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良縁?
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アインクーガ教国教王ペロロビッチ三世がシャリアータに到着する数日前、ハビット公国に美中年と美少女が、やはり泥ゴンによって、空から降り立った。
豊かな黒髪を短くさっぱりと整えたイケオジは、隣国ロングラード王国国王アベカーンである。
その風貌は、彫りの深い顔立ちに洗練された髭を蓄え、穏やかな紫の瞳が麗しい。鍛えられた肉体も魅力的だ。
数々のご婦人を虜にしてきたナイスガイである。
その隣には、母親譲りの豊かな金の巻き毛をふわりと垂らした可憐な美少女が、淑やかに添うている。
しかし父と同じ紫の瞳だけは、興味深そうに辺りを見回している。この少女は、アベカーンの娘にしてロングラード王国第五王女のリリアであった。
そして彼らを出迎えたのは、ハビット公国公王を名乗るルイドート・ハビットと、その息子であるミシャだった。
そして、お馴染みの二柱。ドロンズとクリソックスだ。
ルイドートとアベカーンは互いに歩み寄り、しっかりと手を握り合った。
「ようこそ、公都シャリアータへ。歓迎する」
「歓迎、痛み入る。これが、約定の我が娘だ。よろしく頼む」
「もちろんだ。決して粗略には扱わぬ。……ミシャ、挨拶を」
リリアを見て頬を染めていたミシャが、ハッとして進み出た。
「公太子となるミシャと申します。ロングラード王、そしてリリア王女、あなた方を心より歓迎致します」
アベカーンは、目を細めて頷いた。
「しっかりとした、良い若者だ。リリアを頼むぞ」
「お任せを」
「リリア、お前も挨拶を」
父親に促され、リリアは美しくカーテシーをして見せる。
「リリアと申します。お会いできるのを楽しみにしておりました。幾久しく、よろしくお願い致します、婚約者様」
きらめく瞳に射ぬかれ、ミシャは恋に落ちたのである。
さて、ハビット公国とロングラード王国は、ケラーニ辺境伯領を挟んで領土が接している。
そのため、トールノア王国で内紛が勃発し、ケラーニ辺境伯領を含むハビット公国が興ったことを聞きつけたロングラード王国は、領土拡大のチャンスとばかりに、すぐさまハビット公国について情報収集を始めた。
王国の息のかかった商人や冒険者達を、公国に潜入させたのである。
しかし、情報が集まるにつれ、侵攻は難しいとわかってきた。
まず、公国がルイドート・ハビットの元に案外しっかりとした一枚岩となっていること、そして謎の神の力で、辺境伯領の軍備が増強されつつあったからである。
それも、その神が軍備増強として辺境を強化したのは、魔物によるものだ。
公国は、その神を勇者であると大々的に宣伝しているようだが、どう見ても、魔王か邪神の諸行だ。
とはいえ、そんなものが逆にこちらに侵攻してくれば、驚異である。
そんな時、公国から外交の特使がやって来た。
互いに脅かすことなく、仲良くしようというのだ。
アベカーンは考え、公国と手を携えることを決めた。トールノア王国は歴史ある国だが、王は愚物の類であった。しかし、ルイドートは、トールノア王国の公爵であった頃から、その領地経営の才気を知られていた。
アベカーンは、ルイドートに賭けたのだ。
そのため、娘の一人をハビット公国に嫁に出すことに決めた。
彼には四人の娘がいたが、志願したのはリリアだけであった。
他の娘は、魔物と、ハビット一族のとある噂を厭うたのである。
リリアは変わった娘であった。
その容姿は、美姫と名高い母親の美しさを受け継ぎ、性格は明るく淑女教育も滞りなくこなしていたため、リリアに熱を上げる貴公子は数多く、国内での求婚者は後を絶たなかったが、リリアはどんな麗しい貴公子もの求婚もはね除けた。
何故なら、彼女には秘密の嗜好があったからである。
その発端は七年前、リリアが七歳の時のことだ。
別荘地に向かうリリアの乗った馬車が、当時名を馳せていた大盗賊団に襲われたのだ。
それなりの数の護衛がついていたが、向こうに攻撃魔法の実力者が揃っており、一瞬の隙をついて魔法攻撃が馬車に当たり、リリアは外に投げ出された。
迫る賊の姿に死を覚悟した時、S級クラスの冒険者がたまたま通りかかり、リリアを間一髪で助けたのだ。
恩人を見上げるリリアに、優しく、そして力強く手を差しのべたその人は、輝いて見えた。
否、実際に輝いていた。陽光に照らされて。
━━━頭が。
S級冒険者のおじさんは、誰がどう見ても薄毛だったのである。
それ以降、リリアは薄毛でないとときめかない難儀な嗜好に目覚めてしまったのであった。
さて、そんなリリアがずっと気になっている一族があった。
その一族の男は、代々ある一定の年齢に達すると、漏れなくハゲるという呪われし血族らしい。
リリアは王女であるため、理想の薄毛に嫁ぐなど夢のまた夢であった。
特にロングラード王国人は、遺伝的に髪が薄くなりにくい。
ロングラードの貴族に降嫁となる可能性の高いリリアは、好みの男性との結婚を諦めていた。
それでも、夢の中だけは、と、その呪われた一族の男が、陽光に頭皮を反射させながら自分を迎えに来る妄想を楽しんだ。
舞踏会で貴公子と踊る時は、相手の頭に脳内フィルターで薄毛ヅラを被せた。
しかしリリアも、そろそろ婚約者を決めねばならぬ時期。
婚約者候補の名前を入れた丸い的を作り、ダーツで決めようかと思っていた時のこと、今回の婚約話が舞い込んできたのだ。
リリアは歓喜した。
あの呪われし一族に、嫁げる。
あの呪われし一族の一員として、これから一生、思う存分薄毛を堪能できるのだ。
「ああ、『いつかはハゲット』……。この言葉が叶う日が来るなんて!」
リリアは興奮のあまり、飛び込み前転で父王アベカーンの前に飛び出すと、両手を高く挙げてやる気を最大限にアピールしながら、父王にボックスステップで突進した。
「嫁ぐのは、この私!この私に!!ちちうええええ!!!」
「わ、わかった!落ち着け、リリア!誰か、リリアに鎮静剤を!!」
リリアの意識は、刈り取られた。
そうして迎えた悲願のハゲットXデー。
リリアは夢にまで見たハゲット一族を目の前に、こみ上げる喜びを抑えきれないでいた。
(ああ、ハゲットのお義父様のあの不思議な帽子(クリスマスソックス)の中に、ハゲットが……!そして、私の婚約者、ミシャ様はまだこれからでは御座いますけど、あの頭には無限の可能性)が!いつかは確実に、ハゲット!)
リリアはまわりのハゲット公国の人間も見渡した。
一瞬のうちに、薄毛センサーが反応する。
(あの従者もハゲット、あそこの騎士もハゲット、あら、お義父様のすぐ傍にいるおじさまも、ナイスハゲット!)
そのおじさまは、ドロンズである。
一通りの挨拶が終わり、ドロンズとクリソックスの紹介もなされた。
リリアのテンションはアゲアゲだった。
(ああ、まさか、神様までハゲットだなんて……。ハゲット公国、尊い……)
父王は、神様達と何やら話をしている。
そこへルイドートが気を利かせて、ミシャに言った。
「お前は、少しリリア王女とその辺りを散策しておいで。色々と不安もあるだろうから、しっかり話して安心してもらうとよい。我が一族の頭のことも含めてな」
「なるほど、あの話をしてもよいのですね?確かに女性は我が一族の頭について、不安でしょう。きちんと安心してもらえるようにします」
(何の話かしら?)
リリアは怪訝に思ったが、ミシャ(将来のハゲット)が父王に了解をとり、「では、参りましょうか」と自分をエスコートしてくれる嬉しさに、頬を染めて頷いた。
ミシャも少し顔を赤くしながら、リリアに話しかけた。
「あなたには、我が国の現状や神、またこの国で使役されている魔物のことなど、色々不安なことがおありでしょうね。……それに、ハビット一族の頭部にまつわる良からぬ噂のことも。何からお話したらよいでしょうか」
「ぜひ、頭部のお話でお願い致しますわ」
「……やはり、女性はそこが気になりますよね」
ミシャはため息を吐いた。
『いつかはハゲットの呪い』の話は、有名なのだ。ミシャは見目麗しく高位の貴族でもある。
学校ではもっともてても良さそうだったが、この有名な呪いのために、なんとなく女子から生暖かい目で見られていたことを思い出した。
だが、あの頃とは違う。
オーガニックの唾液の研究が進み、近く発毛剤の試作品が出来そうだという話もあるのだ。
もう、呪いは過去のものになる。
「リリア王女、ご安心ください」
「え?」
「確かにこれまで我が一族の男子はことごとく、呪いの如く、三十を越えると薄毛が一気に進行していました。しかし、特効薬が近々開発される予定なのです」
「な、なんですって!?」
「ええ。『いつかはハゲット』は、もう過去のものとなりましょう。私の毛根は、永遠に不滅です。……あなたへの私の愛のように」
なんか、うまいこと言った!
だが、リリアは青い顔でプルプルと震え出した。
「リ、リリア王女?」
パアンッ!
突然頬を打たれ、ミシャは呆然と立ちすくむ。
その様子を遠くから見ていたルイドートやアベカーン達も、まさかの展開に驚愕している。
「最低……!」
涙目でミシャを睨んだリリアは、ミシャに背を向けると駆け出していったのだった。
豊かな黒髪を短くさっぱりと整えたイケオジは、隣国ロングラード王国国王アベカーンである。
その風貌は、彫りの深い顔立ちに洗練された髭を蓄え、穏やかな紫の瞳が麗しい。鍛えられた肉体も魅力的だ。
数々のご婦人を虜にしてきたナイスガイである。
その隣には、母親譲りの豊かな金の巻き毛をふわりと垂らした可憐な美少女が、淑やかに添うている。
しかし父と同じ紫の瞳だけは、興味深そうに辺りを見回している。この少女は、アベカーンの娘にしてロングラード王国第五王女のリリアであった。
そして彼らを出迎えたのは、ハビット公国公王を名乗るルイドート・ハビットと、その息子であるミシャだった。
そして、お馴染みの二柱。ドロンズとクリソックスだ。
ルイドートとアベカーンは互いに歩み寄り、しっかりと手を握り合った。
「ようこそ、公都シャリアータへ。歓迎する」
「歓迎、痛み入る。これが、約定の我が娘だ。よろしく頼む」
「もちろんだ。決して粗略には扱わぬ。……ミシャ、挨拶を」
リリアを見て頬を染めていたミシャが、ハッとして進み出た。
「公太子となるミシャと申します。ロングラード王、そしてリリア王女、あなた方を心より歓迎致します」
アベカーンは、目を細めて頷いた。
「しっかりとした、良い若者だ。リリアを頼むぞ」
「お任せを」
「リリア、お前も挨拶を」
父親に促され、リリアは美しくカーテシーをして見せる。
「リリアと申します。お会いできるのを楽しみにしておりました。幾久しく、よろしくお願い致します、婚約者様」
きらめく瞳に射ぬかれ、ミシャは恋に落ちたのである。
さて、ハビット公国とロングラード王国は、ケラーニ辺境伯領を挟んで領土が接している。
そのため、トールノア王国で内紛が勃発し、ケラーニ辺境伯領を含むハビット公国が興ったことを聞きつけたロングラード王国は、領土拡大のチャンスとばかりに、すぐさまハビット公国について情報収集を始めた。
王国の息のかかった商人や冒険者達を、公国に潜入させたのである。
しかし、情報が集まるにつれ、侵攻は難しいとわかってきた。
まず、公国がルイドート・ハビットの元に案外しっかりとした一枚岩となっていること、そして謎の神の力で、辺境伯領の軍備が増強されつつあったからである。
それも、その神が軍備増強として辺境を強化したのは、魔物によるものだ。
公国は、その神を勇者であると大々的に宣伝しているようだが、どう見ても、魔王か邪神の諸行だ。
とはいえ、そんなものが逆にこちらに侵攻してくれば、驚異である。
そんな時、公国から外交の特使がやって来た。
互いに脅かすことなく、仲良くしようというのだ。
アベカーンは考え、公国と手を携えることを決めた。トールノア王国は歴史ある国だが、王は愚物の類であった。しかし、ルイドートは、トールノア王国の公爵であった頃から、その領地経営の才気を知られていた。
アベカーンは、ルイドートに賭けたのだ。
そのため、娘の一人をハビット公国に嫁に出すことに決めた。
彼には四人の娘がいたが、志願したのはリリアだけであった。
他の娘は、魔物と、ハビット一族のとある噂を厭うたのである。
リリアは変わった娘であった。
その容姿は、美姫と名高い母親の美しさを受け継ぎ、性格は明るく淑女教育も滞りなくこなしていたため、リリアに熱を上げる貴公子は数多く、国内での求婚者は後を絶たなかったが、リリアはどんな麗しい貴公子もの求婚もはね除けた。
何故なら、彼女には秘密の嗜好があったからである。
その発端は七年前、リリアが七歳の時のことだ。
別荘地に向かうリリアの乗った馬車が、当時名を馳せていた大盗賊団に襲われたのだ。
それなりの数の護衛がついていたが、向こうに攻撃魔法の実力者が揃っており、一瞬の隙をついて魔法攻撃が馬車に当たり、リリアは外に投げ出された。
迫る賊の姿に死を覚悟した時、S級クラスの冒険者がたまたま通りかかり、リリアを間一髪で助けたのだ。
恩人を見上げるリリアに、優しく、そして力強く手を差しのべたその人は、輝いて見えた。
否、実際に輝いていた。陽光に照らされて。
━━━頭が。
S級冒険者のおじさんは、誰がどう見ても薄毛だったのである。
それ以降、リリアは薄毛でないとときめかない難儀な嗜好に目覚めてしまったのであった。
さて、そんなリリアがずっと気になっている一族があった。
その一族の男は、代々ある一定の年齢に達すると、漏れなくハゲるという呪われし血族らしい。
リリアは王女であるため、理想の薄毛に嫁ぐなど夢のまた夢であった。
特にロングラード王国人は、遺伝的に髪が薄くなりにくい。
ロングラードの貴族に降嫁となる可能性の高いリリアは、好みの男性との結婚を諦めていた。
それでも、夢の中だけは、と、その呪われた一族の男が、陽光に頭皮を反射させながら自分を迎えに来る妄想を楽しんだ。
舞踏会で貴公子と踊る時は、相手の頭に脳内フィルターで薄毛ヅラを被せた。
しかしリリアも、そろそろ婚約者を決めねばならぬ時期。
婚約者候補の名前を入れた丸い的を作り、ダーツで決めようかと思っていた時のこと、今回の婚約話が舞い込んできたのだ。
リリアは歓喜した。
あの呪われし一族に、嫁げる。
あの呪われし一族の一員として、これから一生、思う存分薄毛を堪能できるのだ。
「ああ、『いつかはハゲット』……。この言葉が叶う日が来るなんて!」
リリアは興奮のあまり、飛び込み前転で父王アベカーンの前に飛び出すと、両手を高く挙げてやる気を最大限にアピールしながら、父王にボックスステップで突進した。
「嫁ぐのは、この私!この私に!!ちちうええええ!!!」
「わ、わかった!落ち着け、リリア!誰か、リリアに鎮静剤を!!」
リリアの意識は、刈り取られた。
そうして迎えた悲願のハゲットXデー。
リリアは夢にまで見たハゲット一族を目の前に、こみ上げる喜びを抑えきれないでいた。
(ああ、ハゲットのお義父様のあの不思議な帽子(クリスマスソックス)の中に、ハゲットが……!そして、私の婚約者、ミシャ様はまだこれからでは御座いますけど、あの頭には無限の可能性)が!いつかは確実に、ハゲット!)
リリアはまわりのハゲット公国の人間も見渡した。
一瞬のうちに、薄毛センサーが反応する。
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そのおじさまは、ドロンズである。
一通りの挨拶が終わり、ドロンズとクリソックスの紹介もなされた。
リリアのテンションはアゲアゲだった。
(ああ、まさか、神様までハゲットだなんて……。ハゲット公国、尊い……)
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ミシャも少し顔を赤くしながら、リリアに話しかけた。
「あなたには、我が国の現状や神、またこの国で使役されている魔物のことなど、色々不安なことがおありでしょうね。……それに、ハビット一族の頭部にまつわる良からぬ噂のことも。何からお話したらよいでしょうか」
「ぜひ、頭部のお話でお願い致しますわ」
「……やはり、女性はそこが気になりますよね」
ミシャはため息を吐いた。
『いつかはハゲットの呪い』の話は、有名なのだ。ミシャは見目麗しく高位の貴族でもある。
学校ではもっともてても良さそうだったが、この有名な呪いのために、なんとなく女子から生暖かい目で見られていたことを思い出した。
だが、あの頃とは違う。
オーガニックの唾液の研究が進み、近く発毛剤の試作品が出来そうだという話もあるのだ。
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「え?」
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「な、なんですって!?」
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なんか、うまいこと言った!
だが、リリアは青い顔でプルプルと震え出した。
「リ、リリア王女?」
パアンッ!
突然頬を打たれ、ミシャは呆然と立ちすくむ。
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