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冒険の冒頭といえば
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「助けてえ!!」
緑色の汚ならしいゴブリンに担がれている栗色の髪の少女が叫んでいる。
「ギ、ギギイ!!」
さらにそのゴブリンは少女を担いだまま、ドラゴンに掴まれて宙をもがいていた。
ドラゴンの下では商人一行を守る用心棒らしき者達と盗賊どもが、じりじりと睨み合いながら、いかにドラゴンに気づかれずにこの場を離れるか見定めようとしており、一方ゴブリン達はドラゴンに捕まった仲間を助けようと、非力ながらも木の棒や槍などをドラゴンの硬い足に叩きつけて、果敢に立ち向かっていた。
少女の父親らしき太った男は、娘を助けたくとも助けられぬまま、恐怖と絶望を瞳に宿し、無力にただ立ち尽くしている。
『クリスマスプレゼントの靴下』神は、わくわくした様子で『泥団子』神に話しかけた。
「見ろ!ゴブリンに拐われて助けを求める少女。盗賊に襲われる商人の一行。ドラゴン。これぞ、異世界ファンタジーじゃないか!!」
「盛り込みすぎて、お腹いっぱいだのお。この景色は」
『泥団子』神は呆れた表情でその光景を眺めた。
「それで、どうするのじゃ?」
「もちろん、助けるんだよ!じゃないと、冒険が始まらないだろう?」
力説する友神に、『泥団子』神は尋ねた。
「誰を助けるのじゃ?」
「へ?そりゃ、少女と商人達でしょ?」
「少女を助けるのはわかるが、わしから見たら、この中で一番健気なのはゴブリン達だのう」
そう言われて、『クリスマスプレゼントの靴下』神は、再度その光景を見た。
立ち尽くして動かぬ少女の父親。それ以外の人間勢は、商人側も盗賊側も、少女を見捨てて逃げ出したい様子だ。
そんな中で、仲間のために危険を顧みず頑張るゴブリン勢。
「あれ?ゴブリン頑張れ!な状況?いや、でもゴブリンは人間を襲う悪者役じゃない?」
「そりゃ、人間からしたら害獣じゃろうがな。お主の貸してくれた本にあったが、ゴブリンの種族的特性として、『男しか産まれないため、他種族の女を使ってその種を保存しようとする』んじゃろ?ならば、仕方のない話ではないか」
「確かに……」
『泥団子』神は、ドラゴンに立ち向かうゴブリンに目を向けた。
「見よ、あの様を。ゴブリンの方が断然好感が持てるわい」
『クリスマスプレゼントの靴下』神は、「ううーん……」と唸った。
そのうち、ドラゴンが少女とゴブリンを口の中に放り込もうと、その腕を動かした。
「あ、まずいよ!食べられちゃう!」
「『クリスマスプレゼントの靴下』神、わしがあの腕を切り落とすから、お主はその下では少女らを受け止めよ!」
「了解!」
『泥団子』神は、泥ブレードを飛ばしてドラゴンの腕を切り落とした。
『クリスマスプレゼントの靴下』神は、ほとんどの神が持っている能力、『神は遍在する』を発動させ、一瞬でドラゴンの真下に移動すると、少女とゴブリンをキャッチした。
ドラゴンは腕を切り落とされた痛みから、激しく咆哮し、辺りの空気を震わせた。
そして、血が滴れるのも構わず、逃がした獲物にギロリと目を向けるや、今度は逃すまいと、鋭い歯の揃った大きな口を開け、『クリスマスプレゼントの靴下』神達に即座に食らいつこうとした。
「キ、キャアアアア!!」
「ギ、ギギイイイイ!!」
「クリソックスーーーッ!!」
少女とゴブリンと『泥団子』神が叫んだ。
「『靴下召喚』!」
後少しで『クリスマスプレゼントの靴下』神に、その巨大な牙が届こうかというその時、ドラゴンは動きを止めた。
そのうち、苦しみ始める。
少女とゴブリンは、訝しげにドラゴンを見上げた。
ドラゴンの黒くて硬い体表が、ボコボコと奇妙に波打ち始める。
とうとうドラゴンは、腹を上に、どうと倒れた。
その腹はどんどん膨れ、最後は弾け飛んだ。
「「「「「!!!」」」」」
その場にいた者は皆、息を呑んだ。
おや?弾け飛んだドラゴンの腹の中から大量の靴下が……
「な、何これ……」
「ギ、ギギ……」
少女とゴブリンは、理解不能な現象に肩を寄せあって震えている。
ドラゴンの下にいたゴブリン達は、一部はドラゴンの下敷きに、後はほとんどが、溢れ出た靴下に埋もれていた。
だが、流石に野生。靴下の山から這い出し、ドラゴンが死んだとわかるや、踊り上がって喜び始めた。
『クリスマスプレゼントの靴下』神は、助けたゴブリンの背を押した。
「ほら、仲間の元に帰るがよい……」
「ギギ、ギギ」
ゴブリンは礼のそぶりを見せ、少しだけ少女を見やると仲間の元に走っていった。
少女は、ゴブリンに小さく手を振っている。
これが、吊り橋効果という奴か。
わからないが、ともに死地を乗り越えた事で、少女にゴブリンに対する仲間意識が芽生えたようだ。
ただし、ゴブリンに気を許しすぎると、苗床職への強制就職が決定するので、気をつけて欲しい所である。
「い、今のは、あなたが?」
少女は、ゴブリンから隣に立つ白髪白髭のダンディなおじ様に目を移し、おずおずと聞いた。
「そうだよ。私の能力『靴下召喚』。靴下なら無限に召喚できるんだ」
「お主の『靴下召喚』の使用のしかた、えげつないの……」
そこへ、『泥団子』神もやって来た。
『クリスマスプレゼントの靴下』神が、少女に友神を紹介する。
「私の友神だ。ドラゴンの腕を落としたのが彼だよ」
少女は、はっとした様子で、二柱に慌てて礼を言った。
「あ、ありがとうございました!おかげさまで、命が助かりました!」
「いいんだ。面白そうだから助けただけだし」
「わしは、こいつが助けると決めたから助けただけじゃ」
少女はふるふると頭を振った。柔らかにウェーブを描いた栗色の髪が、少女の肩口で揺れている。
「それでも、命を助けてもらったのは事実です。なんとお礼を言ったらいいか……。あの、お名前を教えていただけませんか?」
二柱は互いに見合った。
「私の名は『クリスマスプレゼントの靴下』神だよ。……ところで、名前といえば『泥団子』神よ、さっき私の事を『クリソックス』と呼ば」
「気のせいじゃ。わしは『泥団子』神よ」
『泥団子』神はしらを切った。
少女が不思議そうに首を傾げている。
「あの、変わったお名前ですね……それに、神って」
『泥団子』神が頷いた。
「神じゃからな。それにしても、呼び辛いよの、こやつの名前。よし、異世界に来たことだし、心機一転、お主は『クリソックス』と名乗るがよい」
『泥団子』神が『クリスマスプレゼントの靴下』神改め、『クリソックス』に向かって、流れるように改名を提案し、即決した。
「ああ!やっぱりさっき私の事を、『クリソックス』と呼んだんじゃないか!というか、前からそんな風に思ってたの?!なんか、ショック!」
「長いんじゃ、お主を表す真名は。もう通称でいいじゃろう?」
「ひ、酷いよ!私のアイデンティティーを何だと思ってるの!じゃあ、私も『泥団子』神のあだ名を考えるから。……ええと、『ドロンズ』!人の少女よ、この男は今より『ドロンズ』だから!」
「あ、はい……。クリソックスさんと、ドロンズさんですね」
「なかなか乙な名付けセンスよの、お主」
急に口げんかを始めた怪しきおじ様達に、少女は戸惑いながらも、悪い人達ではない、と感じていた。
そのまわりでは、ドラゴンを軽く葬るほどの強者であるが、突如現れた怪しいおっさん達に話しかけようと近づいた商人の一行が、同じく仲間を助けてもらい礼を言おうと近づいたゴブリン一行とかち合い、互いに武器を構えて睨み合っている。
盗賊はいつの間にか逃げ去っていたが、結局カオスは続いていたのだった。
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「ギ、ギギイ!!」
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「それで、どうするのじゃ?」
「もちろん、助けるんだよ!じゃないと、冒険が始まらないだろう?」
力説する友神に、『泥団子』神は尋ねた。
「誰を助けるのじゃ?」
「へ?そりゃ、少女と商人達でしょ?」
「少女を助けるのはわかるが、わしから見たら、この中で一番健気なのはゴブリン達だのう」
そう言われて、『クリスマスプレゼントの靴下』神は、再度その光景を見た。
立ち尽くして動かぬ少女の父親。それ以外の人間勢は、商人側も盗賊側も、少女を見捨てて逃げ出したい様子だ。
そんな中で、仲間のために危険を顧みず頑張るゴブリン勢。
「あれ?ゴブリン頑張れ!な状況?いや、でもゴブリンは人間を襲う悪者役じゃない?」
「そりゃ、人間からしたら害獣じゃろうがな。お主の貸してくれた本にあったが、ゴブリンの種族的特性として、『男しか産まれないため、他種族の女を使ってその種を保存しようとする』んじゃろ?ならば、仕方のない話ではないか」
「確かに……」
『泥団子』神は、ドラゴンに立ち向かうゴブリンに目を向けた。
「見よ、あの様を。ゴブリンの方が断然好感が持てるわい」
『クリスマスプレゼントの靴下』神は、「ううーん……」と唸った。
そのうち、ドラゴンが少女とゴブリンを口の中に放り込もうと、その腕を動かした。
「あ、まずいよ!食べられちゃう!」
「『クリスマスプレゼントの靴下』神、わしがあの腕を切り落とすから、お主はその下では少女らを受け止めよ!」
「了解!」
『泥団子』神は、泥ブレードを飛ばしてドラゴンの腕を切り落とした。
『クリスマスプレゼントの靴下』神は、ほとんどの神が持っている能力、『神は遍在する』を発動させ、一瞬でドラゴンの真下に移動すると、少女とゴブリンをキャッチした。
ドラゴンは腕を切り落とされた痛みから、激しく咆哮し、辺りの空気を震わせた。
そして、血が滴れるのも構わず、逃がした獲物にギロリと目を向けるや、今度は逃すまいと、鋭い歯の揃った大きな口を開け、『クリスマスプレゼントの靴下』神達に即座に食らいつこうとした。
「キ、キャアアアア!!」
「ギ、ギギイイイイ!!」
「クリソックスーーーッ!!」
少女とゴブリンと『泥団子』神が叫んだ。
「『靴下召喚』!」
後少しで『クリスマスプレゼントの靴下』神に、その巨大な牙が届こうかというその時、ドラゴンは動きを止めた。
そのうち、苦しみ始める。
少女とゴブリンは、訝しげにドラゴンを見上げた。
ドラゴンの黒くて硬い体表が、ボコボコと奇妙に波打ち始める。
とうとうドラゴンは、腹を上に、どうと倒れた。
その腹はどんどん膨れ、最後は弾け飛んだ。
「「「「「!!!」」」」」
その場にいた者は皆、息を呑んだ。
おや?弾け飛んだドラゴンの腹の中から大量の靴下が……
「な、何これ……」
「ギ、ギギ……」
少女とゴブリンは、理解不能な現象に肩を寄せあって震えている。
ドラゴンの下にいたゴブリン達は、一部はドラゴンの下敷きに、後はほとんどが、溢れ出た靴下に埋もれていた。
だが、流石に野生。靴下の山から這い出し、ドラゴンが死んだとわかるや、踊り上がって喜び始めた。
『クリスマスプレゼントの靴下』神は、助けたゴブリンの背を押した。
「ほら、仲間の元に帰るがよい……」
「ギギ、ギギ」
ゴブリンは礼のそぶりを見せ、少しだけ少女を見やると仲間の元に走っていった。
少女は、ゴブリンに小さく手を振っている。
これが、吊り橋効果という奴か。
わからないが、ともに死地を乗り越えた事で、少女にゴブリンに対する仲間意識が芽生えたようだ。
ただし、ゴブリンに気を許しすぎると、苗床職への強制就職が決定するので、気をつけて欲しい所である。
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「なかなか乙な名付けセンスよの、お主」
急に口げんかを始めた怪しきおじ様達に、少女は戸惑いながらも、悪い人達ではない、と感じていた。
そのまわりでは、ドラゴンを軽く葬るほどの強者であるが、突如現れた怪しいおっさん達に話しかけようと近づいた商人の一行が、同じく仲間を助けてもらい礼を言おうと近づいたゴブリン一行とかち合い、互いに武器を構えて睨み合っている。
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