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看護婦さんに僕が付き添う事を伝えてくれていたら、明日は朝一番から病院で過ごす覚悟も出来ていた。
この当時はまだ看護師と言う言い方はしなかった。
確か二〇〇一年に法改正されて、保健婦は保健師、看護婦、看護士は総称して看護師と呼ばれるように変わったのだ。
「大丈夫よ、心配してくれてありがとう。
明日は梓紗の父親と姉がここに来てくれるから、私も家で休ませて貰うわね。
明日はここに由良ちゃんも来ると思うわ。ずっと様子が気になるって電話で言ってたから。
そう言えば里沙から連絡があったけど、白石くんも今日は学校で仮眠を取ってたんでしょう? 中間考査も近いし、明日は無理しないで家でゆっくりしてね。何かあればおうちに連絡入れるから」
気丈に微笑む梓紗のお母さんに、かける言葉が思い浮かばない。
僕は何も言えなくて、病室の前にあるベンチに並んで腰掛けた。
明日は加藤さんもお見舞いに来るのか……。
ここに入院してから今日までずっと来れなかったから、梓紗の事が心配で明日はきっとここから動かないだろう。
僕は日が暮れるまでホスピスで過ごした。
ホスピスから帰宅すると、一週間の疲れがどっと出たのか身体が重い。もしここで熱でも出そうものなら、梓紗にも感染させてしまう恐れがある。自分が病気になる訳にはいかない。
僕は先に入浴を済ませると、母親が用意してくれた夕飯を食べ、早々に眠りに就いた。
翌日は、昼過ぎまで目が覚めなかった。
両親にも梓紗のお母さんから電話があったのだろう、病院から連絡があったら声をかけるからそれまではいつも通り過ごすようにと言われた。でもそれ以上の言葉はかけられなかったのが救いだ。きっと両親もなんと声をかけていいのか分からないだろうし、デリケートな話題だけに、出来るだけそっとしておいて欲しい。
母親は終始心配げな表情を浮かべている。花火大会の日に会った梓紗の事を覚えていて、しかも僕と梓紗が付き合っている事を黙っていただけに驚きも大きかった筈だ。
朝食を兼ねた昼食を摂り、僕は自分の部屋の学習机に向かった。
宿題なんて、テスト勉強なんて全然手につかないし頭に入らない。
それでも、やるしかない。梓紗がやりたくても出来ない高校生活を僕が過ごすんだ。
途切れる集中力をフルで働かせてまずは宿題に手を付けた。宿題が終わり、現国の教科書に手を伸ばし、試験勉強を始め、ようやく日没を迎える頃に、現国と数学、英語の範囲の勉強が終わった。
土日をこんな調子で過ごし、月曜日を迎えると加藤さんに呼び出された。
誰がどこで何を聞いているか分からないからと、呼び出されたのは保健室だ。久保田先生も当時者だし、ここなら人の出入りも制限出来る。おまけに今日から中間考査も始まる事で午前中で全校生徒が下校する。話をするには絶好の機会だ。
初日のテストが終わった後、他の人達に怪しまれない様に僕と加藤さんは時間差で保健室へと向かった。
先に加藤さんに保健室へと言って貰っていたので、それに遅れる事五分程度で、僕は保健室に辿り着いた。
引き戸にノックをして扉をスライドさせると、加藤さんと久保田先生の二人がソファーに腰を下ろしている。
「すみません、遅くなりました」
僕は後ろ手で扉を閉めると、久保田先生から内鍵をかける様に言われ素直にそれに従った。
久保田先生に促されて、僕は加藤さんの隣に腰を下ろす。
すると久保田先生はようやく口を開いた。
「中間考査の時期に呼び出してごめんなさい。こんな時じゃないとゆっくりあなた達と話も出来ないから」
先生の言葉に僕達二人は頷いた。本当にそうだ。用事がなければ保健室なんて出入り出来ないし、場所が場所だけに周りの視線も何気に気になる。
「先週はテスト勉強もあるのに梓紗のお見舞いに来てくれてありがとう。
さっき姉から私の方に連絡があって、梓紗の面会謝絶が取れたそうよ」
久保田先生の言葉に僕と加藤さんは目線を合わせて喜んだ。
「ただ、まだ無菌室からは出られないから、隣の面会室からのガラス越しの面会にはなるけど……」
「そんなの全然いいです! 梓紗に会えるんですね?」
加藤さんが久保田先生の言葉に被せる様に興奮して声を上げた。
僕は声こそ上げなかったものの、加藤さん同様に興奮している。態度に出すか出さないか、それだけの差で、気持ちは加藤さんと同じだった。
久保田先生も嬉しいのだろう、笑顔で頷いた。
でも、次の言葉を発する時に、ガラリと表情が変わる。
「でもね……、今回の事で梓紗の身体はかなり免疫力が落ちてるから、今後の体調管理を気を付けなきゃ命取りになる。
下手したらこのまま無菌室から出られずにあそこで最期を迎える事になるかも知れない。
これだけは、知っておいてね」
厳しい現実を突き付けられて、僕達の喜びは一気にどん底まで突き落とされる。
そうだ、ホスピスにいると言う時点で、梓紗には回復する見込みがないと言う事を失念していた。
もしかしたらという淡い期待は、それこそ泡沫の夢の様な物なのかも知れない。
この当時はまだ看護師と言う言い方はしなかった。
確か二〇〇一年に法改正されて、保健婦は保健師、看護婦、看護士は総称して看護師と呼ばれるように変わったのだ。
「大丈夫よ、心配してくれてありがとう。
明日は梓紗の父親と姉がここに来てくれるから、私も家で休ませて貰うわね。
明日はここに由良ちゃんも来ると思うわ。ずっと様子が気になるって電話で言ってたから。
そう言えば里沙から連絡があったけど、白石くんも今日は学校で仮眠を取ってたんでしょう? 中間考査も近いし、明日は無理しないで家でゆっくりしてね。何かあればおうちに連絡入れるから」
気丈に微笑む梓紗のお母さんに、かける言葉が思い浮かばない。
僕は何も言えなくて、病室の前にあるベンチに並んで腰掛けた。
明日は加藤さんもお見舞いに来るのか……。
ここに入院してから今日までずっと来れなかったから、梓紗の事が心配で明日はきっとここから動かないだろう。
僕は日が暮れるまでホスピスで過ごした。
ホスピスから帰宅すると、一週間の疲れがどっと出たのか身体が重い。もしここで熱でも出そうものなら、梓紗にも感染させてしまう恐れがある。自分が病気になる訳にはいかない。
僕は先に入浴を済ませると、母親が用意してくれた夕飯を食べ、早々に眠りに就いた。
翌日は、昼過ぎまで目が覚めなかった。
両親にも梓紗のお母さんから電話があったのだろう、病院から連絡があったら声をかけるからそれまではいつも通り過ごすようにと言われた。でもそれ以上の言葉はかけられなかったのが救いだ。きっと両親もなんと声をかけていいのか分からないだろうし、デリケートな話題だけに、出来るだけそっとしておいて欲しい。
母親は終始心配げな表情を浮かべている。花火大会の日に会った梓紗の事を覚えていて、しかも僕と梓紗が付き合っている事を黙っていただけに驚きも大きかった筈だ。
朝食を兼ねた昼食を摂り、僕は自分の部屋の学習机に向かった。
宿題なんて、テスト勉強なんて全然手につかないし頭に入らない。
それでも、やるしかない。梓紗がやりたくても出来ない高校生活を僕が過ごすんだ。
途切れる集中力をフルで働かせてまずは宿題に手を付けた。宿題が終わり、現国の教科書に手を伸ばし、試験勉強を始め、ようやく日没を迎える頃に、現国と数学、英語の範囲の勉強が終わった。
土日をこんな調子で過ごし、月曜日を迎えると加藤さんに呼び出された。
誰がどこで何を聞いているか分からないからと、呼び出されたのは保健室だ。久保田先生も当時者だし、ここなら人の出入りも制限出来る。おまけに今日から中間考査も始まる事で午前中で全校生徒が下校する。話をするには絶好の機会だ。
初日のテストが終わった後、他の人達に怪しまれない様に僕と加藤さんは時間差で保健室へと向かった。
先に加藤さんに保健室へと言って貰っていたので、それに遅れる事五分程度で、僕は保健室に辿り着いた。
引き戸にノックをして扉をスライドさせると、加藤さんと久保田先生の二人がソファーに腰を下ろしている。
「すみません、遅くなりました」
僕は後ろ手で扉を閉めると、久保田先生から内鍵をかける様に言われ素直にそれに従った。
久保田先生に促されて、僕は加藤さんの隣に腰を下ろす。
すると久保田先生はようやく口を開いた。
「中間考査の時期に呼び出してごめんなさい。こんな時じゃないとゆっくりあなた達と話も出来ないから」
先生の言葉に僕達二人は頷いた。本当にそうだ。用事がなければ保健室なんて出入り出来ないし、場所が場所だけに周りの視線も何気に気になる。
「先週はテスト勉強もあるのに梓紗のお見舞いに来てくれてありがとう。
さっき姉から私の方に連絡があって、梓紗の面会謝絶が取れたそうよ」
久保田先生の言葉に僕と加藤さんは目線を合わせて喜んだ。
「ただ、まだ無菌室からは出られないから、隣の面会室からのガラス越しの面会にはなるけど……」
「そんなの全然いいです! 梓紗に会えるんですね?」
加藤さんが久保田先生の言葉に被せる様に興奮して声を上げた。
僕は声こそ上げなかったものの、加藤さん同様に興奮している。態度に出すか出さないか、それだけの差で、気持ちは加藤さんと同じだった。
久保田先生も嬉しいのだろう、笑顔で頷いた。
でも、次の言葉を発する時に、ガラリと表情が変わる。
「でもね……、今回の事で梓紗の身体はかなり免疫力が落ちてるから、今後の体調管理を気を付けなきゃ命取りになる。
下手したらこのまま無菌室から出られずにあそこで最期を迎える事になるかも知れない。
これだけは、知っておいてね」
厳しい現実を突き付けられて、僕達の喜びは一気にどん底まで突き落とされる。
そうだ、ホスピスにいると言う時点で、梓紗には回復する見込みがないと言う事を失念していた。
もしかしたらという淡い期待は、それこそ泡沫の夢の様な物なのかも知れない。
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