マイナー神は異世界で信仰されたい!

もののふ

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昇格試験スプラッター

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「おはようございます、人の子よ。今日はよろしくお願いしますね」
「よろしく頼む」
「なんか偉そうな新人だな……。俺はギルドに頼まれて今回試験官を務める事になったB級冒険者ジョブズだ。爺だからって、容赦しないからな!」

「B級だって。大丈夫かな?」
「大丈夫じゃろ?B級グルメとて、安くてうまいものはたくさんあるぞ?」
「おいい!!B級馬鹿にしてんじゃねえぞ!?たいていの冒険者はC級をうろうろしてんだ。B級は、強ベテランの証だからな!!」


試験日当日の朝、クリソックスとドロンズは、シャリアータから外に出た所で、試験官のジョブズと落ち合った。
今から角ウサギなる魔物を狩りに行く所なのである。


「ところで、お前らは冒険者なめてんのか?」
ジョブズの思いもよらぬ言葉に、二柱は首を傾げた。
「「?」」
「キョトンとしてんじゃねえ!!服装だ!なんだ、そのペラペラの服は!武器の一つも持ってねえ。どうやって獲物を狩る気なんだ?!」
早速、試験官にダメ出しされた二柱である。
だが、神は穏やかな表情で答えた。
「ははは、人の子よ。安心しなさい。我らには防具も武器もいらないのだ」
「だから、なんで無駄に偉そうなんだ!ぺーぺーの冒険者が冒険なめてんじゃねえぞ!死ぬぞ!」
ジョブズがマジ説教を始めるが、二柱は「大丈夫」「問題ない」「死なない」の三点張りだ。
(こいつらみたいなアホは、一度痛い目に合わないとわからんな)
結果、ジョブズは説得を諦めて、二柱に神の罰が当たるよう祈った。


とはいえ、仕事は仕事である。
荒そうに見えて案外真面目なジョブズは、獲物の情報を説明しながら、生息場所へと向かった。

「角ウサギは、あそこに見える森の中に多く生息する害獣だ。繁殖力が強く、定期的に間引きをしてやらんと薬草なんかを食いつくしてしまうからな。弱っちいし、肉は食べられるから、新人冒険者には『薬草採取』や『毒消し草採取』と並んで人気の常時依頼なんだ」

森に向かいながらジョブズの説明を聞く。
二柱は「ほう」と頷きながら、ふとドラゴンを思い出した。
そこでクリソックスが、
「じゃあ、ドラゴンは?ドラゴン退治の依頼だと、何級の冒険者が行くのかい?」
と聞くと、ジョブズは呆れた眼でクリソックスを見やった。
「ドラゴンなんて、A級が何人もパーティー組んでやっとの依頼だぞ?S級なら一人か二人で退治できるかもしれないが、S級なんて伝説級、めったにお目にかかれるもんじゃねえ」
ジョブズは鼻で笑った。
「ドラゴンなんざ、急に町を襲いでもしない限り、俺等には関係ない依頼さ。お前等はくだらん事を考えてないで、角ウサギに集中しろ!スキルも実戦向きじゃねえし、魔法が使えねえんだろ?」
「ドラゴンなら倒した事あるぞ?」
「はいはい、面白い面白い」

取り合わぬジョブズに、二柱は顔を見合わせた。
「この人の子の言う通り、角ウサギに集中しよう。案外ドラゴンより手こずるかもしれないよ」
「ふむ。的が小さいし、すばしっこそうだからのう」


そうこうしているうちに、辺りに背の高い木々が増えてきた。
進むうちに、日の影がうっすらと陰り始める。
気がつけば、森の中であった。

「お、あそこにいたぞ」
ジョブズの声でクリソックスとドロンズは、ジョブズの視線の先を見た。
はたして、額に長い角をつけたウサギが一匹、草を食んでいた。
「でかいのう」
ドロンズが思わず声を漏らした。
体長は六十~七十センチほどだろうか。
「的、小さくないね、ドロンズ」
「この分じゃ、動きも鈍そうだの」

そんな二柱に、ジョブズは薄く笑った。
「はっ、なら、さっさと仕留めな。武器も防具もいらねえんだろ?」

「よし。じゃあ、わしからじゃ」
ドロンズが角ウサギに近づいていった。
角ウサギが、ピクッと体を短く震わせた。
そして次の瞬間、もの凄い速さで突進してきたのだ。
それは、さながら猪である。

(初心者キラー。角ウサギは行動パターンが単純だから初心者に人気の獲物だが、それを知らない初心者は、なめてかかって、毎年あの突進で角に貫かれて大ケガする奴がいるんだ)
「だから、俺のような回復魔法持ち冒険者が試験官に駆り出されるわけだが」
ジョブズは、独りごちた。


ドロンズの目の前に角が迫る。
「ああ!ドロンズうう!!」
クリソックスが叫ぶ。
ドロンズの体が貫かれた。
「ドロンズうううう!!」


「何、気分を出しておるんじゃ。ほれ、捕まえたぞ」
ドロンズが腹を貫かれたまま、ジタバタする角ウサギを抱えてやってきた。

「キャアアアア!!!」
ジョブズが悲鳴を上げた。
「お主、女子みたいな悲鳴を上げるんじゃな」
ドロンズがジョブズに近づく。
ジョブズは同じ速度で後退りしながら言った。
「おま、おま、どうなって?!なんで?」
驚きのあまり、うまく言葉になっていない。
ドロンズは平気な顔で、
「だから言ったであろう。防具は必要ないと」
と突っ立っている。

「ドロンズ、狩りなんだから仕留めないとー」
クリソックスがのん気にアドバイスをする。
「なるほど」
ドロンズはそう言って泥カッターを生み出すと、スパンッと角ウサギの首をはねた。

角ウサギを抱えていた、自分の腕ごと。

「あ、しもうた」
「イヤアアアアア!!!」
「(大爆笑)」

角ウサギの血しぶきを浴びながら、カットされた腕を操り頭をかくドロンズに、悲鳴を上げて腰を抜かす試験官ジョブズ、ツボに入ったのか大爆笑するクリソックス。
カオスである。


その後、混乱してブツブツ呟くジョブズの前で、クリソックスが角ウサギの内部に靴下を無限召喚させた結果、角ウサギは以前のドラゴンのような結末を迎え、理解不能な現実にジョブズの意識は遠のいた。

「何故か何もしていない試験官が倒れたけど、依頼は果たせたね、ドロンズ!」
「うむ。互いに角ウサギを仕留めたの!何故か試験官が寝てしもうたが」

この試験、無事?に結果を出せて大いに満足した二柱は、ジョブズを抱えて意気揚々と帰途についたのであった。
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