マイナー神は異世界で信仰されたい!

もののふ

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お主も悪よのう

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落ちてくる人間を腕力で受け止める肉体派駄女神はさておき、抹殺された勇者、クリソックスとドロンズは、ハビット公爵邸の大会議室で、実演販売を行っていた。


「さあ、今から皆さんに紹介したいのは、これっ!靴下だっ!え?靴下なら何足も持ってるからいらない?……ちょっと待って。まだ慌てて決断するような時間じゃないよっ。この靴下、何の変哲もない靴下に見えるでしょう?だが、この靴下が、この町と皆さんに多大な利益を生むとしたら、……どうします?」

意気揚々と宣伝するクリソックスに、話を聞いていた一人が尋ねた。
「その靴下に、それほどの価値があるとでもいうのかね?」
クリソックスは鼻息荒く、答えた。
「もちろんだよっ。これはただの靴下じゃない。クリスマスプレゼント用の靴下なのだから!」


この会議室に集まっているのは、シャリアータの町の有力者達だ。
領主のハビット公爵夫妻を始め、領内の経営に関与する公爵家の事務官、大きな商会の会頭達、商人ギルドのギルドマスター、アインクーガを最高神にいただく創世教会のシャリアータ支部代表教主、シャリアータの住人を束ねて領主とのパイプ役となる住人の代表者。
商会の会頭の中には、以前ドラゴンから助けたシモンズの姿があり、冒険者ギルドのギルドマスターであるナックもいる。

彼らが一堂に会しているのは、クリソックス達を新たな神として町に迎えるためにルイドート・ハビット公爵が召集をかけたからである。
ルイドートには考えがあった。
クリソックス達を神として町に馴染ませるだけでなく、己れの領地も富ませ、ついでにオーガニックをなんとかしてしまう策が。

そして、大会議室でクリソックスが実演販売という羽目になったのである。


話は、実演販売の場面に戻る。

「クリスマスプレゼント?」
質問をしたアンアン商会の会頭インイン氏が訝しげに白髪の混じった眉をひそめた。
そこへ、桃色髪のスレンダー秘書マリエールが資料を配る。
「こちらをご覧下さい」

マリエールの配った資料に目を落としたインイン達は、戸惑いの声を漏らした。

「「「『クリスマスの日』計画?」」」

「そうだ」と声を発したルイドートを皆が見た。
「まず皆に言っておくことがある。今、アインクーガ神殿の隣に建設中の神殿は、この方達のために建てている。この方達は、異界の神なのだ」

「「「な、なんだってーー!!」」」

「人類は滅亡する!(キリッ)」
「「「な、なんだってーー!!」」」


ドロンズは、おもむろに泥カッターを飛ばし、ふざけた事をぬかしたクリソックスの首をスパンと飛ばした。
「「「「「うわああああ!!!」」」」」
インイン達はおろか、ナックやルイドートまで悲鳴をあげている。

「もー!ドロンズって、ツッコミが強めだよねえ」
そう言いながら、クリソックス(頭部)がふわりとかき消えたかと思うと、体に戻っている。
「馬鹿者!!冗談が過ぎるわ!この世界は、リアルに邪神だの魔王だのが存在する世界なのだぞ!」
「あー、確かに。子らよ、ごめんね。滅亡は嘘だよ。ちょっと言ってみたかっただけです」
「そうじゃ。安心せよ、人の子ら。恐れずともよいぞ」

だが、それは無理というものだ。
二柱に微笑みかけられた人々のほとんどは、腰を抜かしている。
中にはちびっている者も……。
アンアン商会のインインだった。

「あああ、あの、神様方……。今、首が飛んで……。大丈夫なので?」
シモンズが声を絞り出して聞いた。
クリソックスは、不思議そうに首を傾げている。
その首に、カットされたような跡は何一つ残っていない。
「首?ああ、神の体に物理攻撃は無意味だからねえ」
「ということは、死なないので?」
「わしらの体を形作っておる信仰が無くならぬ限りは死なぬぞ。ほれ」
ドロンズは生み出した泥を手にまとわせて先を鋭く尖らせると、恐ろしく速い手泥でクリソックスの心臓を突き刺した。

「ちょっと、なんで私ばっかり……」
「な?」

ドロンズに胸を貫通されたまま、ぶつぶつとぼやくクリソックスの姿を見て、シモンズはひれ伏した。
「ほ、本物とは露知らず、先日は失礼を!!」
見ると何人か、バタバタとひれ伏して拝む者が増えた。
「あ、なんか、肌にハリと弾力が!」
「わしも、どことなくほうれい線が無くなったような……」
二柱に信仰が集まったようだ。


ルイドートは、気丈にも立ち上がり、へたり込む有力者達に説明を開始した。
「見ての通りだ。私はこの二柱の神をこの町で祀ろうと思う。そして、その御力で、この町の発展に寄与していただく!」
「ま、祀るだと?異界の神を!?」
アインクーガ神殿の創世教教主ロミーノが難色を示す。
「神の御力はわかりましたが、どうやって?」
商人ギルドのギルマス、エチゴヤーは、興味深げに質問した。

ルイドートは答えた。
「そこで、異界の風習『クリスマスプレゼント』だ。異界では、クリスマスという日があり、に入れたプレゼントを贈り合うそうな」

微妙に違っている。
そもそも、靴下はそこまで活躍はしていない
クリソックスは、異世界をいいことに話を盛ったようだ。

そんなことは露知らず、ルイドートはニヤリと笑んだ。
「クリスマスプレゼントの時期は、大いに物が売れ、市場が活性化するという。そしてそのクリスマスプレゼントの靴下を司る神が、このクリソックス様なのだ!」
エチゴヤーは悪い顔になった。
「なるほど、クリソックス様を神として祀るのに、『クリスマスの日』を制定。シャリアータの新たな風習としてクリスマスプレゼントを推奨し、この領の経済を活性化させるのですね?」
「つまり、我々商人にも、新たな商いのチャンスが増える、というわけですな?」
「これは、やる価値はありそうだのう」
「まことに」
「流石はハビット公爵様。神を使って金儲けとは。我々商人顔負けで御座いますよ」
「「「「「ハッハッハッハッ」」」」」
商人と権力者が結託し、『お主も悪よのう』状態だ。
こうなると、商人勢のモチベーションが鰻登りである。

だが、ロミーノは反対した。
「異界の神などという、わけのわからぬ神を認めるわけにはまいりませんぞ!しかも、うちの神殿よりも大きな神殿など、アインクーガ様に対してあまりにも不敬!わしは認めん!どうせ、神なぞと偽った騙り者に違いないわっ」
「しかし、シャリアータに有用な神だぞ?特にこちらのドロンズ様は泥団子を司る神なのだが、その作品は天上の美を凝縮したかのような……」
「泥団子!?そのようなわけのわからぬ神を……。何の役に立つとも思えぬ」
さらに頑なになるロミーノに、ドロンズは言った。

「お主ら人の生活に役に立つものも作れるぞ?」


じゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃら……。

ドロンズの手から生み出され、眼前にうず高く積まれていく星金貨の山に、ルイドートとナック、マリエール以外の者達は絶句している。

「の?こういうものは、お主とて必要とするものであろう?いるならやるぞ?あ、ルイドートがうるさいから、あれが良いと言ったらのう」


ロミーノは、最高の笑顔でルイドートに言った。
「ハビット公爵様、私が間違っておりました。ドロンズ様達は、シャリアータの宝。どうかいつまでもご滞在していただきたい!」

ルイドートはため息を吐き、星貨を一枚ロミーノに寄進した。
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