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涙の止め方 2
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先輩の唇が顔から離れると同時に瞼を開けると、再び先輩の唇が降って来た。
先程よりも長い時間唇が重ねられ、初めての事にパニックを起こしそうになるものの、温かくて柔らかな感触に意識が朦朧としそうだ。
先輩の腕の中にすっぽりと埋もれてしまうと、ずっとこうしていたくなる。
この幸せな時間を一度知ってしまうと、離れがたい。
キスだけで蕩けてしまった私に向かって、先輩は私の頬を撫でながら優しく囁いた。
「里美の事、これから大事にする。里美のペースに合わせてゆっくりするから」
私は幸せ者だ。
ずっと想い続けていた先輩と、やっと気持ちを通いあわせる事が出来たのだ。
「この部屋でこんな事してると、最後までしたくなるけど、里美は初めてなんだろう?」
先輩の言葉に、素直に頷く。
「心の準備も出来てないだろう?」
再び頷く。キスだけでこんなに蕩けてしまっている状態で、最後までは流石に恥ずかしいし、心も身体も準備なんて全くしていない状態だ。雰囲気に流されてしまいたくない。
「だから、今日はここまで。俺の理性を褒めろよ? 里美がその気になった時に、里美を頂戴?」
私の顔を覗き込むと、先輩はニコッと笑って頬に触れていた右手を私の頭上に持って行くと、軽くポンと撫でて、居住まいを正した。
「さてと、本題の話をしようか」
その言葉で我に返った。そうだ、話が逸れてしまったけど、それで先輩に来て貰ったんだった。
私は急いで先輩の腕の中から離れて先程座っていたテーブルの向かい側へと戻ると、先輩に笑われた。
「急に畏まらなくてもいいじゃないか」
まぁ、そうですが。私はグラスの中の炭酸ジュースを飲みたかったと言わんばかりにグラスを口にした。
「里美が居なくなってから、俺、かなり落ち込んでさ……。
守野に引越し先を聞いても睨まれるばかりで何も教えて貰えなくて。
結局里美との想い出のある松山に残るのが辛くて、大学でこっちに出て来たんだ。
それで、その……。中山や他にも一夜だけって子と……」
先輩の声が、段々と弱くなって行く。
先輩の黒歴史を自ら暴露しているのだから、仕方ないとは言え、やはり胸の内はスッキリしない。
「つまりは、色んな子と関係を持ったって事ですよね?」
私の問いに、力なく頷く先輩は、飼い主に叱られた大型犬に見えて何だか可笑しくなってきた。
私は笑いを堪えるのに必死で俯いたままだ。
肩の震えが止まらなくて、先輩は私が泣いていると思ったのか、必死になっている。
「でもなっ! 里美が大学で松山に戻っ て来たって聞いて、一度松山に帰って大学に行ったんだ。
高校時代の里美の雰囲気と全然違ってたから、声もかけられなかったけど。で、その時に決意したんだ。
里美に相応しい男になりたいって。だから、フラフラしていたのも止めて、だらしない関係も全て切ったし。
ただ……、中山だけはしつこかったけど……」
確かにプライドも高そうな人だから、自分が一番じゃないのを認めるのが出来ないのかも知れない。
改めてゆりさんの今日の言動や、先輩や藤岡主任から聞いた先輩への付きまとい等、思い出しただけでゾッとする。
あのまま簡単に引き下がるだろうか……。
私が無言でいる事に、不安気な先輩を一先ず置いておき、ゆりさんがこれで先輩や私に関わりを持たずにいてくれるものか、気持ちはそちらに向いていた。
「……やっぱ、引くよな? こんな事やってたって。
でも、里美に会いたくて松山に戻った後は、そんな事してないからっ。それは信じて欲しいんだ」
先輩の声で、再び我に返った私は、先輩に頷いて返事した。
「先輩の過去について、何か言っても過去が変わる訳ではないですから。それはもういいです。
逆に、二十九年間何もないって方がおかしいって思いますから。でも……」
「でも?」
「……これからは、私だけ……、なんですよ、ね……?」
自信の無さから、語尾が尻つぼみしていく。先輩を思わず上目遣いで見つめてしまう。
その表情が、先輩の感情をどれだけ煽っているかなんて気付きもしないで。
先輩は、私の腕を掴んで再度その広い胸に私を引き寄せて抱きしめた。
それは私が潰れてしまうのではないかと思う位に、ギュッと力強く……。
「当たり前だ。里美以外誰もいらない。里美が居てくれるなら、それだけでいい」
先輩の言葉に、再度涙が溢れそうになるのを必死で堪え、幸せを噛み締めた。
私は、ただ頷いて先輩に応えた。
どの位こうして抱き締められていただろうか。
「……ヤバい。ずっとこうしていたら、最後までしたくなる」
そう言って先輩は私から腕を解いて顔を赤らめた。
右手で自分の口元を覆い、照れている姿を見て私も照れた。
「なぁ、こんな目と鼻の先に住んでるし、週末実家に帰った後なんだけど、もしご両親に挨拶させて貰えて許可を貰えたら一緒に暮らさないか?」
先輩の突拍子な発言に、照れなんて吹っ飛んで驚いた。
いやいや。それは話が飛び過ぎるでしょう。想いが通じ合ったばかりなのに、嫁入り前な身で同棲?
「……なんてな。いくらなんでも早すぎるか。
でも、そのくらいの気持ちでいるっていう事は、知っていて欲しい。
……さてと、今日はもう帰るよ。明日も迎えに来るから。明日は家を出る前に連絡するよ」
先輩はイタズラ成功と言わんばかりの顔をして私の顔を覗き込み、啄む様なキスを落として行くと、立ち上がった。
先輩に遅れて立ち上がった私は、顔が熱くなる位に赤面している。
そんな私を見て先輩は、しまりのないデレた表情で、名残惜しそうに部屋を出て行った。
……ヤバい。私も壊れそうだ。
先輩が出て行った後、またまたしばらくの間呆然として動けなかった。
先程よりも長い時間唇が重ねられ、初めての事にパニックを起こしそうになるものの、温かくて柔らかな感触に意識が朦朧としそうだ。
先輩の腕の中にすっぽりと埋もれてしまうと、ずっとこうしていたくなる。
この幸せな時間を一度知ってしまうと、離れがたい。
キスだけで蕩けてしまった私に向かって、先輩は私の頬を撫でながら優しく囁いた。
「里美の事、これから大事にする。里美のペースに合わせてゆっくりするから」
私は幸せ者だ。
ずっと想い続けていた先輩と、やっと気持ちを通いあわせる事が出来たのだ。
「この部屋でこんな事してると、最後までしたくなるけど、里美は初めてなんだろう?」
先輩の言葉に、素直に頷く。
「心の準備も出来てないだろう?」
再び頷く。キスだけでこんなに蕩けてしまっている状態で、最後までは流石に恥ずかしいし、心も身体も準備なんて全くしていない状態だ。雰囲気に流されてしまいたくない。
「だから、今日はここまで。俺の理性を褒めろよ? 里美がその気になった時に、里美を頂戴?」
私の顔を覗き込むと、先輩はニコッと笑って頬に触れていた右手を私の頭上に持って行くと、軽くポンと撫でて、居住まいを正した。
「さてと、本題の話をしようか」
その言葉で我に返った。そうだ、話が逸れてしまったけど、それで先輩に来て貰ったんだった。
私は急いで先輩の腕の中から離れて先程座っていたテーブルの向かい側へと戻ると、先輩に笑われた。
「急に畏まらなくてもいいじゃないか」
まぁ、そうですが。私はグラスの中の炭酸ジュースを飲みたかったと言わんばかりにグラスを口にした。
「里美が居なくなってから、俺、かなり落ち込んでさ……。
守野に引越し先を聞いても睨まれるばかりで何も教えて貰えなくて。
結局里美との想い出のある松山に残るのが辛くて、大学でこっちに出て来たんだ。
それで、その……。中山や他にも一夜だけって子と……」
先輩の声が、段々と弱くなって行く。
先輩の黒歴史を自ら暴露しているのだから、仕方ないとは言え、やはり胸の内はスッキリしない。
「つまりは、色んな子と関係を持ったって事ですよね?」
私の問いに、力なく頷く先輩は、飼い主に叱られた大型犬に見えて何だか可笑しくなってきた。
私は笑いを堪えるのに必死で俯いたままだ。
肩の震えが止まらなくて、先輩は私が泣いていると思ったのか、必死になっている。
「でもなっ! 里美が大学で松山に戻っ て来たって聞いて、一度松山に帰って大学に行ったんだ。
高校時代の里美の雰囲気と全然違ってたから、声もかけられなかったけど。で、その時に決意したんだ。
里美に相応しい男になりたいって。だから、フラフラしていたのも止めて、だらしない関係も全て切ったし。
ただ……、中山だけはしつこかったけど……」
確かにプライドも高そうな人だから、自分が一番じゃないのを認めるのが出来ないのかも知れない。
改めてゆりさんの今日の言動や、先輩や藤岡主任から聞いた先輩への付きまとい等、思い出しただけでゾッとする。
あのまま簡単に引き下がるだろうか……。
私が無言でいる事に、不安気な先輩を一先ず置いておき、ゆりさんがこれで先輩や私に関わりを持たずにいてくれるものか、気持ちはそちらに向いていた。
「……やっぱ、引くよな? こんな事やってたって。
でも、里美に会いたくて松山に戻った後は、そんな事してないからっ。それは信じて欲しいんだ」
先輩の声で、再び我に返った私は、先輩に頷いて返事した。
「先輩の過去について、何か言っても過去が変わる訳ではないですから。それはもういいです。
逆に、二十九年間何もないって方がおかしいって思いますから。でも……」
「でも?」
「……これからは、私だけ……、なんですよ、ね……?」
自信の無さから、語尾が尻つぼみしていく。先輩を思わず上目遣いで見つめてしまう。
その表情が、先輩の感情をどれだけ煽っているかなんて気付きもしないで。
先輩は、私の腕を掴んで再度その広い胸に私を引き寄せて抱きしめた。
それは私が潰れてしまうのではないかと思う位に、ギュッと力強く……。
「当たり前だ。里美以外誰もいらない。里美が居てくれるなら、それだけでいい」
先輩の言葉に、再度涙が溢れそうになるのを必死で堪え、幸せを噛み締めた。
私は、ただ頷いて先輩に応えた。
どの位こうして抱き締められていただろうか。
「……ヤバい。ずっとこうしていたら、最後までしたくなる」
そう言って先輩は私から腕を解いて顔を赤らめた。
右手で自分の口元を覆い、照れている姿を見て私も照れた。
「なぁ、こんな目と鼻の先に住んでるし、週末実家に帰った後なんだけど、もしご両親に挨拶させて貰えて許可を貰えたら一緒に暮らさないか?」
先輩の突拍子な発言に、照れなんて吹っ飛んで驚いた。
いやいや。それは話が飛び過ぎるでしょう。想いが通じ合ったばかりなのに、嫁入り前な身で同棲?
「……なんてな。いくらなんでも早すぎるか。
でも、そのくらいの気持ちでいるっていう事は、知っていて欲しい。
……さてと、今日はもう帰るよ。明日も迎えに来るから。明日は家を出る前に連絡するよ」
先輩はイタズラ成功と言わんばかりの顔をして私の顔を覗き込み、啄む様なキスを落として行くと、立ち上がった。
先輩に遅れて立ち上がった私は、顔が熱くなる位に赤面している。
そんな私を見て先輩は、しまりのないデレた表情で、名残惜しそうに部屋を出て行った。
……ヤバい。私も壊れそうだ。
先輩が出て行った後、またまたしばらくの間呆然として動けなかった。
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