好きをこじらせて

神風団十郎重国

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16話

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次のホストでも仕事とか日常のこと、好みのタイプや下ネタ、お酒が進むと本当にペラペラと色々話して楽しくなっていた。酒が入ると遠慮はなくなる。私は今まで大体のホストに思っていたことをホストに聞いた。

「お兄さんさー、そんな細くてまじでゲイじゃないの?」

「俺それ超言われるんですよ。そんなゲイに見えます?」

今時の痩せていてヴィジュアル系のようなホストは笑って言った。都会はこんな男で溢れていてゲイにしか見えないのは私だけなのか。

「見えるよね、歩美?」

「うん。絶対その道のやつらには人気だよ。なんか可愛い感じだし男に襲われそう」

「実は昔言い寄られたことあるんすよー。本当怖かったですよ」

「あはは、想像できるわ」

適当に話をして、三件目で飲み終わる頃にはもう結構できあがっていた。それもそのはず、焼酎のボトルは全部飲みきっていてほとんど二人で三本開けてしまったようなものだ。店側も驚いたろうに。
全部が全部同じような流れで軽く知らない男と話して酒を飲むだけだったがボトルは飲めたし満足ではある。

「あー、なんかいつも思うんだけどさ、ホストって安く飲めるけどそんなに楽しくはないよね?」

「あぁ、まぁ確かに?ま、でも初めてだったけど案外楽しかったし歩美いればいつも楽しいから別に気にならないわ」

「こいつ!私のこと大好きだな?よしよし。もっと飲ましてやろう!!」

店を出て少し足元が覚束ない私に調子を良くした歩美は頬をつついてから肩に腕を回してきた。体を揺らさないでほしいものだ。歩美はまだまだ飲み足りないようだ。

「もうすぐ終電だよ?」

「まだ時間ある!あと三十分だけ!立ち飲みでサクッと飲も!そこで今日のホスト反省会して帰ろ?」

「んー、うん。分かった」

たぶん帰してくれそうにないから仕方なく頷いて最近行くと言う立ち飲み屋に向かってハイボールで乾杯した。飲んだ後のこれはだいぶ効く。歩美は美味しそうに少し唸っていた。

「私は二件目のリョウタ君が好きだった!一番マシじゃなかった?顔がめちゃタイプだったんだけど」

「あぁ、やけにテンション上がってたやつね。んー、皆同じ顔だったよ。でも歩美の好みだろうとは思ったわ」

「バレてる!ま、私の本命はリュー様だけどな!こないだの漫画もやばかったけどアニメもかっこよすぎて胸キュン過ぎて死んだよ。はー、なんで次元違うのー。リュー様本人に貢がせて本当に」

酒を飲んでお通しを食べてまた飲む。歩美は本当にアニメが好きだ。よくグッズにお金を注ぎ込んだ話を聞くが変な男に注ぎ込んでいるよりかはマシだ。

「さっき話してたやつか、お酒飲み歩くよりは安い出費だと思うけどあんまり注ぎ込むなよ。身を滅ぼすぞ」

「もうガタガタだから良いの。ていうか三件目の拓己とか言うやつ本当ブスだったね?魚介類顔ですって言ってたけど本当過ぎて震えたんだけど、深海魚かってなった」

「震えたって言うか大笑いしてたじゃん?!私はそれに震えたよ。確かに魚介類ではあったけど歩美笑いすぎてて私あんまり笑えなかったし止めてほしかったわ」

言葉通り歩美はその時大笑いしながら酒を飲んでいたのを思い出した。

「はい!もうやめて!そんな昔話私は忘れた!とりあえず飲もう!」

「えぇ?なんなのよ全く」

この調子でさっきのホストの反省会は思ったよりも弾んでホストより楽しかったかもしれない。終始ホストの感想とアニメの話で三十分きっかりで解散した。歩美はまだ元気だし話足りなさそうにしていたが次回また飲むことを約束した。

本当に同じ量を飲んだとは思えない。吐き気を催すレベルではないけど胸の鼓動はドクドク早いし思考は鈍いし顔も結構赤くなっている私とは大違いでいつも通りの顔をしている。凄いやつだと感心する。
二杯も飲んだのに歩美は颯爽としっかりした足取りで普通に帰って行って、私は覚束ない足取りで電車に乗ると最寄りまで少しうとうとしていたから着いてから慌てて降りた。

寝過ごさなくて良かった。ほっとするも頭はくらくらする。こりゃ、最後の立ち飲みが効いたようだ。真っ直ぐは歩けないけど家までの道のりをゆっくり歩いた。
明日は二日酔いかなとぼんやり考えて今日初めて行ったホストになんだか浮かれた。
ハマることはないと思うがお酒は飲めるしいろんな人と話したのはまぁまぁ楽しかった。歩美には感謝だ。後でお礼の連絡をいれとくか。
あと少しで家につく、そう思っていたら足が躓いて派手に転んでしまった。手が擦りむけて膝に痛みが走る。鞄が転がってしまった。

「いったぁ」

痛すぎて思わず声が漏れた。痛くてすぐに動けない。この年で転ぶとは情けないが酔っぱらいにはよくある話だ。膝はアザになるだろうし掌からは血が滲んでいる。折角楽しかったのについていない。鞄を取って痛む膝を擦って立ち上がる。そして目の前にいつの間にかいた人物に驚いた。酔っていて人の気配に気づかなかった。

「え?あ、葵?どうしてここに………」

葵はあの日と変わらずに眼鏡を掛けて髪を結んで、私の前に立ち尽くしていた。驚く私に少し気まずそうに自分の腕を掴んでいる。

「えっと……いきなり来てごめんね?連絡したんだけど見てないよね?早く連絡すれば良かったんだけど…充電切れてて気づかなくて」

「あぁ、連絡してたのか。ごめん見てないや。さっきまで友達と飲んでて。とりあえず家来て?もう終電ないし、泊まっていきな?あ、予定とかあったらあれだけど大丈夫?」

私の誘いに驚いたように反応するけどこんな夜中に危なくて帰せない。

「い、いいの?予定はないけど、…嫌じゃない…かな?」

「全然。こんな夜遅くに帰せないよ。危ないしさ。ほら、早く行こ?結構待たせちゃったよね?ごめんね」

「ありがとう。そんなには待ってないから大丈夫だよ。それより、手……大丈夫?」

先導しようとしたら手を優しく掴まれて心配そうに見つめられた。どうやらさっきのは見られていたようだ。大の大人が転べばそりゃ大きな音もするし、その音で近寄ってきたんだろう。葵は私の家の方から来ているし。ばつが悪くて少し笑った。

「ああ、まぁ痛いけど自業自得だから。よくあるし大丈夫だよ。ほっとけば治るよ」

「ダメだよ!後で消毒してちゃんと絆創膏とか貼っとかないと。私がやってあげるから。他に怪我してない?」

本当に心配した口ぶりにたじろぐ。こういうとこはなんだか年上に見える。

「え、あぁ、あと膝もぶつけた」

「じゃあ膝も後で見せて?本当に飲みすぎちゃダメだよ?擦りむいたくらいだったから良かった………ていうか良くはないけど心配するから」

本当にそう思っているんだろう、その顔色は心配そのものだ。まぁ確かに出会いも飲み過ぎが原因だし仕方ない。それに、よく気を付けるようにも言われていた。そんな葵に罪悪感が涌いて素直に謝った。

「あぁ、うん。記憶無くすくらいまではあんまり飲まないようにはしてるけど…ごめん。反省します」

「なら良いけど、程々にだよ?」

「うん、分かってるよ。ほら早く行こ」

なんだか上手く話せているかもしれない。私は葵を先導しながら少しほっとした。まだ本題は話ていないけど昔みたいに話せている。家につくと鍵を開けて葵を招き入れる。電気をつけて鞄を置いてベッドに横になった。なんだか疲れてしまった。

「あぁー、よく飲んで疲れた」

「由季、私さっきコンビニで適当に色々買ってきたから冷蔵庫に入れとくね?」

「あぁ、ごめん。ありがとう」

気を利かせてくれてありがたい。体を仰向けにしているから電気が眩しくて少し目を閉じているとベッドの脇に葵が来た気配がした。

「由季、水飲む?」

目を開けると水の入ったペットボトルを持っていて心配そうに見ている。上体を起こしてお礼を言って一口飲む。葵は私が水を飲んでからペットボトルを取って机に置いてくれた。そして遠慮がちにベッドに座ってきた。

「体調、平気?具合悪くない?」

「大丈夫、大丈夫。飲んだけど落ち着いたから。心配しないで」

「なら、良いけど」

それきり会話が途絶えてしまった。葵はそれでも何度か口を開き掛けて視線を下げてしまっている。連絡して次の日に来てくれた葵も話したかったのだろうけど何て言ったら良いか分からないんだろう。色々考えていそうな顔は不安げだった。
ちゃんと私から話さないとダメだ。お酒のせいで思考は鈍いけど逆にお酒のおかげで素直に色々話せそうだ。

「葵、ごめんね。こないだ電話であんなこと言っちゃって。本当にごめん」

私の謝りにようやく視線を上げるも不安げな表情は変わらない。

「うん。……大丈夫だよ。ちょっと悲しかったけど…でももういいよ」

この子の変わらない優しさにあの日のイラつきはなくて、本当に申し訳なく思った。

「ごめんね。ありがとう。私さ、葵のことちょっと僻んでたのかも。葵は有名人だから何でも上手く行ってて何でも手に入るって思ってて。だから何で私のこと大切にしてくれるんだろうって。葵に比べたら私なんてって自己評価が低くなってモヤモヤしちゃってあんなこと言っちゃったんだけど、本当に私普通だし何もないから。…その、頭が良い訳じゃないし、凄く良い人って訳でもなくて、なにかあげられる訳でもないから私一緒にいて大丈夫かなって思ってさ。それに、何でも持ってるくせに私に何を求めてるのって勝手に妬んでイライラして、本当にごめん」

カッコ悪い自分の胸の内を話した。言いたくなかったけど言わないといけないと思った。じゃないと今までに戻れなさそうで私は誠意を込めて謝った。
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