」
お礼を言うと、先生は照れたように笑った。そして、少し考えるような仕草をして口を開いた。
「エレナは、いずれ国の...そこまで言いかけて、口をつぐむ。どうしたのだろうか?不思議に思って見つめていると、慌てた様子で続けた。
「いや、何でもないんだ。気にしないでくれ」
先生はそう言うけれど、何だか様子がおかしい気がする。少し気になったけれど、あまり詮索するのも良くないと思い、それ以上は何も聞かなかった。
帰り際、玄関まで見送ってくれる先生の後ろ姿を見つめながら、ふと先程の言葉が頭をよぎった。
(『将来、隣国の王妃になるのかな?』)
2回目の人生は、お兄様の意志も汲んで、私がこの国で王妃を務めようとする道はとりませんわ。
なんとしてでも、絶対に破滅の道を回避してみせますわ。
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