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この恋は、自己肯定感、爆上げ
しおりを挟む高校に入って初めての春休み。平日の昼間、潮騒はドアを開け放ち、気まぐれに営業を始めた。
「優成が『U-20』を企画してから、ずいぶん若い子が増えたから。昼にしか聴きに来られない子もいるだろうし、試験的に昼営業してみようかってね」
優成の叔父はそう語り、「後は若い人たちで」と、カウンターへ戻って行った。
「なんか、叔父さん張り切っててさ。新しい人も雇ったみたい。バリスタの資格を持ってるんだって」
優成の言葉に、茜と紫苑と新はカウンターにいる若い男を見やった。優成の叔父とバリスタの彼は、やけに近い距離感でカフェメニューの開発に取り組んでいる。
「あの人さ、マスターの恋人なんじゃね?」
「茜。そういうことはね、感じてても言わないの」
「え? なんで? マスターとバリスタ君、お似合いじゃん」
はてなを飛ばす茜に、紫苑は眉間を抑えた。「ちょっと小林。茜の躾はどうなってるの? 最近ますますのびのびしてるっていうか……。甘やかしてばかりじゃないでしょうね?」紫苑から矛先を向けられ、新は笑みを浮かべて返答に代えた。
「いいんじゃないの? 茜の隣には紫苑がいるから、新が甘やかしてるくらいがちょうどいいよ」
フォローを入れた優成に、紫苑はキュッと眉を反らした。
「なにそれ。ボクが茜をいじめてるみたいじゃない」
「いや、そうは言ってないだろ。なんていうか、ほら、茜と新は恋人同士だし」
しどろもどろになっている優成に、紫苑は「じゃあボクと茜はどういう関係だっていうの」と畳みかけた。優成は案外素直に紫苑の問いを受け止め、腕を組んで唸った。
「なんつーか……。そうだ。母猫と子猫みたいな。そんで、時々はその役割が入れ替わる。それがおれの紫苑と茜のイメージだな」
「だな。おれにも久住と広尾がそう見える時があるよ」
優成の発想と新のアシストに、紫苑は満足そうに「母猫と子猫ね、言えてるかも」と言って頷いた。
「えーっ! なんでおれが子猫っ? そんなに世話されてねーし!」
「してるでしょっ。茜の相談に何度乗ってあげたと思ってんの? 最近は小林がああ言った、小林がこうした、小林が小林が小林がって……。本人に訊けばいいでしょ、そんなの」
人差し指で鼻をツンと弾かれ、茜は顔を顰めた。隣にいる新の顔を見られずそっぽを向くと、「そうだぞ、広尾。訊きたいことがあるならおれに直接訊けばいい」と優しく諭すような声。茜は顔を真っ赤にしてニャゴニャゴ喚いたけれど、紫苑も新も頬杖を突いてそんな茜を眺めた。
「はいはい。茜の言い分は分かったから。優成君、よかったら一曲聴かせて」
「もちろん。リクエストはある?」
「おまかせしようかな。優成君が吹くと、どの曲もロマンチックに聴こえるから」
「ほんとう? じゃあ、紫苑のために吹くから……後で感想聞かせて」
二人のやりとりを静観し、茜は新の腕をツンとつついた。
「これで付き合ってないとか、ほんとうかな?」
「はたから見ればそう見えなくても、ほんとうだろうな。なんせ、“お友だちから”ということらしいから」
あの日、紫苑と優成は二人で話し合い、お友だちから、もう一度、関係を深めていくという結論に辿り着いた。よって、二人は清いお付き合いを続けている。
「なんかじれったい。でも、優成君って誠実だしなあ。しばらくはこのままか」
「だな。久住も優成のそういうところに惹かれているんだろう」
茜は新と囁き合いながら、優成を見つめる紫苑を見やった。ふと、紫苑の瞳が茜を映す。茜は席を立ち、紫苑の隣に寄り添った。
新のものよりも細い腕。でも、それよりもずっと慣れ親しんでいる、安心と温もりを与えてくれる腕。茜は紫苑の腕に自分の腕を絡め、肩に頭を預けた。
「紫苑」
「うん」
呼ぶたびに振り返ってくれる君を、おれも呼ばれるたびに振り返るよ。
「あかね」「広尾」
ダイヤモンドよりきれいなものを、おれは二つも知ってる。
愛おしい星、ふたつ。見失いませんように、ずっとたいせつにできますように。
茜のその願いもまた、星のように輝いた。もしかしたら、ダイヤモンドよりも、強く。
【終】
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茜くんかわいい!卑屈かもしれないけど、真っすぐで素敵な子だと思う✨️
茜のことをそんなふうに言ってくださって、ありがとうございます!
自分でも気に入ってるキャラクターで、すごく嬉しいです。
コメントありがとうございます♡