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14話
しおりを挟む約束の日まで私は葵について調べていた。普段は見ないテレビを見て雑誌も買った。そこには私の知らない葵がいて、見れば見るほど彼女が違う世界の人だということが思い知らされたと同時に自分を否定されているように感じた。
彼女の人気はドラマのおかげでうなぎ登りのようでこれほどの人気を博しているのなら、何もかも思うがままなのではないか?と疑問に思う。地位も名声も手に入れた。おまけに誰もが放っておかない容姿。友達も彼氏も、何もかも得ようと思えばすぐに手に入るだろう。だから悶々としてしまう。好かれているのは分かるしそれは純粋に嬉しい。
でもなぜ友達になって、なんて言ったのだろうか。どうしてそこまで好かれているのだろうか。私には特に何か在るわけではない。葵のことは好きだ。それこそ、笑って楽しくいられるように悩んだりしないように嫌なことからは守ってあげたいと思うほど。放っておけないけれど私達の違いに戸惑ってしまう。私よりも適任がいるのでは、私では役不足なのではと。でも、葵は私にかなりの思い入れがある。
仕事の違いでこんなに悶々としてしまうなんて私は一体どうしたんだ。飲み歩いてできた友達は皆様々な職種についていた。
広告会社の社長、サラリーマン、水商売、風俗、医者等の医療系、保育士、トラックの運転手等、そのどれもが私には気にならなかった。むしろ世界を広く知れて楽しかったし、水商売だから、風俗だからって偏見はなかった。
そういう人は実際にコミュニケーション能力に長けていて話すのが絶妙で上手いし空気を読んだり汲み取るのが上手だ。本当に慣れているんだろう。
こうやっていつも良い所をしっかり見て受け入れてきたけど今回は色々と違いすぎると思った。偏見かもしれないけど雑誌やドラマの葵は本当に輝いて見えたから。雲の上の存在に動揺してしまう。
そんなことを考えていたら約束の日があっという間に来てしまった。
楽しみだったのにモヤモヤしたままだ。
待ち合わせ場所に先についていたのは葵だった。駅を出た食べ歩きスポットに繋がる門の前であの日と同じように眼鏡をかけて髪を綺麗にアレンジして結んでいて、それだけで悟ることができる。彼女は雑誌でもドラマでも髪は下ろしているし眼鏡は掛けない。私はこれを汲み取って行動しなくてはならない。
とりあえず葵が楽しめるように努めようと思った。私の気持ちなんか二の次だ。
「葵、お待たせ。じゃあ行こっか?」
「由季!うん!先ずはここから近くのパンケーキにしよ?」
「良いよ、並んでないと良いね」
そこから歩いて直ぐの人気なパンケーキ屋に行った。昼時だからか少し並んでいたけれどすんなり入ることができて店の一番人気なパンケーキを1つ頼んで葵と食べあった。写真を撮って美味しそうな豪華な盛り付けのパンケーキに凄い凄いと目を輝かせて嬉しそうにしているから自然と笑顔になっていてさっきまでの気持ちは薄れた。
「本当に美味しいね。どうやって作ってるんだろう?」
「秘密のレシピってやつじゃない?ていうか作る気なの?」
「え?ううん。まぁ作れたら作ってみたいけど気になっただけだよ」
葵の料理への熱は凄いと思う。私は少し笑って茶化してみた。
「早く店開きなって、私毎日行くから」
「だから無理だってば。こないだも言ったでしょ」
冗談にもクスクス笑ってパンケーキを頬張る姿は可愛らしくて、でも同時に周囲の視線を気にしてしまった。すんなり入れて良かったねと然り気無く見渡して見るも葵に気付いた様子の人はいない。そこに安心してなぜか後ろめたかった。
パンケーキを食べ終わって、食べ歩きを始める。タピオカや、色とりどりのソフトクリーム、揚げられた可愛らしいお菓子、甘いものだけでなく肉まんやチキン、ポテト等様々な物を食べた。葵は嬉しそうに私の腕を引っ張って先導してきて子供のようで微笑ましかった。そして食べ歩きながら携帯で楽しそうに写真を撮って私に送ってきた。
二人で食べながら撮った写真、私が食べているのを撮った写真。笑って楽しくて、それに葵が本当に楽しそうにしているから浮かれてしまって周りの目がいつの間にか気にならなくなってしまった。
それが良くなかった。食べ歩きが落ち着いてペットボトルの飲み物を買ってそこから歩いて直ぐの海沿いの公園のベンチに腰かけて話していた時だ。ベンチから海を見ながらさっきの写真を見たり食べ物の感想を言ったりして笑っていた。だから、私も葵も気付かなかった。葵への目線が。憧れや熱の籠った眼差しが。
「あの、AOIさん?ですよね?ノーナのモデルの!」
「え?」
目の前に立ち止まったのは女の子三人組で、大学生のような風貌だった。あぁ、そうだった、私は女の子の嬉しそうな緊張した顔に忘れていたことを思い出した。葵は私に苦笑いをしてから立ち上がった。
「はい。そうです」
「あ、やっぱりそうなんだ!全然いつもと違うから違うかもって思ったけど良かった!私達ファンなんです。こないだのドラマも見ました!本当に可愛くて大好きです!良かったら握手してください!」
「ありがとうございます。良いですよ」
一生懸命な女の子に葵は少しぎこちなく笑うも一人一人と握手をしてあげて、女の子達は皆本当に喜んでいた。でもそれは私と葵が違いすぎてつり合っていないことを証明しているようでまたモヤモヤしてくる。
「これからも頑張ってください!ずっと応援してます!ありがとうございました!」
丁寧に頭を下げて嬉しそうに去って行く三人組に葵はやっとベンチに腰かけた。
「あの、ごめんね。私、その……」
気まずそうに言いにくそうにしていたから私から言った。葵は何も悪くないんだ。
「ファンがたくさんいるんだね。知ってたよ?葵のこと。まぁでも、知ったのは最近だけどね」
「……そうだったんだ。言わなくてごめんね?あんまり、言いたくなかったから……」
視線を下げてしまったけど聞いてしまおうと思った。私はいつも通りの口調を心掛けた。
「どうして?」
「信用してないとか、そういう訳じゃないんだよ?でも………由季の態度が変わったら…嫌だったから。有名人だからって今までと変わったら…やだった。この関係もなくなっちゃうのかなって思ったら…言おうとは思ってたんだけど…言えなくて」
罪悪感が胸を締め付けた。好きなのに嫌な思いはさせたくないのに、見透かされたようだった。私は葵の気持ちを裏切った。その現実に眉間にシワが入る。上手く気持ちが整理できない。
「…いいよ。それは。でも、私も最近知ったから気持ちが付いて来ないっていうか、よく…分からない。知った時は驚いたよ?有名な雑誌にも出ててドラマにも出てる。別人みたいだったよ。戸惑ったし……私とは世界が違う。それに……」
悲しそうな罪悪感を感じているような葵を見ていたら言い淀んでしまった。これを言ったら葵は悲しむ。それにもしかしたら今までの信頼が崩れるかもしれない。でも、誤魔化したりしたくなかった。それは事実だと思うから。
「他にも沢山いるでしょ?私なんかより良い人がさ」
「…えっ?」
理解できない、目はそう語っている。悲痛な面持ちが見てられなくて海の方に視線を向けた。私まで悲しくなってしまうけど笑って話した。言い訳のように。
「私は別に普通だし、特に何かある訳じゃないし……それに、最初はお礼だったじゃん?私達の関係って。さっきのもさ、握手してるの見て私よりもよっぽど世界が広くて手の届かないような人なんだなって思ったよ。だから悪いけど葵が芸能人だって知ってちょっと色々考えて態度を改めたっていうか……ごめんね。幻滅したね」
最後は視線を向けた。本当にそう思ったから。葵は目を潤ませてすがるように私を見ていて違うと呟きながら首を横に振った。止めてほしかった。何でこんなに惨めな気持ちになってるんだろ。
「私……私…そんなこと思わないよ?私がちゃんと言わなかったから…私が悪いよ。由季は、悪くない。……それに私、由季のこと………本当に大事で……」
「もういいよ。分かってるから。私、ちゃんと分かってるよ、葵のこと。ただ私がちょっともやもやして混乱してるの。だから気にしないで?そんな泣かないでよ」
途中で涙を溢しながら懸命に話す姿に思わず遮った。罪悪感でどうにかなりそうだった。だって、あんなに葵と仲良く過ごして喧嘩もしたけど悩みを聞いてまた仲良くなったのに。他の人が良いんじゃない?なんて、あんまりだ。
卑屈になりたくないけどこの現実に、初めてのことに私が私でいられない。
「由季は………私が友達になるの頼んだから……お礼だから……一緒に遊んだり……話したりしてくれてたの?」
「そんなことないよ。好きだけど色々考えちゃうだけ。今日もね、視線気にしたりなるべく人混みは避けてた。急に周りが気になってて………ごめんね」
「……いい!……いいよ?……私も好きだから…だから…許すから。謝らないで………」
ついには眼鏡を取って目を拭って俯いてしまう。彼女の素直で優しい所に泣きたくなる。それなのに私はなんで素直に受け取れないんだろう。心は荒れていた。優しく頭を撫でて片手は拳を握り締めていた。もうこれ以上は冷静に話せるか分からない。無償に怒りも込み上げてこれ以上は葵を傷つけるだけだ。
「今日はお開きにしよっか」
何も言わない彼女に優しく告げた。
「上手く解釈できなくて葵に嫌なこと言っちゃう。……また、日を改めよう?大丈夫。ちゃんと連絡もするから。ごめんね」
本当は分かってる。友達が好き同士ならそのまま仲良くすれば良いだけの話だ。ただそこに、私のくだらない私情が挟まって上手くいかないだけ。頭では分かってる。でも落ち着いて冷静に考えないとダメそうだ。こんな卑屈やだったかなと笑えてくる。
でも葵は、言いたいことがありそうなのに、そんな私に素直に従った。何も言わずに。
そして、その日は本当にそのまま別れてしまった。こんな時でも素直な彼女に自己嫌悪が増した。
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