好きをこじらせて

神風団十郎重国

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33話

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葵の告白を受けてから気まずくなることもなく私達は変わらなかった。気持ち的には大きく変わったかもしれないが、やっていることは本当に今までと一緒だった。前より葵が少しよそよそしいけど、たぶん照れているのでそこまで気にならない。だって、よそよそしい癖に私をよく見つめている。あんなに熱い視線を送られて気づかない訳がなく、可愛らしくて私はよくからかっていた。葵はいつも恥ずかしがって顔を赤くしていて本当に可愛いらしくて葵らしい。

季節はもうすぐ夏で気温がかなり上がってきた。暑くなってきているので正直出歩くのがしんどくて、職場までの距離も長く感じて汗が滲むのが分かる。この季節は苦手だ。
そんなある日、職場から帰って自宅で風呂に入ってからのんびりしていたら、遥から連絡が来た。

[旅行の日程を今月末の木金土あたりにしたいんだけどどうかな?ちなみに●●県に行く予定です!!]

その文面の後には、詳しく宿のHPや写真まで付けられている。本当に決まったのかと少し驚きながらも返事をした。

[大丈夫だよ。色々ありがとう楽しみだね]

今月に入ったばかりだからまだ有給も取れる。私は宿のHPを見ながら楽しみに顔を綻ばせた。遥と葵が考えた旅行は楽しくなりそうだ。

旅行の日程が決まってから葵は、それはそれは楽しみにしていた。電話でも文面でも葵は上機嫌で旅行が待ち遠しくてたまらないようだった。そんな葵もドラマの収録が終わったらしく仕事が落ち着いたようだ。少し疲れていたようだったし番宣があると言っていた矢先に葵はいきなり私の家にやって来た。私の休みを狙って泊まる予定だったのか休みの前日に押し掛けてきたのだ。

確かにその日は予定はあるか聞かれていたけどこんなことは初めてだった。最近会ってなかったから会いに来たんだろう。
部屋に上げると控えめに謝ってきたけどいつも通り許してしまった。

「いきなり来てごめんね?」

「別に、いいよ。びっくりしたけど珍しいね。仕事が忙しそうだからしばらくは会えないと思ってたよ」

「それは、そうだけど。最近遊べないし…由季に会いたいなって、思って……う、ウザい?」

「もー、あのね、前から言ってるけどウザくないよ。」

たまに積極的な癖に自信がない葵に笑う。そして、いつもなら真横に座るのに今日はテーブルを挟んで横に座ってきた。告白をしてから本当によそよそしくなっている葵はそれがあからさまだけど、私は特に気にしない。葵はチラチラ私を見ているから、また照れてるんだなと思いながらいつも通りに話をした。

「……ありがとう。あとね?明日は仕事、午後からだから…泊まっても良い?」

「良いよ。そのつもりで来たんでしょ?」

「そ、そうだけど……」

またネガティブな発言をしそうだから私から切り出した。葵は告白してからも自信が無い。

「あ、それよりドラマお疲れ様。ちゃんと見てるよ」

「うん、……ありがとう」

葵は笑うけど少し疲れが伺えた。疲れてはいるけどわざわざ会いに来るなんて、嬉しいけど少し心配だ。それから少しドラマの話をしてから葵に風呂に入るように促した。ご飯は食べてきたみたいだから後は寝るだけだ。風呂から出た葵はもう眠そうだった。

「もう寝る?疲れたんじゃない?」

「…んん。…でも、今日あんまり話してないよ……。話したい」

「ん、でも眠そうだよ?明日にしようよ」

葵はベッドにいた私の前に以前のように密着して座ってくる。目を擦りながら眠そうにして。素の葵に笑いながらいつもみたいにお腹に腕を回して後ろから抱き締めるようにすると凭れ掛かってきた。

「でも……話したい」

「じゃあ、…少しだけね?」

「うん」

子供のような葵。葵の我が儘にしょうがなく頷くのは私の癖みたいなものだ。すると早速葵が口を開いた。

「最近、誰かと遊んだ?」

「ん?最近はそうだね、うちで遊んだよ」

「誰?名前は?…どんな人?」

「歩美っていう女友達だよ。よく遊ぶ友達。こないだはゲームやったんだよ」

「ゲームだけ?」

「うん、ゲームして色々喋ってたかな、いつもそんな感じだから」

葵は最近こうやって私の近状を詳しく聞いてくる。告白してから前までは聞かなかった私の交遊関係を知りたがったり、何をしていたのか細かく聞いてくるのだ。私を監視してくるようなそれは不安とか色々な気持ちからなんだろうけど私はやましいこともないし、正直にいつも答えている。最初は少し驚いたけど葵はそういう子だから気にしていない。別に私はそれが悪いとも嫌だとも思っていないから。

「……私も最近してないのに…ずるい」

葵は拗ねたように呟くから、思わず頭を撫でてやる。

「そうだね。最近やってないからやろっか?貸してもらったソフトあるけど葵が好きそうなのあるから、明日少しやる?」

「やる。……ねぇ、他には…何かした?」

頭を撫でられるのに気を良くした葵は腰に回していた手を握ってきた。

「他?んーん…最近はあんまり飲みにも行ってないからなぁ。それくらいかな?もうすぐ旅行だから一人で服買いに行ったりしてるよ」

「そっか。旅行楽しみだね、由季」

「うん、本当楽しみだね。葵は仕事、大丈夫そうなの?」

「平気だよ。最終日の午後は仕事だから早めに帰らなきゃだけど。…すっごく楽しみ」

「そうだね」

葵は本当に嬉しそうだ。仕事が忙しい葵が一番楽しみにしていたし旅行までもうすぐだ。私も本当に楽しみである。

「由季、思い出いっぱい作ろうね?」

「もちろん」

「由季達と色々回りたいからいっぱい遥ちゃんと話したんだよ?初日はね…」

楽しそうな葵の話を聞いていると少ししてすぐにまた眠そうにしだしたから、私は今度こそ話を切り上げて寝ようと誘ったら頷いてくれた。ベッドに入るとしっかり抱き付いてきたから笑って受け止めてそのまま眠りについた。葵は本当に眠かったみたいでベッドに入るとキスをねだることが多かったけど、すぐに眠ってしまって小さく寝息をたてていた。それが可愛らしくて私は優しく背中を撫でた。


それからあっという間に旅行当日。旅行のメンバーは翔太、透、遥、葵、私だ。葵はお昼まで仕事だからそれに合わせて私達は待ち合わせをした。透が車を出してくれて、それぞれを駅等で通りすがりに拾った。それぞれに適当に挨拶をして高速道路に乗って目的地に向かう。レイラはずっと興奮気味に旅行雑誌とお菓子を持っている。

「今日晴れて良かったね!!あー楽しみ!楽しみ過ぎて昨日寝れなかった!あ、さっきコンビニでお菓子買ってきたから皆食べてね!」

「うん、ありがとうレイラ。●●県までどのくらいなの?」

私の問いに車を運転している透はカーナビをちらちら見ながら答えた。

「あと二時間ちょっとかな?」

「まずは滝見に行くよ滝!!それからお城!」

レイラはお菓子を開けながら楽しそうにしている。こないだ葵が話していたなと思い出した。

「滝かぁ、涼しそうで良いな。レイラにしてはよく考えたな」

「私にしてはって何それ翔太!しかもこれは葵ちゃんが考えたの!ね?葵ちゃん」

「うん、涼しそうで良いかなって」

翔太の言う通りに私も思ったが、葵が色々まとめてくれたみたいで有難いし申し訳ない気持ちになる。でも、レイラと上手くまとめたみたいだ。

「葵ちゃんナイスだよ本当に!楽しみだね。あ、由季も翔太も行きたいとことかあったら言ってね。大まかには決まってるけど雑誌あげるから読んで」

レイラはさっき持ってた雑誌を助手席にいた翔太と隣に座っていた私にくれた。それからレイラはドラマの話をマシンガンのように葵にしていて、葵はたじろぎながら答えていた。レイラを止めるのは私にも難しいから見守っていたが、車中は雑誌を読んだり行き先を悩んだり皆楽しそうだった。

そして、やっと目的地について車から降りる。長く座っていたから少し体を伸ばして歩いて近くにあるという滝まで行くことになったが、レイラは葵を引っ張って先に行ってしまった。全く。せっかちなレイラに呆れる。

「由季、今日は飲むだろ?」

「え?」

歩いていたら隣に来た透はにこにこ笑って聞いてきた。嫌な予感しかしない。

「最近飲んでねーだろ?」

「また、私のこと潰す気?旅行来て二日酔いなんて勘弁してよ…」

せっかく楽しみに来ているのに具合を悪くするなんてごめんだ。なのにこいつは笑いながら肩を叩いてくる。痛い。

「まぁまぁ、少しで良いから。ちょっと飲もーぜ?」

「………本当に少しね」

信用はないけどとりあえず返事をした。翔太はそれに笑った。

「由季が警戒してる。まぁまぁ、今日は少し飲もうよ?久々だし」

「翔太まで?いやでも、葵は飲めないからそんなに飲まないよ?」

「あー、そーいやそんなこと言ってたな。葵ちゃん飲めないのか…」

透は残念そうに呟いたけど葵はお酒に関しては口煩く飲みすぎないように忠告してくるから私は自然に葵の前であまりお酒は飲まないようにしていた。

「じゃ、本当にちょっとにすれば良いだろ、それにしても本当に綺麗だよなー。俺こないだのドラマも見たけど、由季本当に仲良いのか?」

翔太が疑いの眼差しを向けてくるとすかさず透は便乗した。

「それな!由季と友達って本当に疑わしいよな。おまえ金でも払ってんだろ?」

二人して疑惑の目を向けてくるなんて、なんなんだ一体。バカ過ぎて呆れてしまう。

「あんたらいい加減にしないと滝に沈めるよ?残念ながら友達です。あ、ほら滝見えたよ」

「あ、本当だ」

少し滝が見えてくると先についていたレイラと葵はこちらに気づいて手を振ってきた。私達はレイラと葵の所まで来ると水が勢いよく上から流れてきていて、それは本当に涼しげだった。蒸し暑い気持ちが薄れていくし滝の音は凄いけど近くで見ると迫力があって綺麗だ。歩いた甲斐があった。

「由季達遅いよ!超綺麗じゃない?滝!」

「そうだね、人も全然いないしラッキーだね」

水を触りながらレイラは嬉しそうにしていると透も水を手で触りだした。この二人は何だかんだ似ている。

「なんかこんな綺麗なの久々に見たな、水冷たくて気持ちーな!」

「でしょでしょ!透せっかくだから泳げば?」

「はぁ?死人が出るだけだぞ」

「うわー、泳げないの?だっさー、溺れたら大笑いしてあげるよ」

「せめて、浮き輪くらい投げろよ」

透はレイラと冗談を言いながら話ていると、葵は滝を見ながら私を横目で見てきた。今日も相変わらずよそよそしい葵は私と話したそうにしていたから見かねて話しかけた。よそよそしくされても私は内心可愛いなと思うだけだ。

「綺麗だね、葵」

「…うん。皆喜んでくれて良かった」

「こんなに綺麗でびっくりだよ」

顔を見合わせて笑うと、今度は翔太が携帯で写真を撮り出した。

「これは記憶に納めたい」

「あ、翔太写真撮って!皆写してよ?滝も!」

レイラは思い出したように水を触るのを止めて私に横から引っ付きながら言う。告白の件があってから葵の前では止めてほしいけど言う訳にもいかず私はそのまま写真に写った。

「はいよ。はい、撮るよー、動くなー」 

何枚か写真を撮ってその写真を我先にレイラは確認しに行っていると、控え目に葵が寄ってくる。

「由季、写真…撮ろ?」

「ん?良いよ」

葵は自分の携帯を持ってカメラに切り替えて滝をバッグに写真を撮る。頬が触れるくらい近づいたから葵は恥ずかしそうにしてたけど写真は上手く撮れたみたいだ。

「よく撮れたね。あとで送って?」

「うん、いっぱい撮ろうね?」

「もちろん」

二人で確認しながら笑う。葵も嬉しそうで安心したけど葵は控えめに皆には聞こえないようにこっそり耳打ちしてきた。

「二人の、だからね?」

「え?……分かってるよ」

それも含めて返事をしたのに、ちゃんと確認してくる葵に笑顔になってしまう。私なんかで良ければ写真なんかいくらでも撮るつもりだ。
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