二人静

幻夜

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五十四、

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 包まれた頬が震えた。
 
 
 「沖、田・・」
 どういう意味かなど、
 
 答える以前に。
 「・・いったい」

 むりやり圧しだした声は、制止であったか、許容であったのか。
 己でさえ。
 
 「何を、してる」
 
 わからずに。
 
 斎藤は、只。闇の中の沖田を見返した。


 「・・何を、ね」
 
 だが何故か沖田もまた、その答えを知らぬかのように。
 どこか思案するような声音が続き。
 
 斎藤は、困惑とともに今一度、懸命に声を圧し出した。
 
 「手を・・離せ」
 
 触れられた瞬間はぬくかった、
 
 沖田の大きく硬い手のひらは、
 いま熱いまでの温度を点している。
 
 まるで、
 斎藤の頬の熱を吸収し、

 「・・・おまえが避けないんだろ」
 
 
 斎藤の。内に秘めた想いまでを。
 

 読み取ったかのように。
 
 「っ・・!」
 
 
 避けなかった。
 
 それが、答えであることを。
 斎藤自身でさえ今、思い知らされて驚愕が斎藤の胸内に拡がりゆき。
 
 
 斎藤は、沖田の眼を見返す事もはや叶わず。
 
 身震いさえ、して。


 (おき、た)

 
 敏い、この男なら。もう。
 
 
 
 「・・斎藤」
 ふっと、沖田の哂いを闇内に感じた。

 「未だ、避けないんだな」


 ――――気づいてしまっただろう。
 
 
 「それじゃ、まるで・・」
 
 
 
 沖田のする事ならば。
 結局、最後にはすべてを受け入れてしまう、
 
 
 斎藤の心に。
 
 
 
 
 
 「…っ」
 
 沖田の、熱い手が。
 
 ゆっくりと。斎藤の頬から片耳をその指と指に挟むように、移ろい。
 
 唯、
 それだけの刺激に。
 
 斎藤の息は、震えた。
 
 「ぅ、…」
 
 太い指が。
 つと斎藤の耳孔へと、
 挿し込まれ。
 
 先ほどよりも熱いその掌は、斎藤の頬を未だ包むままに。
 
 (沖、田・・っ)
 
 斎藤の耳奥を掻き混ぜる空気音が。
 
 緊張に息が上がりそうになる斎藤の、速まる心の臓の音に。斎藤のなかで、
 
 被さり。
 
 
 「っ…」
 
 もう、
 
 「・・・斎藤」
 今なら、とっくに。
 
 “ 何をしているか ”
 
 
 沖田の中で、その答えは。
 出ているだろう、
 
 はっきりと。
 
 
 
 その行為を、拒まずにいる己も。そしてまた。
 
 
 
 
 
 (おき・・・た)


 移ろう手が。下って、斎藤の唇をその太い指先が触れ。
 なぞり。
 斎藤の顎へと、流れた。
 
 
 闇の内、斎藤へ更に近寄り出す沖田の陰に、
 
 斎藤は苦しい胸で、息を乱しながら、微動だにできずに。
 
 その距離が縮まりゆくのを。
 
 
 只々受け入れていた。
 
 
 
  



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