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2章
27話
しおりを挟む「あのっ…!そのローラさんという人はいつもどれくらいの間隔でここに来ているんでしょうか!?」
気が付けば私は、受付のカウンターに身を乗り出し、興奮気味にそう女の子に訊ねていた。
そんな様子の私に、彼女はとても驚いた表情をしている。それから戸惑いながら口を開いた。
「え…っと…。あの…。そうね、あまり正確に把握した事はないけど、半月に一回くらいは来ていると思うわ」
「えっ…?半月に一回?僕がこの学校に転入してから毎日ここに通って1ヶ月くらいたつのに。どうして会えていないの…?」
彼女が語った内容に驚きすぎて、思わず独り言を漏らしていた。
「そりゃそうよ。だっていつも放課後にくるんだもの。それにしてもあなた、転入生だったのね。どうりで急に見かけるようになった訳だわ」
「あっはい。先月からここに通うようになりました。それで…。その…、ローラさんという方が前に来たのはいつですか?」
「今、履歴を見てみるわね。えーと…。今から12日前ね。それ以降の日付から推測すると、そろそろここにくるんじゃないかしら?」
「ありがとうございます!」
「あなた、ひょっとしてローラさんに会うために毎日ここへ通っていたの?本が好きなわけではないの!?」
受付の女子は少しムッとしながら私を冷ややかに見ている。
「いや…。実は…、本当の事を言うとローラさんを探していました。昔、とてもお世話になったのでお礼をしたくて。学年が違うので別棟にいる彼女を、校内で見つける事が出来ないでいました。でも、ここに通っている理由は他にもあります。
…。あまり人に話す事ではないのですが、前の僕は本が好きでした。小さい頃、毎日母が僕に読み聞かせてくれた影響です。でも、ある出来事がきっかけで物語を読む事が出来なくなってしまったんです…。でも、もう一度本を読んでみたい。本を読む事が楽しいと思いたい。だから、それを克服する為にここに通っているんです」
「なるほど…。それは深刻ね。じゃあ、私がその問題を克服する手伝いをしてあげるわ!」
「えっ!?手伝ってくれるんですか?でもどうやって…?」
「まぁ、本好きの私がなんとかしてあげるから!まかせなさい!あっ私、リサっていうの。よろしくね」
「僕はレイといいます。よろしく」
「あのね、敬語はやめましょう。私、たぶんあなたと同じ年よ。少し前に二階の一番奥のクラスに転入生が来たって噂を聞いていたのよ。それはきっと貴方の事よね?」
「うん、確かに二階の一番奥が僕のクラスだよ」
「やっぱり。そういえば…。レイが今、手に持っているその本は結局借りるの?借りないの?」
「あっ…。いや、ローラさんが借りにくるからやめておくよ」
「そう。分かったわ。じゃあ、早速明日の昼休みから特訓よ!分かった?」
「うん、わかったよ。明日からよろしく、リサ。じゃあまた明日!」
そんなやり取りをしてリサと別れた。思わず心強い味方が出来た事が頼もしかった。良い友人になれればいいなと思う。
明日から数日間、放課後図書館にいけるよう、ダンに仕事の時間を相談しよう。仕事開始が遅くなる分、どこかで挽回しなければいけない。
早くこの時代の母さんに会いたい。そんな強い気持ちが勝ってしまい、その後、ずっとふわふわした気分のまま時間は過ぎて行った。
学校が終わって、いつものように家に戻ると、モリスに届け物を頼まれた。それを済ませてからダンの元に向かう。
今日の現場は街の中心部にある飲食店の庭だ。辺りは煌びやかな宝石店や服飾店が立ち並ぶんでいる。
現場の飲食店を探しながら歩いていると、ふとショーケースの中にある美しいドレスが目に留まった。真っ白な絹のドレスにはふんだんに繊細な柄のレースやフリルが使われている。胸元にはキラキラと光る美しい装飾品が施されている。
『なんて綺麗なんだろう』
気が付けば足を止めてそのドレスに見入っていた。ふと、ショーケースのガラス越しに映し出された自分の姿が目に入る。レイラという素のままの自分の姿がそこにあった。
「あれ?レイさん?」
突然そう声をかけられ、慌てて我に返った。声のした方に顔を向けるとそこにはエルドが立っていた。
「あっエルドさん!奇遇ですね。この間はありがとうございます。仮眠を取れたおかげで、あの後とても助かりました」
「うん、あれくらい何てことないよ。それより君、あのドレスに興味があるの?」
「あっいや…。単純に綺麗だなと思って。仕事に行く途中なのに足を止めて見入ってしまいました」
「確かに綺麗だよね。いつか妹にも着せてやりたいよ。…そうだ。レイさん、僕に今度、この間のお礼をするっていっていたよね?」
「あっ、はい」
「そのお礼、僕の希望をきいてもらっていい?」
「はい、もちろんです。何を希望ですか?」
「うん、実は来週末、妹の誕生日なんだ。今もプレゼント選びで苦労していた所なんだよ。でね、我が家で行う妹の誕生日を、レイさんも一緒に祝ってほしいんだよ。アルマが君にとても会いたがっているんだ」
「もちろんです。週末は仕事もお休みなので。お礼の代わりじゃなくても喜んで出席させてもらいます。それで何時に伺えばいいでしょうか?」
「ありがとう。アルマが喜ぶ。時間は13時で大丈夫かな?」
「わかりました。13時ですね。大丈夫です。僕もアルマに会いたいから今からとても楽しみです」
「うん、ありがとう。アルマにもそう伝えておくよ。これから仕事なのに足止めして悪かったね」
「いいえ、大丈夫です。来週末楽しみにしています」
私がそういうと、彼はにこやかに微笑み、手を振りながら行ってしまった。
誕生日パーティーか。初めてそのような催しに呼ばれたので結構嬉しい。何を持っていったらいいだろう。プレゼントを選ぶのも楽しそうだ。
エルドと別れてダンが待っている現場に急いだ。
さて今晩は、放課後、図書館に通う時間を確保するため、ダンに時間の相談をしなければいけない。お世話になっているのに少し後ろめたい気持ちもあるが、母と早く接触したい。きっと今頃はあの父との婚約が決まって毎日辛い思いをしているのではないか。そう思うとひどく胸が痛んだ。
あんな卑劣で卑怯な男となんて、絶対に結婚なんてさせない。
あなたは私が絶対に守るから。改めてそう強く心に誓った。
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