翠も甘いも噛み分けて

小田恒子

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スイはスイーツのスイだから 3

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 翠はとりあえず思いついたお菓子を挙げてみた。この手の質問に『なんでもいい』で答えるのはNGだということは、母が献立を決める時にぼやきを耳にしていただけに、身をもって知っていた。
 最近、マドレーヌやカップケーキ、タルトなどが続いていたので、ビスケットやクッキーが食べたいと思っていた。

「よし、任せとけ。その代わり、古文の宿題頼むな」

 そしてやっぱり交換条件を出されるのだ。

「りょーかーい。てかさ、オーブンで焼いてる時間に宿題やればいいだけの話じゃない?」
「あのな……その隙間時間に、使った調理器具の片づけやら風呂入ったりと、俺もなにかとやることがあるんだよ」

 ああ言えばこう言う幸成に、翠はもう言い返すことを止めてマドレーヌをおいしく頂いた。

「さ、外も暗くなってきたし、もう帰ろうぜ」

 マドレーヌを食べ終えてジュースも飲み干すと、幸成は立ち上がり、ゴミを教室の後ろに置かれたゴミ箱にまとめて捨てた。

『スイはスイーツのスイだから』。帰宅してからも、翠の頭からこの言葉が離れない。一体どんな意味があるのか分かるはずもない。けれど、幸成の中で、スイーツ仲間として認定されていることだけは分かった。

   * * *

「ねえ、なんで高橋くんは毎日スイーツ作ってるの?」

 また別のある日、翠はずっと疑問に思っていたことを訊ねてみた。この日は先生に用事を頼まれて、放課後資料作りを手伝っていた。幸成と一緒に、コピー用紙を三種類ワンセットにして、ホッチキス止めを頼まれ、その作業中だ。
 この頃には、なぜか先生たちにも幸成と翠はワンセット扱いされるようになって、なにか用事を頼まれる時は一人で作業するにはかなりの時間を費やす文量のものばかりだ。完全に翠と幸成の二人分で、最初の頃は抗議したけれど、最近ではもう諦めた。

「俺に限ったことではないけど、成長期の男子生徒ヤローの胃袋って、ブラックホール並みだろ?」

 会話をしながらも、お互いの手は止めない。話に夢中になってしまうと、それだけ帰宅時間も遅くなる。
 翠は相槌を打って、話の続きを促した。

「俺の小遣いだけだと、買い食いしてるとどうしても足りないんだよ。腹が持たなくて。で、考えた末に行き着いたのが、ないなら作ればいい、と」

 幸成の言葉には説得力がある。確かに買うより作る方が安上がりだし、大量に作れる。それを即実行に移す行動力はすごいことだ。しかも、今まで翠にもお裾分けを貰ったものは、どれもおいしかったのだから、幸成にはお菓子作りの才能がある。

「すごいね。将来、そっちの道に進みなよ! 絶対才能あるから。有名パティシエになったら私、学生時代、高橋くんの手作りスイーツを毎日食べてたってみんなに自慢する!」
「言ったな? じゃあ、有名パティシエになった暁には、スイ、俺の欲しいものをくれよ?」

 幸成が作業の手を止めて、翠を見つめた。その表情は、真剣そのものだ。茶化してしまうことのできない空気を察した翠も、作業の手を止めて幸成に向き合った。

「うん。じゃあ、約束。ただ、私は多分普通の一般人にしかなれないと思うから、欲しいものって言われても、高いものは買えないよ? それでもいい?」
「ああ、大丈夫。欲しいものは、その時までに考えとくよ。約束、忘れるなよ?」

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