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60話
しおりを挟む葵と喧嘩をしてから私はとりあえず連絡をして謝ってみるものの、一向に返事は来なかった。見てはいるんだろうけど電話にも出てくれない。本当に怒っているんだなと思うけど上手い謝り方が思い付かない。
そんな日々を過ごしながら私は思い切って葵の家に行ってみることにした。会って謝った方が良いし会えば無視はしないだろう。だけどそれも上手くはいかなかった。
鍵は貰っているけど今の状況で勝手に入る訳にもいかずインターホンを押した。だけど出て来た葵はあの日と変わらないし空気は重い。
それでも葵は玄関には入れてくれたけど部屋に上がらせるのを拒むように私の前に立ち尽くした。そして、開口一番に既に怒っていた。
「……なに?」
葵の声からも怒りが伝わる。部屋に入れてくれるだけでも優しい方かもしれない。
「あの、こないだは本当にごめん。連絡しても返事してくれないから来たんだけど、本当にごめんね」
「……」
何も言わないけど顔は怒っている。こうやって喧嘩をするのは初めてで、しかも葵がこんなに怒るのも初めてで、私は気まずくなる。でも理由をちゃんと説明しないとならない。
「あー…あのね?あれは葵に満足してないとかそんなんじゃなくてね、あれは」
「聞きたくない」
「え?」
思わず聞き返してしまった。改めて説明をしようとしたのに葵はそれすらもさせてくれないみたいだ。
「もう、聞きたくない」
さらに強く言う葵に勘違いされたままなのは嫌だから私は引かなかった。
「いや、でも聞いてよ?こないだ葵が言ってきたのは勘違いでね、私…」
「もうやめてよ!」
葵が少し大きな声を出して止めてきた。聞く耳を持たない葵は怒っているのに悲しそうな顔をしている。
「女の人……専用の、風俗があるの……調べた。私に会えない時に、行ったりしたの?」
私の信用はあれのせいでがた落ちで身に覚えのないことも疑われている。葵は私を信じられないみたいだ。あんなの見つけたらそうなってしまうのは仕方ないし私が悪いけどここはしっかりと否定した。
「そんなの行かないよ。私は葵以外とはキスもエッチもしてないよ。葵以外見てないし、いつもしてる連絡も嘘じゃない。ちゃんと守ってるよ」
「……信じられない」
葵は腕を組んで自分の腕を強く掴んでいる。疑心暗鬼に陥っている葵にこれ以上色々話しても怒らせて無意味な気がした。この喧嘩は長引きそうだ。私は冷静にそう思いながらとりあえず事情を説明することにした。
「信じられないかもしれないけど説明だけさせて?あれはね、私も葵も女の人と付き合うのは初めてだからエッチのこと調べたりしてて気になって買ってみたんだけど、何か違うなと思って最初だけ見たけどほぼ見てないよ。自信がある訳じゃないけど、そこはお互いにやりたいようにすれば良いって最終的に思ったから。それからはネットで調べたりもしてないし、ああゆうの買ったりもしてない。風俗とかも本当に行ってないよ」
「……」
葵は黙って視線を下げてしまった。あの日説明すれば良かったけどこの様子だと色々考えて納得なんかできてなさそうだ。葵は今冷静じゃないから仕方ないし、信じてた私が裏切ったと思っているのが強いんだろう。後悔しても今は変わらない。葵は何も話さなさそうだから私から切り出した。
「勘違いさせてごめんね。あれは捨てようと思ってたんだけど忘れてたんだ。私が悪いからそこは本当にごめん。軽蔑して信用できないのは仕方ないけど、でも、本当だから。私には本当に葵だけだよ。不満なんかないし葵が本当に好きだよ」
「……」
それでも葵は黙るから、私は思わず苦笑いしてしまった。冷静に考えられないだろうから今は離れないといけない気がした。しばらくは会わない方が良いかもしれない。私もこれは心でしっかり反省する。
「あの、とりあえず今日は、それだけ謝りたかったから言いに来ただけだから……もう帰るね?しばらくは会わない方が良いかな?まぁ、でも連絡はするから。体調、気を付けてね?あと戸締まりとかも。じゃあ、本当にごめんね」
葵は最後まで黙ったままだったけど私は部屋を出た。これで時間が解決してくれると思ったけどそれは甘かった。
ちゃんと謝ったけど、それから私達はぎくしゃくしたままだった。
連絡しても葵は変わらずに返事をしないし電話も出ない。これは本当に、どうしたら良いのか分からなかった。葵は初めてのことに酷く動揺して傷ついたんだろうけど私も謝るしか術がない。また会いに行って謝ろうかと思うけどこの感じだと前と一緒な気がするし、しつこく謝っても信憑性が逆に欠ける。
本当にどうしよう。こう長く無視というか話せないでいると私も落ち込むし寂しくてため息ばかり出てしまう。
そんなある日、私は翔太のバーに来ていた。かなり傷心気味の私にはやっぱりお酒しかない。でも、前に葵には飲み過ぎないように言われて約束したからそこまで飲まないつもりだったけど今日のメンバーを見ると酷いことになりそうだと思う。
「私、次はアラブの石油王でも引っ掻けて日本を高飛びしようと思う。これ、今年が終わるまでの目標」
そう言ったのは翔太のバーで度々顔を合わせて一緒に飲んでいた郵便局員の堀ちゃんだった。この子は可愛いけど合コンが大好きでバーにも出会いを求めに行っていて、会う度に男の話が尽きない。いつも生き生きしてるし人生を謳歌してて良いと思っていたけど、最近彼氏と別れたらしい。理由は、将来性が見えないから堀ちゃんから別れを切り出したみたいだけど、将来のことをまともに考えているのが意外だった。
「目標でかくない?今年が終わるまでもう半年切ってるけど」
私はお酒を飲みながら堀ちゃんのよく分からない宣言に突っ込むけど、堀ちゃんは絶望したように頭を抱えた。
「だって、私の将来設計が間に合わない!」
「は?将来設計?何か計画してたの?」
こんな話したことなかったから気になって聞いてみたら堀ちゃんは途端にふざけてるのか真面目なのかよく分からない顔をした。
「してたよ!私、とりあえずベビーカー押したいの!!」
「……え?ん?なんで?いきなり何なの?よく分からないんですけど」
酒飲みって唐突に訳の分からないこと言う人が多いけどいきなりベビーカーと言われても私も困る。そんな私に堀ちゃんは酒を飲みながら詳しく説明してくれた。
「私は今すぐにでもベビーカーを押しまくりたいの!とりあえず三十までに子供が二人欲しくて色々考えてたんだけど前の彼氏がカスだったから時間無駄にし過ぎて、すぐにでも産まないと間に合わないの!腹からじゃなくて口から産みたいくらいだよ!」
「…あー、そういうこと。でも今…二十七?でしょ?厳しすぎない?即日結婚して双子ができたら希望あるけどもう時間ないじゃん。飲んでる場合じゃないよ」
素敵な将来設計だけど私の正論に堀ちゃんは今度こそ真面目な顔をした。
「そうなんだけど聞いて!だからアラブの石油王とかを引っ掻ければあっちは一夫多妻だから即日結婚可能だしお金も安定だし私の将来設計に申し分ないと思うの!」
確かに堀ちゃんの言ってることは合っているのかもしれないが問題がある。ていうか、発想に感心するけど私はとりあえず思ったことを口にした。
「でも、国籍も言葉も違うよ?」
「そこはお金でカバーよ」
「結局金?!」
驚くも堀ちゃんは染々頷いた。
「うん。私は大体の幸せはお金があれば何とかなるということを最近学んだ」
さっきの将来設計は何だったのかと思うけどそれならそれで三十まで頑張ってほしい。だけどそんな堀ちゃんに横やりが入った。
「おまえは絶対無理だろ。まず頭がバカ過ぎる」
私の隣に座っていた偶然居合わせたよっちゃんが鼻で笑っていた。この二人は仲が良い時もあるけど大体喧嘩みたいになっている。今日も私を挟んで喧嘩が始まりそうだった。
「はぁ?あんたみたいなフラれまくりのゲイに言われたくないんですけど」
「僕はバイだ。それにまだアプローチしてる最中だしフラれてない」
「なに強がってんの?こないだも駄目だったくせに。いつまで追いかけてんだよ。マラソンかよ」
本当に喧嘩してる訳じゃないけど言い合うのは止めてほしい。止めないと二人はヒートアップして言い合いながら飲んでなぜか歌い出す。とりあえずいがみ合う二人に宥めるように苦笑いする。
「まぁまぁ、久々に会ったんだし仲良く飲もうよ?翔太も何か言ってよ」
傍観していた翔太に話を振った。一人だけ逃がす気はない。翔太はいきなりのことに少し驚いていたけどとんでもないことを言い出した。
「え?俺?……うん、よっちゃんさ、もう俺にしとけば?俺、大切にするよ?」
「「え?!」」
話を振っただけなのに、思いがけない展開に私と堀ちゃんはハモった。このタイミング?私と堀ちゃんは同じことを思ったと思う。
「由季、何かドラマが始まってない?!」
堀ちゃんはさっき怒ってたくせに目を輝かしていた。
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