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帰宅 2
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私の荷物を軽々と持ち上げ、先に部屋に入る直哉さんの後ろを、部屋の至る所をキョロキョロしながらついて歩く私に向かって爆弾発言だ。
「明日は多分、里美は起き上がれないかも知れないから、明日の朝ごはん用にパンも一緒に買っといた」
……どれだけハードな事が待ち受けているんだろう。私は何も言えなくて、赤面したまま固まってしまった。
そんな私を見て、直哉さんは私の荷物を足元に置き、そっと抱き寄せ耳元で囁いた。
「出来るだけ、優しくする。里美に嫌われない様に気を付けるけど……。手加減出来なかったらごめん」
私には未知の領域なので、何も言えず、ただ立ち尽くしたままだ。
「……やべっ、何かガッついてるの丸わかりな発言だな。さ、弁当食べようぜ」
直哉さんはダイニングの椅子を引いて私を座らせると、コンビニ弁当を電子レンジに入れて温め始めた。
そして、冷蔵庫の中からペットボトルのお茶を出して、グラスに注いでくれる。
直哉さんに接待されながらも、部屋の中をチェックして、自分の部屋にある家電製品の中で不要な物を頭の中でリストアップしていると……。
「どうした? 珍しいか?」
テーブルの向かい側に座って私の顔を覗き込む。
「ううん、そうじゃなくて……。うちにある家電、こっちにある物は処分しなきゃって思って見てたの」
温めてもらったお弁当に手をつける。電子レンジと冷蔵庫は、確実に要らない物にカウントする。
「そっか、そうだよな……。明日から少しずつ荷物運びするか?
夕方里美が帰宅して荷造りした物を、俺が帰宅した時に一緒に運べばいいから」
「とりあえず、衣装ケースに入れてある冬物の服ならすぐに運び出せるけど……」
「そうだな、すぐに使わない物の方がいいかな。週末、藤岡にも手伝わせるから引っ越ししよう。
使わない家電製品は、リサイクルショップに引き取って貰えばいいし」
えっ、藤岡主任に? 職場の人に知られるのは恥ずかしいと思っていたら……。
「明日、里美は多分起き上がれないからその時点でもうバレるって。諦めろよ」
直哉さんは意地悪く笑い、スマホで何やら打ち込んでいる。直哉さんがスマホをテーブルに置いたその瞬間。
そのスマホから着信音が鳴り響く。
液晶には……。『藤岡』とある。まさか……。
「もしもし」
『もしもし。じゃねーよ! お前今何処にいるんだよ、松山から戻ってないのか?』
藤岡主任の声が、割れんばかりの声量でスマホから洩れている。
「いや、こっちに戻ったけど。明日、里美、有給扱いで休ませてやって」
『だからどうしてそうなる?』
「これから無理させる予定でな。詳しく聞くな。じゃあ、そう言う事で」
そう言って、直哉さんはスマホの通話ボタンを切った。
通話ボタンを切る寸前まで、藤岡主任の叫き声が響いていた。一体、何てメッセージを送ったのだろう。
「さ、明日の事は気にしなくていいから。ほら。弁当食べよう」
直哉さんにはぐらかされて納得行かないまま、お弁当を食べ進める。
「うち、コーヒーメーカーあるけど壊れててさ。里美は持ってる?」
「うん、あるのはあるけど。私、家ではインスタントばかりだから使ってない」
「じゃあ、それは明日持ち込みだな。あと、アイロンある?」
「うん、活用してる」
「じゃあ、それも明日こっちに持ち込んで」
「え? それは困る! スカートのシワ、直せないし」
「うちでアイロンかけたらいいじゃないか。どうせ今日から里美はここに住むんだし。
あ、合鍵渡しておかなきゃだな」
え? 今日だけのお泊りじゃないの? 固まる私をよそに、直哉さんは部屋に合鍵を取りに行った。
「これ、うちの鍵。落としたりするなよ?
それから、向こうの部屋は、今月いっぱいで引き払う事、出来そうか?」
直哉さんが私の手を取り、手のひらに鍵を握らせながら私に聞いた。
今日は八月十二日。慌ただしい帰省だったから、お墓詣りすら行けなかった。
次の帰省の時に、お互いのお墓詣りに行かなきゃな……。
今度の週末は十八日、十九日。天気次第になるけれど、この時藤岡主任を呼んで午前中に大きな荷物の搬入をする予定らしい。午後からリサイクルショップに家電を引き取りに来て貰うんだとか。
後は部屋の掃除をすればいいので、今月中に引き払う事は可能だ。
ただ、エアコンを取り外さなければならないので、これだけは業者さんにお願いしなければならない。
エアコンも、リサイクルショップに引き取って貰う予定なので、果たして土日に業者さんが捕まるか……。
それを直哉さんに伝えると、なんて事はないと言う。
「それなら俺、出来るけど?」
え? 今何て?
「学生の頃、夏休みにエアコン取り付けのバイトやってたんだ。だから取り付け取り外しは出来るよ。
室外機も設置はベランダだろ? ただ、ここでは中の洗浄が出来ないからなぁ……」
「多分、埃が凄い事になってそう……」
「ああ、多分真っ黒だろうな」
エアコンフィルターの掃除はしていても、中までは出来ないので、想像しただけでゾッとする。
「もし、藤岡主任が家電いるのあれば、使って貰おうかな……」
多分リサイクルショップに持ち込みしても、金額は僅かな物だとしたら、使ってくれる人にあげた方がいいかも知れない。
「もし可能なら、管理会社にエアコン置いて行っていいか聞いてみてもいいんじゃないか?」
その考えは全く思い付かなかったので、明日管理会社に連絡する事にした。
家具家電で処分するのは、冷蔵庫と洗濯機、電子レンジ、組み立て式のパイプベッドなので(ベッドはお兄さんが使っていたのがあると言われた)、リサイクル業者さんに引き取りに来てもらうのが手っ取り早いだろう。
お弁当を食べ終わると、部屋を案内された。
「こっちが兄貴の使っていた部屋なんだけど、クローゼットは里美が使って。で、寝室はこっち」
その隣の部屋に通された。現在直哉さんが使っている部屋だ。
「あっちにもベッド置いてるけど、里美もこっちで一緒に寝るんだからな」
そう言って、私を背後から抱き寄せた。
身長の高い直哉さんに抱きしめられ、多分背後から見ると私の姿なんて見えないだろう。
「片付けしておくから先にシャワー浴びておいで」
……いよいよだ。私は、ぎこちなく頷いて、着替えを持って案内されたバスルームへと入った。
「明日は多分、里美は起き上がれないかも知れないから、明日の朝ごはん用にパンも一緒に買っといた」
……どれだけハードな事が待ち受けているんだろう。私は何も言えなくて、赤面したまま固まってしまった。
そんな私を見て、直哉さんは私の荷物を足元に置き、そっと抱き寄せ耳元で囁いた。
「出来るだけ、優しくする。里美に嫌われない様に気を付けるけど……。手加減出来なかったらごめん」
私には未知の領域なので、何も言えず、ただ立ち尽くしたままだ。
「……やべっ、何かガッついてるの丸わかりな発言だな。さ、弁当食べようぜ」
直哉さんはダイニングの椅子を引いて私を座らせると、コンビニ弁当を電子レンジに入れて温め始めた。
そして、冷蔵庫の中からペットボトルのお茶を出して、グラスに注いでくれる。
直哉さんに接待されながらも、部屋の中をチェックして、自分の部屋にある家電製品の中で不要な物を頭の中でリストアップしていると……。
「どうした? 珍しいか?」
テーブルの向かい側に座って私の顔を覗き込む。
「ううん、そうじゃなくて……。うちにある家電、こっちにある物は処分しなきゃって思って見てたの」
温めてもらったお弁当に手をつける。電子レンジと冷蔵庫は、確実に要らない物にカウントする。
「そっか、そうだよな……。明日から少しずつ荷物運びするか?
夕方里美が帰宅して荷造りした物を、俺が帰宅した時に一緒に運べばいいから」
「とりあえず、衣装ケースに入れてある冬物の服ならすぐに運び出せるけど……」
「そうだな、すぐに使わない物の方がいいかな。週末、藤岡にも手伝わせるから引っ越ししよう。
使わない家電製品は、リサイクルショップに引き取って貰えばいいし」
えっ、藤岡主任に? 職場の人に知られるのは恥ずかしいと思っていたら……。
「明日、里美は多分起き上がれないからその時点でもうバレるって。諦めろよ」
直哉さんは意地悪く笑い、スマホで何やら打ち込んでいる。直哉さんがスマホをテーブルに置いたその瞬間。
そのスマホから着信音が鳴り響く。
液晶には……。『藤岡』とある。まさか……。
「もしもし」
『もしもし。じゃねーよ! お前今何処にいるんだよ、松山から戻ってないのか?』
藤岡主任の声が、割れんばかりの声量でスマホから洩れている。
「いや、こっちに戻ったけど。明日、里美、有給扱いで休ませてやって」
『だからどうしてそうなる?』
「これから無理させる予定でな。詳しく聞くな。じゃあ、そう言う事で」
そう言って、直哉さんはスマホの通話ボタンを切った。
通話ボタンを切る寸前まで、藤岡主任の叫き声が響いていた。一体、何てメッセージを送ったのだろう。
「さ、明日の事は気にしなくていいから。ほら。弁当食べよう」
直哉さんにはぐらかされて納得行かないまま、お弁当を食べ進める。
「うち、コーヒーメーカーあるけど壊れててさ。里美は持ってる?」
「うん、あるのはあるけど。私、家ではインスタントばかりだから使ってない」
「じゃあ、それは明日持ち込みだな。あと、アイロンある?」
「うん、活用してる」
「じゃあ、それも明日こっちに持ち込んで」
「え? それは困る! スカートのシワ、直せないし」
「うちでアイロンかけたらいいじゃないか。どうせ今日から里美はここに住むんだし。
あ、合鍵渡しておかなきゃだな」
え? 今日だけのお泊りじゃないの? 固まる私をよそに、直哉さんは部屋に合鍵を取りに行った。
「これ、うちの鍵。落としたりするなよ?
それから、向こうの部屋は、今月いっぱいで引き払う事、出来そうか?」
直哉さんが私の手を取り、手のひらに鍵を握らせながら私に聞いた。
今日は八月十二日。慌ただしい帰省だったから、お墓詣りすら行けなかった。
次の帰省の時に、お互いのお墓詣りに行かなきゃな……。
今度の週末は十八日、十九日。天気次第になるけれど、この時藤岡主任を呼んで午前中に大きな荷物の搬入をする予定らしい。午後からリサイクルショップに家電を引き取りに来て貰うんだとか。
後は部屋の掃除をすればいいので、今月中に引き払う事は可能だ。
ただ、エアコンを取り外さなければならないので、これだけは業者さんにお願いしなければならない。
エアコンも、リサイクルショップに引き取って貰う予定なので、果たして土日に業者さんが捕まるか……。
それを直哉さんに伝えると、なんて事はないと言う。
「それなら俺、出来るけど?」
え? 今何て?
「学生の頃、夏休みにエアコン取り付けのバイトやってたんだ。だから取り付け取り外しは出来るよ。
室外機も設置はベランダだろ? ただ、ここでは中の洗浄が出来ないからなぁ……」
「多分、埃が凄い事になってそう……」
「ああ、多分真っ黒だろうな」
エアコンフィルターの掃除はしていても、中までは出来ないので、想像しただけでゾッとする。
「もし、藤岡主任が家電いるのあれば、使って貰おうかな……」
多分リサイクルショップに持ち込みしても、金額は僅かな物だとしたら、使ってくれる人にあげた方がいいかも知れない。
「もし可能なら、管理会社にエアコン置いて行っていいか聞いてみてもいいんじゃないか?」
その考えは全く思い付かなかったので、明日管理会社に連絡する事にした。
家具家電で処分するのは、冷蔵庫と洗濯機、電子レンジ、組み立て式のパイプベッドなので(ベッドはお兄さんが使っていたのがあると言われた)、リサイクル業者さんに引き取りに来てもらうのが手っ取り早いだろう。
お弁当を食べ終わると、部屋を案内された。
「こっちが兄貴の使っていた部屋なんだけど、クローゼットは里美が使って。で、寝室はこっち」
その隣の部屋に通された。現在直哉さんが使っている部屋だ。
「あっちにもベッド置いてるけど、里美もこっちで一緒に寝るんだからな」
そう言って、私を背後から抱き寄せた。
身長の高い直哉さんに抱きしめられ、多分背後から見ると私の姿なんて見えないだろう。
「片付けしておくから先にシャワー浴びておいで」
……いよいよだ。私は、ぎこちなく頷いて、着替えを持って案内されたバスルームへと入った。
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