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第四章

第九話 メンタル

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 手首を切断するという重傷のまま帰って来た所で、元レーサーが

方々に走り回り協力的な医者を連れ、倉庫のオヤジ達も手伝い手術

を施した。これがもし以前の様に独りで闘っていたら出血多量で

お陀仏だったに違いない。こういう時こそやはり仲間が居た方が

一人よりも確実に有利である。


 しかし銃を撃てる大事な右手を失ったのは事実だ。元レーサー

やオヤジ達住民は自分達も戦闘に参加出来るよう、車輪を銃火器

のコーチになってもらう事を提案したが、それも勿論引き受ける

が、自分が先陣切って闘うのは今迄通り変わらないという。しかし

言っては悪いが利き手も無いのにどう闘うというのか。


 車輪はそもそも腕の一本や二本くれてやる気でいたので、左手

が残っているならば左手を右手並に訓練するまでの事、何の問題

も無い、右手で出来ていた事は必ず左手でも出来るという考えだ。

諦めたり投げやりになった所で何もプラスにはならない。これは

足だろうが別の部位だろうが命ある以上は全く同じ事だ。


 但し撃たれた箇所を含め先ずは静養、その後にリハビリ、左手

の訓練と続くので暫く時間がかかるのは確かだ。元レーサーや

オヤジ達は車輪の強さは銃の上手さや戦闘技術と言うより、全く

底が知れない異様な精神力と、絶対絶命の状況でも悲観せずに

チャンスに変えようとするポジティブさだと気が付いた。
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