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第八章

第五話 鬼谷峠

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 赤熊は果たし状を渡したら早々に帰っていった。果たし状には

「車輪殿 明日正午に鬼谷峠入口にて決闘を申し込む 方法は銃と

バイクで先に峠出口に辿り着いた者を勝ちとする」と書いてあった。

鬼谷峠は全区間で20キロ程だが、バイパスが通った事で現在封鎖

されており、入口と出口は簡単なフェンスで仕切られている。


 どうやらバイクでレースしながら銃も撃ち合い、殺し合いながら

峠出口を目指す様だ。無論途中で負傷すれば勝つのは難しく、即死

すれば即終了だろう。だが向こうが一騎打ちの勝負を申し込む以上、

車輪も当然軍人らしく受けて立つ。倉庫のオヤジや元レーサー達

には悪いが助太刀は無用だ。


 車輪のバイクは、以前近所の住民から是非使ってくれと貰い受けた

2040年式KLX250WRという、丁度車輪が自衛隊で使っていた

のと同型の車種だ。赤熊のハーレーに比べればエンジンの大きさは

5分の1程度だが、鬼谷峠は険しい難所でアスファルトは所々割れ、

おまけに不法投棄の温床でもあるのでフットワークの軽さも重要だ。


 「だけど、赤熊に仲間が居たらどうすんだよ?」、、元レーサー

は不安な様だが、「居たら居たで全滅してもらうだけさ」、、車輪

はもしそうだとしても良い覚悟だ。「まあ所詮は米穀の組員だから

な。だがどうもサシの勝負に命掛けてる感じがしたな」、、実際に

赤熊から果たし状を渡されたオヤジは若干信用している様だ。


 日は開け、車輪はバイクを点検し鬼谷峠へ出向いた。ハーレーに

跨った毛むくじゃらの大男と、簡単に侵入できる峠入口のフェンス。

「オメーが車輪か。俺の我儘に付き合って貰って悪ィな」、、「いや

構わんさ。とっとと始めよう」、、2台のバイクはフェンス脇の

隙間を通り、すぐの所で停車して並んだ。
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